異世界で戦わないのは損である
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サブタイが俳句っぽいことに気が付いた貴方は今日一日幸せ。
「………っ…痛いです、もっと優しくできないんですか、どうなんですか?」
「そんなこと言われてもなぁ…」
俺は回復薬で汚れた手で頬をかく。
今、オークとの戦いで怪我したリリカの腕に回復薬を塗ってあげているのだが、どうにもこれがなかなか痛いらしい。
リリカは防具も何もつけていない状態で、ララが詠唱を終えるまでの間、オークの攻撃を耐えきった。
見るからに重そうな棍棒の一撃を、その小さな両腕だけで。
「…………」
やっぱりどう見ても俺の腕よりも明らかに細いし、筋肉があるようにも見えない。
……少しだけ握る手に力を入れてみる。
「……痛っ!?何やってるんですか!?わざとですか!?わざとなんですね!?」
「あ、つい」
そういえば怪我していたのをすっかり忘れてしまっていた。
プンスカと頬を膨らませるリリカに慌てて謝る。
「全く今回貴方は何も働いていないんですからね、分かってますか?」
「返す言葉もございません」
事実、俺は今回全く本当に何もやっていない。
ララみたいにオークを倒す魔法を詠唱したわけでもなく、リリカみたいに敵の引きつけをやっていた訳でもなく、ただ立っていた。
本当にただ立っていただけだった
そんな俺が辛うじてできたことと言ったら気絶したララを連れて帰り、怪我したリリカに回復薬を塗ってあげることぐらいだ。
塗るタイプの回復薬ではなく、飲むタイプの回復薬もあるみたいだが、そちらはどうにも値段が高いらしくリリカはこれを買うように勧めてきた。
宿は高い部屋を要求するくせに変なところで遠慮するリリカを微笑ましく思ったものだ。
しかし、実はこの状況はまずい。
このままでは俺は何もしなくなってしまい、所謂ヒモ的な存在になってしまう可能性が限りなく高い。
そんなことになってしまえば折角の俺の異世界ライフも限りなくつまらないものとなってしまうだろう。
もちろんあまり危険なことは俺だってやりたくない。
しかし今日ララとリリカの戦闘を見ていて思った。
異世界で戦わないのは損である、と。
多少の命の危険があったにも関わらず、俺はあの時確かに胸の昂ぶりを感じていたのだ。
想像していた通りのオークを見たとき。
リリカがそのオークの攻撃を受け止めていたとき。
そして何より、ララが放った魔法を見たとき。
俺は柄にもなく手に汗握っていた。
生と死の境界線に立っているような、あの感覚。
日本にいたころでは決して味わうことができなかっただろうその感覚。
もう一度、否、これからもずっと、あの感覚を味わいたい。
そして二度と忘れたくない。
その為なら、多少の危険だって厭わない。
思えば異世界で初めて命の危険を感じたとき、そう、あの巨大なドラゴンに出会ったとき、既に俺は異世界に染まってしまっていたのかもしれない。
あの時、俺の中の根本的な何かがもしかしたら……。
まぁでもしばらくの間は異世界での生活に慣れるために大人しくしておいた方が良さそうだ。
ララも毎日毎日気絶したくはないだろうし、リリカも女の子の一人なのだから肌に傷が出来てしまうのは本望ではないだろう。
「……しばらくはゴブリンかなぁ」
クエストの報酬は少ないかもしれないが、非力な俺でも楽に倒すことが出来るゴブリンなら二人の負担も確実に軽減できる。
稼げるお金が少ないとしてもドラゴンのところで拾ったお金もまだたくさんあるのだから。
「ゴブリンって何ですか?」
「は?」
俺はリリカのその言葉に思わず声を上げる。
「えっと、何だって?」
もしかしたら聞き間違いだったかもしれない。
いや、そうに違いない。
「だから、ゴブリンって何ですか?」
しかし俺の予想とは裏腹に、どうやら聞き間違いではなかったらしい。
「じ、冗談はおもしろくないぞ」
あれがゴブリンじゃなければ一体何だというんだ。
少なくとも日本にいたころの知識では、あれが雑魚でお馴染みのゴブリンだったはずである。
しかし、本当に冗談ではないのかリリカは首をかしげている。
「こ、こう子供くらいの大きさで、何か角みたいなのが生えてるやつだよ」
俺は手で大体の大きさを示しながらリリカに説明する。
しかしリリカの反応はあまり変わらず、首を傾げたままだ。
「……あ、もしかして“ヴァンプ”のことですか?」
「ヴァンプ……?」
「はい、吸血を行うことで喉の渇きを潤すと言われているモンスターです、知ってましたか?」
「そ、それはヴァンパイアじゃなくてか……?」
「“ヴァンパイア”は一般的に“ヴァンプ”の上位種と言われていますよ、知らなかったんですね」
……何てこった。
まさか俺が倒していたのがゴブリンではなく、別のモンスターだったなんて。
しかもそのモンスターの上位種が“ヴァンパイア”だったなんて……。
「あ、で、でもそのモンスターって雑魚いんだろ?」
何しろ俺が投げた小石ではじけ飛ぶようなモンスターなのだから。
「まさか、そんなことあるわけありません。ヴァンプは鉄に勝るとも劣らない堅さの皮膚で覆われていて中堅の冒険者でも数人いないと厳しいと言われています」
「……まじかよ」
「マジです、ヴァンプに比べたらオークなんて大人と子供の差ぐらいはあるんじゃないですか?たぶんあると思いますよ?」
「…………」
ヴァンプ強すぎだろ……。
け、けどそれなら俺が簡単に屠っていたのは別のモンスターなのではないだろうか。
だってあんなに雑魚かったし……。
そこで俺の頭に一つの疑問が浮かんできた。
「な、なぁリリカ。レベルっていうのはどうやったら上がるんだ?」
そんなこと自分でも大体の予想はつく。
しかし聞かずには居られなかったのだ。
「え?そりゃあモンスターを倒したら上がりますよ?常識ですよこれ」
「…………」
やっぱりそうだった。
それなら仮に、俺が倒していたのが本当にヴァンプだったとしたら――
―――――ドラゴンを倒したのは俺であるという可能性が、高い。




