無表情シエル
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「そういえばあの無表情女って実際どれくらい凄いんだ?」
「……無表情女ってもしかしてシエルさんのことを言っているんですか、そうなんですか?」
ある日のこと何時ものように気絶したララを背負いながら、俺はリリカに無表情女のことを聞いてみた。
別に異性として気になり始めたとかではなく、純粋な疑問としてふと頭に浮かんだだけである。
「シエルっていうのか、あの無表情女」
「………シエル=ヴァリエール、大貴族の出身でありながらここ数年で冒険者として頭角を現しだした人です」
「また貴族か……」
どうにも冒険者の女は貴族が多い気がする。
俺が知っている数少ない女冒険者のすべてがすべて貴族なのだが、これはどういうことだろう。
「一人でも危険なクエストを数多くこなし、単独でヴァンパイアの討伐も達成しています」
「確か、ヴァンプの上位種、だったよな?」
俺は以前リリカに説明されたことを思い出す。
ちなみにヴァンプでも俺たちのパーティーでは倒すことが出来ない。
ヴァンプの攻撃は耐久力の高いリリカでも防げるかどうか怪しいということだ。
その上位種であるヴァンパイアを一人で倒すことができるなんて、シエルなんちゃらという女はどれだけ基礎の身体能力が高いのか想像もできない。
まぁ俺はヴァンパイアとやらに出会ったことがないので、相手の力を知っているわけではないのだが、きっと強い敵なのだろう。
「さらに複数人であればドラゴンの討伐も経験しているそうです」
「ドラゴンッ!?」
ドラゴンといえば俺が異世界にきたころに出会ったアイツを思い出すことができる。
自分と相手にあれほどの壁を感じたのはあの時が初めてだった。
それを複数人ではあれど実力で倒した、ということに正直驚きである。
俺なんて自分でもわからないうちに巨大な岩が落ちてきてくれたおかげで、命は助かる、経験値は入る、そしてステータスもあがるという、まさに棚からぼた餅という言葉を具現化したような感じでドラゴンを倒すことができただけだ。
ドラゴンなんてステータスの上がっているはずの今でも戦いたくない。
強い敵と戦って胸が高ぶるのは俺も好きだが、ドラゴン相手では胸の高ぶりの前に恐怖しか感じられない。
「はぁ、すごいんだな。あの無表情シエル」
ドラゴンに果敢に切りかかるシエルを想像していると、腕には知らぬ間に鳥肌が立っていた。
「―――」
俺は今、珍しくリリカの監視の目をすり抜け、クエストに向かおうとしている。
まだ変装はしていないので準備を始めなければいけない。
そう思ったときだった。
どこからか聞き覚えのある小さな声が耳に入ってきた。
「は?」
もしかしたら知っている人かと思いそちらに目をやってみると、そこには何とちょうど今日リリカにいろいろと教えてもらった無表情女――シエルなんちゃらがいた。
「注文は何だい?」
「ぇ、えっと……」
どうやらシエルなんちゃらは、屋台で何かを頼もうとしているらしい。
俺は気づかれる前にその場から離れようと試みる。
シエルとやらに関わるとロクなことにならないような気がするのだ。
「ほら早く注文してくれっ」
「え、っと……」
しかし俺がシエルの真後ろを通り過ぎようとしたとき、どうにも屋台の店主とシエルとの会話が成立していないような気がした。
「ほら早くしてくれ!」
「……」
別に俺はシエルと特別何か関係があるわけではない。
だからここで無視しても何も悪いことなどはないだろう。
「……はぁ」
ただシエルの何時もの無表情が、その時は困っているような顔をしているのを見て俺は思わず立ち止まってしまった。
「……おっちゃん、この串焼きを二つ頼む!」
「…ぇ」
隣でシエルの少しだけ驚いたような顔が見れただけで良しとしよう。
「ありがとー」
すぐに店主は串焼きの二つを紙に包んで手渡してくれたので、俺は隣で突っ立ているシエルの手を引いてその場から離れたのだった。
「はい、これ」
俺はまだ温かい紙袋をシエルに手渡す。
「……その、ありがとう」
「……あぁ、それじゃあ」
これ以上ここにいる意味もないので、俺はその場から離れようとする。
「君は、どうして本気で戦わないの?」
すると背中越しに、何時か聞かれたようなそんな質問が投げかけられた。
振り向くと、シエルは俺の目をまっすぐに見つめて逸らそうとしない。
「まぁ色々あるんですよ」
「……色々…?」
「はい、色々です」
首をかしげるシエルに俺はうなずく。
「……そう」
するとシエルは納得してくれたのか、うなずいてくれた。
「あ、これ一緒にたべよ?」
話も終わったのでそろそろクエストに向かおうと思っていた俺に、シエルは俺が買った二本の串焼きのうち一本を差し出してきた。
もしかしたら一本では足りないと思って二本買っておいたのだが、それが仇となったようだ。
「そういえば君って……」
「俺はラクです」
シエルの言葉の意味を察した俺は、自分の名前を教える。
「私は……」
「シエルさんですよね?知ってます」
「……知ってたんだね」
「はい」
どうやら俺が自分の名前を知っていたことにシエルは若干驚いているようだ。
それからはしばらく二人とも、温かい串焼きを無言で食べ続けた。
「君はどうして冒険者になったの?」
串焼きも食べ終わり別れようとした俺へ、シエルが最後に聞いてきた。
「冒険者になった理由、ですか?」
「うん」
……俺が冒険者になった理由。
「生きるため、だと思います」
他に就けそうな職もない俺からしてみれば、冒険者が唯一生活費を稼げる職業だろう。
まぁ冒険者適正はなかったんだけど!!
「……そう」
「じゃあまた」
「…うん」
その場から離れていく俺を手を振りながら見送ってくれるシエルは、何時もと同じく無表情のままだった。




