第11話 master
次の日、12時頃に二人と待ち合わせていた、あの分岐点に来ていた。
「おし。揃ったな。じゃあ行ってみるか」
「楽しみだなあ。今まで入ることなんてなかったもん」
「私はちょっと不安ですね……。masterという難易度にも気になりますし、いったいどれくらい難しいのでしょう……」
masterか。masterって言ったらprofessionalの上の難易度のやつだな。うーむ。expertからprofessionalはそこまで難易度の変化はなかったが……。masterはどうなんだろう。
「とりあえず行くか」
左の道を進んでいくと、再び怪しげなゲートが立っていた。しかし、明らかに真ん中のゲートとは雰囲気が違う。まずは兵士。真ん中のゲートは普通の鎧を着た兵士だったが、ここの兵士は黒色の鎧を着ていて、なんだか不気味だ。
さらに、ゲートはあの何かを吸い込むような音に加え、常に音声を発していた。どうやら、ランクが250以下のものを弾いているらしい。
そんなものたちに若干の不安を抱えながらゲートをくぐると、そこには、あまりに巨大すぎる空間が広がっていた。
「大きさはこの町の半分くらいはあるんじゃないかしら」
見ると、横にテュケーが立っていた。テュケーはこちらを向くと、微笑んで言った。
「masterの世界へようこそ。音ゲーはここからが本番よ」
そう言うとテュケーは奥の方へ行ってしまった。どうやら練習したい曲があるらしい。
「じゃあ、俺たちも何かやってみるか」
「そうだねー。でも僕はちょっと君がプレイするのを見ておくよ。なんだかmasterするの怖いしね」
「私もそうします」
そう言って、二人はちょこんと、俺の背中の方に回り込んだ。入り口近くの筐体はほとんど埋まっていたので、少し歩いた先にある筐体を選んでプレイしようとした。
このゲームは、左から流れてくる音符に合わせて、目の前にある筒状の物体を叩くタイプのものだ。
「これにするか」
俺は筐体に近づき起動させ、曲を選ぶ画面に入った。
「曲はいつものでいいか」
選んだ曲はもちろん『ライトニング・ボルテッシモ』だ。そのまま難易度選択画面に移る。するとprofessionalの隣にmasterの文字が。
おお。遂に最高難易度か。楽しみだなあ。解禁しているprofessional上位曲でも、現実の中位くらいだったからな。masterはどんなのだろうか。
曲が始まる。と、同時に高速の赤音符が通り抜ける。
くそっ! これなら現実世界でもあったろう。まあ、流石に初見じゃ見抜けないからな。残りの譜面を叩けばいい。
どうやらmasterと言っても、ライボルだからか、難易度はそこまで高くないみたいだな。professionalの上位と同じくらいか?
いや、問題はこれからのコンボカッターの部分だな……。さて行けるか。
700コンボの音が聞こえた時、最大のコンボカッターが始まった。
かなりぎっしりと詰められた音符たち。赤音符と青音符の複雑な配置。ところどころに24分が敷かれていて、初見じゃとても、見抜けなかった。
最終リザルトが画面に表示される
perfect 781
great 62
good 13
miss 4
「流石に初見フルコンは無理か」
後ろを振り返ると、イリスと、プシケが唖然としている。
「しっかり見たのは初めてだったんだけど……これは」
「凄い……ですね。初見であれをノルマまで持っていくなんて……」
正直、ノルマに達するかどうかはそんなに重要じゃない気もするけど……。まあ、俺の中で重要なのはフルコンボだな。all perfectは流石にまだ狙えないか。
俺はそのまま、もう一度この曲を選んだ。今度こそフルコンしてやる。
まずは、しょっぱなの赤音符。これはタイミングさえ測れば……いける!
赤音符はなんとかgreatで処理ができた。ここからはコンボカッターまでは難しいところはないから、休憩地帯だ。
問題のコンボカッターのところにたどり着く。さて、しっかりと見極める。
幸いこの曲のBPMはたかが知れているので、見極めるのはそこまで難しくない。だが24分は複雑で、かなりきつい。
1つ1つ丁寧に処理をしていく。まるで、長い生き物を端から捌いていくような感覚だった。
気づくと曲が終わっていて、そこにはfull comboの文字が。
「慣れるといい譜面かもな。詰めようかな」
「流石にこれは笑うしかないね」
後ろでプシケが何か言っているが、とりあえず気にしないでおくことにする。
これ詰めるのにいくらくらいかかるかな? all perfectだったら、多く見積もって30チューンくらいかな。
そう思いながら、残り金額を確認しようと、カードを取り出す。そして、所持金額の欄を見る。
所持金 -150000
「……は?」
「どうしたんですか? ……え?」
目の前にありえない数字が並ぶ。これはおかしい。さすがにこんな借金をした覚えはないぞ。
「どうしたんですか? これは?」
「俺も心当たりがないんだが」
すると、筐体の方から
『フルコンボおめでとう。この魔法をあげるよ』
『ライトニング・ボルテッシモ 上』
という音が響いた。
「あ。そう言えば数日前に筐体を5台ほど壊したような……。あの時は借金のことで頭がいっぱいでスルーしてしまった気がする」
「ちょっ! なにやってるんだよー。さすがにその金額はやばいんじゃない?」
「……150000チューン? 確かリーフドラゴンの報酬って3000チューンだったよな?」
「つまり、リーフドラゴン50体分ですね」
日本円にすると、500万くらいか? 今度はこれをは1ヶ月で稼げ、と。
「何か巨大なクエストを受けるしかないね。でもこんなに巨額なクエストあるのかな?」
「探すしかないな」
くそっ。せっかく音ゲー優先の世界にきたのに、借金ばっかだなぁ。ああ。早く返済して、心ゆくまで音ゲーを楽しみたい。……返済できるのかなあ?
俺たちはとりあえず何かいいクエストはないか探すために、地下へ向かうことにした。
やっとmasterの登場です。
最上級難易度をだしたので、これでちょっとずつ、カヅキが活躍できるようになると思います