第14話 本質
アクアポイズムは高速で毒を飛ばしてくる。俺たちはそれをしっかり見ながら取り敢えず避けることにした。
外れた毒が後ろの木に当たって朽ち果てる。それほどあの毒は強力なのだ。
「なるべく近くで、魔法を浴びせば倒せるんじゃないか?」
魔法といえども、やはり近距離の方が威力が高い。遠くだと威力が減衰してしまうからだ。
「そうでしょうね。私が行くわ。援護して」
確かに1番素早さの高いテュケーに任せるのがいいだろう。
俺は槍を取り出すと、軽く念じてその形を弓にした。
「行くぞ!」
俺は弓を引いてアクアポイズムに向かって撃ち放つ。
しかしやはりアクアポイズム。持ち前の素早さで、いとも簡単にその矢を避けた。
しかし避けた先にはイリスが待ち構えている。イリスは直ぐに魔法を放った。
『虹色の魔曲・黒鉄の暁闇』
あの黒い刀のようなものが、アクアポイズムに切り掛かる。アクアポイズムはさすがに避ける暇もなく、思い切り当たった。
ダメージはそこそこに、どうやら目潰しの効果がついたらしい。その隙にテュケーが近づく。テュケーは再び雷系統の魔法を剣に纏わせると、勢いよく切り掛かる。
と、次の瞬間アクアポイズムはプルプル震えだした。プルプルは徐々にブルブルとなり、周りに毒の粒を撒き散らしていく。
「テュケー! かわせ!」
「わかっているわよ!」
テュケーはそう言うと空気を蹴って方向を変えた。人間技じゃねえ。
アクアポイズムはプルプル震え続けている。どうやら、今のところやめるつもりはないらしい。
「ここから魔法撃ち込むか?」
「そうね。それもありかもしれないわね」
テュケーがしばらく考える。そしてテュケーはプシケを呼んだ。作戦を伝えているようだ。
「取り敢えず正面突破は無理そうだから、まずはやはり魔法を打ち込むわよ」
ってなるとイリスに任せればいいのか。魔法のエキスパートだもんな。
「任せたわ。カヅキ」
「……え? ちょっと待って! ここは明らかにイリスに任せるべきなんじゃ」
テュケーは真剣な顔をすると、持っている剣を眺めながら。
「多分だけど瞬間的な火力だともうすでにカヅキの方が高いわよ。だから任せるわ」
テュケーはそう言って剣を仕舞う。瞬間的な火力か。ランクは確かに上がってきたけど、そこまでじゃない気もするが……。
「その後は私がプシケを連れてあいつの元へ突っ込むわ。雷を受けてひるんでいる隙に、プシケに『自己の発電力』って技を使ってもらうわ。あの炎技の電気が版みたいなものよ」
そう言ってテュケーはプシケを抱えた。イリスはいざという時のための援護。何か不都合があったら直ぐに知らせる係りでもある。
そして作戦開始の合図が送られた。
俺は取り敢えず、アクアポイズムに魔法を打ち込む。
『雷霆』!
ライトニング・ボルテッシモとは異なり、一本の雷撃がアクアポイズムに向かって飛んでゆく。アクアポイズムはもちろんそんなものは見えないし、気づくこともできないようだ。
凄まじい衝撃音とともにアクアポイズムに魔法がぶち当たる。あまりの衝撃で砂埃が舞っているそのタイミングを見計らって、テュケーが飛び出す。そしてプシケはいつでも魔法が使えるように、最後の一言を残して待機していた。
と、その時1つの声が響く。
「ストップです! 止まってください!」
イリスが大声で叫ぶ。それに気づいたテュケーは動きを止めた。そしてテュケーは直ぐにイリスがその指示を出したのか察した。
テュケーの数メートル先は砂埃ではなく毒の霧が発生していたのだ。
「こんな技も残っているのか……。こいつ意外に討伐報告少なくて、詳しい生態がわかってないとは書いてあったが」
テュケーは一度下がって距離をとる。
くそっ。やられたな。あれじゃ近づけない。それに風向きが変わればかなりやばいぞ。今はこちら側に向かって吹いてないから大丈夫だか、こっちに吹き始めると危険だ。
そこに風が吹いていく。するとその風は毒の霧をさらっていくと、アクアポイズムの姿が現れた。
アクアポイズムは仰向けに倒れており、動かなくなっていた。
「え? まさかあの魔法で倒してしまったのか?」
「可能性はあるわ。ゆっくり近づいて確かめましょう」
俺とテュケーで、そっと近づく。アクアポイズムが動こうとする様子はない。
「何だか、あっけなかったな」
「まあこんなものでしょうね。カヅキの魔法の威力が高くなっていたってことよ」
テュケーが髪を払いながら、そんなことを言ってくる。褒められるとやはり嬉しいものだ。
テュケーはアクアポイズムに近づいて、討伐を確認しようとする。その時、アクアポイズムの瞳が輝いたかと思うと、テュケーの腕に切り傷が生まれる。
「な、なんだ!?」
ぐるるるるる。と唸るその猫のような生き物は、鋭い爪と牙を持っていた。その代わりかは分からないが毒は持っていないようだった。
「テュケー! 逃げろ!」
テュケーは急いで体勢を整える。しかし、アクアポイズムの凶爪がテュケーを切り裂く。
「うっ。ぐ……」
テュケーが胸を押さえる。あまり傷は深くはないようだが、焦って体が動いていない。
俺は力を込めて、アクアポイズムに向かって駆けて行く。絶対にここで仕留める。出来なくてもテュケーの体勢を立て直す時間をとる。
武器は剣に変えてある。力を込めて、アクアポイズムに切り掛かる。アクアポイズムは鋭く伸びた爪で防ぐ。その隙に、足で力一杯アクアポイズムを蹴り飛ばす。アクアポイズムは何メートルか吹き飛ぶと、少しひるんだ。
「一度引くぞ!」
俺はテュケーを抱きかかえると、イリスとプシケがいるところまで戻る。
全く……。まだこいつはこんなに元気があるのか。どうやら毒も消えたみたいだから、全く別の生き物と捉えて戦ったほうがよさそうだな。
RPGとかでいう第二形態だな。いいだろう。純粋な力比べのようなものか。俺は武器を槍の形に戻すと、アクアポイズムの方に刃を向けた