第13話 アクアポイズム
「ここにいるのか」
俺たちは、次の日アクアポイズムを討伐するために、少し離れた街にやってきた。ここから更に北に30分ほど歩けば目的の地に到達する。
「このまますぐいくの?」
プシケが首をかしげながら質問する。プシケはいつも通り、簡単なTシャツと、ショートパンツだ。
「いや、俺は武器を買っていきたいなと思ってるんだが」
その言葉に、テュケーが反応した。
「あら? 結局まだ買ってなかったの?」
「ああ。なんだかんだで忙しかったからな」
テュケーはふーん。と一言放つと、休憩してくるわと言って、近くのベンチに座った。イリスも、少し馬車に酔ったらしく、休みたいと言ってテュケーと同じベンチのところに向かっていった。
と、いうわけで俺とプシケで武器を探しに行くことにした。
「武器屋はここだな」
ほんの少し歩いたところに武器屋はあった。この街は、あのいつもの街と比べると小さいが、そこそこ発展しているので、いい武器も期待できる。
「どんな武器が使いたいの?」
テュケーは店に並べてある短剣を手に取ったりしながら尋ねてくる。
「ん? そうだな……。近接攻撃のテュケーに遠距離攻撃のイリスが揃っているからな。俺は中距離攻撃がいいかな」
「だったらおすすめはこれかな」
テュケーは1本の槍を見せてきた。
「ただの槍に見えるけど」
するとテュケーは指を出して、チッチッチッとする。
「これは万能な武器なんだよ。見てて」
テュケーは少し力を加える。するとみるみるうちに、その槍は1本の剣となった。
「こんな風に魔力を少し加えると、様々な武器に変化するんだよ。魔力がある程度ないと扱えないけど、君なら使えるよ」
ほう。これは面白いな。それに様々な武器が使えるってことはその場に応じた武器にすぐに変えられるってことか。結構いい武器だな。
「これいくらだ?」
「5000チューン」
ううーん……。高いといえば高いが……。みんなどれくらいの装備をしているのかわからないからなぁ。武器にこれほどお金を使ってもいいのだろうか。
「プシケの装備っていくらくらいなんだ?」
「僕の? 来ている服はイリスに作ってもらってるからほぼタダだね。 武器のこの短剣は取り敢えず装備しているだけだし10チューンもしないよ。ただ、盾は10000は超えてた気がする」
なるほど。ってことはこれくらいなら使っても問題ないかな。
結局俺はその槍を購入すると、イリスとテュケーが待っている広場に到達した。
俺たちは直ぐにそいつがいるという川の近くまで歩いて行った。テュケーと、プシケは草が足に当たって痒そうだった。正直山に入るのに足を露出しているのはよくないと思うのだが。
そして、そのモンスターはそこにいた。
大きさは1メートルくらいか?
みたところ爪は鋭くないし、牙も長いわけではない。どうやらやはり恐ろしいのは、飛ばしてくる毒だろう。
「取り敢えず、私がいつも通り切り掛かるわ」
そう言うとテュケーは剣を抜き、魔法を使う構えをとった。と、次の瞬間アクアポイズムがこちらを向くと、一気にテュケーに詰め寄った。
「まずい! テュケー! 避けろ!」
しかしその声が届く前に、アクアポイズムは右前足を上げると、そのままテュケーに殴りかかった。
「……あれ? 痛くないわ」
え? 明らかに当たってた気がするんだが。
「どうやら、打撃攻撃だけみたいですね。爪がないのであまりダメージが入らなかったのでしょう」
イリスが横で解説する。なるほどな。案外相手の物理攻撃は気をつけなくてもいいってことか。じゃあ問題はやはり毒か。
「『雷に打たれしりんご飴』」
テュケーがそう唱えると、右手の剣に電気が走った。テュケーはそのままその剣を、密接しているアクアポイズムに撃ち込む。しかし、アクアポイズムは直ぐに距離をとってその攻撃をかわした。
「速いわね……。なんとかして技を当てないと……」
「足止めってことだね。僕に任せてよ」
そう言うとプシケは盾を構える。そして
『ただ護るための障壁』
と、つぶやき、アクアポイズムに突っ込んでいく。
アクアポイズムはその盾めがけて突進をしていく。プシケはぶつかる直前で停止し、足に力を入れたようだ。アクアポイズムはそのまま盾に激突し、プシケを押し続ける。
「よし! いい感じだ」
俺はアクアポイズムに向かって準備していた魔法を放つ。
『ライトニング・ボルテッシモ』!
すると幾つもに分かれた稲妻が、アクアポイズムに向かって走る。見事にその電撃を食らったアクアポイズムとプシケはその場に倒れた。
「うわぁ……。仲間ごとなるなんて……」
「流石に引きます……」
テュケーとイリスが汚物を見るような目でこちらを見ている。やめて欲しい。視線が痛い。正直俺もこうなるとは思ってなかったんだよ。
「考えが浅はかすぎるわね……」
テュケーはアクアポイズムとプシケの元へ向かう。
アクアポイズムはピクピクしながらもまだ生きているようだ。テュケーはプシケを軽く揺らした。すると直ぐにプシケは目をこすり体を起こした。
「うーん……。 流石に魔法耐性はあんまりないんだよ」
「本当にすまないと思っている」
俺はプシケにひとしきり謝ると、アクアポイズムの方を向く。するとテュケーが剣を振りかぶっていた。
「早めに仕留めとかないと……」
そう言ってテュケーは剣を振り下ろす。流石に剣の扱いは慣れており、魔法を付加しなくても、かなりの速度でただ鋭利なだけの刃がアクアポイズムに落ち込む。しかし、次の瞬間。アクアポイズムはかっと目を見開き、一瞬で10メートルほど距離をとった。
「まだ、あんなに元気なの?」
テュケーが驚いたように言う。アクアポイズムの目は煌々と紅く光っており、今にも飛びかかってきそうだった。
この目が紅くなるのが、腹が減った合図だ。
「くそっ! 出来れば凶暴化する前に倒したかったな」
しかし今嘆いても仕方ない。早く状態を立て直してーー
アクアポイズムから何かが飛んでくる。その何かは俺の靴に当たると、一瞬で靴が溶けていった。
「ついに来たか……」
「まずいわ一旦下がりましょう」
取り敢えず集まってかたまる。次の瞬間、アクアポイズムはその恐ろしい毒をこちらに向かって銃のように撃ち続けてくる。
その間にプシケが入り盾で俺たちを守ってくれる。
「これはきついわね……」
「ああ。防戦に入ってしまったな」
「おおっと! 流石にこの毒でも僕の盾を通さない!いいね」
前から思ったけどプシケって戦闘中、挙動がおかしいよな。今回のこれも。
プシケが護っていると、痺れを切らしたのか、アクアポイズムが突進してくる。
「このタイミングを待ってました!」
そう叫んだのはイリスだ。イリスは魔法を唱える態勢に入った。
『虹色の魔曲・白銀の煌光』
するとまばゆい光がアクアポイズムに押し寄せる。アクアポイズムは近くの木まで吹き飛ばされ、思い切り打ち付けられた。
その隙に、体勢を整える。あの毒を喰らわないように倒さなければならない。
「さあ! 本番開始だ!」