第15話 爪と牙
さて……武器を構えたはいいものを、どうやって戦おうか。アクアポイズムは間合いを測っているようだった。
「僕が支援するよ」
プシケが短剣を手に取る。イリスはテュケーの様子を見るために、少し離れたところで待機してもらうことにした。テュケーの怪我は大丈夫だとは思うが、念のためだ。プシケが薬を渡していたし。
とりあえずは相手の攻撃を見切らないと。あの素早さはかなりまずいな。
アクアポイズムが一歩踏み出す。と、次の瞬間アクアポイズムは俺の背後にいた。同時に横腹に強い痛みが走る。
「うぐ……。速すぎるな……」
もう一度アクアポイズムは俺に向かって構えた。その間に、盾を構えたプシケが入る。
プシケは短剣を左手に持つとアクアポイズムを睨む。
プシケは短剣と同時に持っていた回復薬を落とす。
「使いなよ。そんなに高いものじゃないしさ」
「助かる。ありがとう」
俺はその薬を拾い上げると一気に飲み干した。みるみるうちに傷がふさがっていく。どうやら、テュケーにもこれを使ったらしい。
アクアポイズムが突進してくる。しかし今度は簡単には突破されない。俺の目の前にいる少女が護ってくれるから。
プシケは盾を押し続けているアクアポイズムの背中に短剣を思い切り差し込んだ。アクアポイズムは暴れて、吠えながらもう一度距離をとった。
俺は武器を弓に変化させると、プシケの影に隠れて、それを射る。
アクアポイズムはもちろん簡単にかわす。
「くそっ。やっぱり無謀か」
「やっぱりあれを使うしかないね」
テュケーはそう言うと、短剣を地面に落として、何やら魔法を唱えた。
『エースピード』
その魔法は光り輝いて俺を包み込んだ。どうやら俺に効果が現れる魔法のようだ。
「その魔法は一時的に素早さを上げる魔法だよ。それなら戦えるんじゃない? あまり使いたくはなかったんだけどね」
身体が軽い。俺は武器を再び剣にした。アクアポイズムはこちらの異変に気付いたらしい。だが、アクアポイズムにはそれが何か気づくほどの能力はなかったようだ。
今度は俺が一気に間合いを詰める。そして、そのまま両前脚を切断する。血飛沫とともに、そのモンスターの悲鳴のような鳴き声が辺りに響き渡る。
アクアポイズムは残された力を振り絞って、噛み付いてくる。俺は剣を噛ませると、そのモンスターを殴り飛ばした。
物理のダメージはほとんど入らないが、飛ぶのは飛んでくれたようだ。飛んでくれたならそれでいい。あとは彼女が処理をしてくれる。
アクアポイズムが飛んで行った先には一人の少女が立っている。
『雷霆』!
テュケーはそう叫んだ。一筋の雷がアクアポイズムに向かって走る。両前脚を失ったアクアポイズムにそれをかわすことなど不可能に等しかった。
アクアポイズムはもろにその電撃を受け、今度こそ倒れて動かなくなった。
プシケがその場に座り込む。どうやら彼女は限界が近かったらしい。イリスはゆっくり申し訳なさそうに歩いてくる。
「すみません。私ほとんど何もできませんでした」
イリスは暗い顔で俺たちに謝ってくる。正直いろいろ助かったこともあったけどな。
「だけど、毒の霧に突っ込もうとしたテュケーを止めたのはイリスだろ。それがなければ危なかったと思うぞ」
俺の言葉にイリスはあまり納得していなかったようだが、それでも少しは気が楽になっただろう。
俺たちはゆっくりと街に帰ることにした。
帰りながら今回の反省会を開く。
「なあ。なんでプシケはあの魔法を早くから使わなかったんだ?」
プシケは申し訳なさそうにその質問に答える。
「早い話、僕がフルコンするのに6時間かかるからだよ。なるべく使いたくなかっただけだね」
そうか。魔法って言ってもホイホイ使えるものじゃなくて、魔法によって使うための準備力が違うのか。そうなると確かに大技はあんまり使いたくないなぁ。
「そうなると私もまだまだですね……。虹魔法も全て揃えてここに来たわけではありませんし……」
イリスも辛そうに言う。
「まあ、正直難しい譜面だしな。その点に関してはちょっとずつ上手くなって、簡単に魔法が使えるようになればいいな」
「そのつもりで頑張るよ」
結局この会議はプシケとイリスがもう少し魔法をしっかり使えるようにしますと、全員で気を配って、不意打ちをされないように気をつけようということで結論づいた。
結局この日はそこの街で睡眠をとった後、次の日いつもの街へ戻っていった。