落ちていた
聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。という作品も書かせていただいてますのでそちらも一読頂けたら幸いです。
「……うわぁ、またかよ」
俺は今日二度目の鳥の糞に思わず溜息をついた。
さすがに頭ではなく鞄に落ちてくれたことだけは不幸中の幸いだったが、それでも溜息をつかずにはいられない。
俺の名前は物部落。
どこにでもいるような高校生の内の一人だ。
まぁ今みたいに偶に、というか結構な頻度で色々な物が落ちてくるけど、それを除けば本当にただの一般人である。
容姿がどこか優れているわけでもないので、当然彼女なんて羨ましいものは今まで経験があるはずもない。
「……はぁ」
俺は今日を一日振り返ってみる。
朝には頭に鳥の糞から始まり、学校に着いたら着いたで二階からは水が降ってくる。
頻発して起こるその現象に、もはや先生などの間では俺が虐められているのではないかという噂までたっているらしい。
そんなことはないと思うけど、多分……。
うん、無いと信じたい。
まぁそんなこんなで今日、自分に降ってきたものの数は計七個。
これは結構上出来ではないだろうか。
昨日の十三という数に比べればかなりの進歩だと思う。
…………。
まぁ自分でも物凄い低レベルでの話をしているのは分かっている。
けれどこんなことを考えて楽しんでいかないとやっていけない。
「はぁ……」
これからはもう家に帰るだけなのでさすがにこれ以上何かが降ってくるようなことはないだろうが、また明日から色々な落下物に悩まされる日々が続いていくんだろうなぁ、と思うとうんざりする。
「……え?」
ふと顔を俯けた時、俺は視線の先にあるものに思わず疑問の声をあげる。
目の向けた先、そこには“穴”があった。
底の見えないその穴に対して俺は思わず脚を止める。
一体これは何だろう、と身を乗り出し穴の内部を見てみようと俺は試みる。
「―――あ!危ない!!」
「え?」
穴を見ていた俺の耳に突如そんな叫び声が聞こえてきた。
上を見てみるとどうやら近くにあったベランダから花瓶かなんかが落ちてきているようだ。
「っ!」
咄嗟に身をよじって何とか落ちてきた花瓶を避ける。
「……ふぅ」
運良くその花瓶を避けることができた俺は安堵の息をつく。
そして再度、穴を見てみようと思った瞬間俺は気づいた。
今まで穴に落ちないように身体を支えていた手に、自分の体重を感じないということに。
そのことに気がついたとき、今まで“落ちてくる”経験ばかりしていたのとは真逆に、俺は今底が見えない穴の中を“落ちていた”のだった。
俺が目を覚ました時そこには木々が生い茂っており、さらに目の前には綺麗に澄んだ湖。
「……っ!?」
そんな何が何だか分からない俺を最初に出迎えてくれたのは湖から這い出てきた一匹のプヨプヨとした何かだった。
湖から出てきたソレは俺に近寄ってくると、腕の辺りに擦り寄ってくる。
俺は突然のことに身を固まらせる。
「…………?」
しかしいつまで経ってもそのプヨプヨした何かは特に何をするでもなく、俺の腕にひっついていた。
どうにも敵対心がないらしいということを察した俺は、目の前の不思議な生き物をよく観察してみる。
スリスリ。
すりすりすり。
「か、かわいい……」
腕に擦り寄ってくるその何かはどこか無性に愛らしく感じて、俺は思わずそう呟いた。
というかこれもしかしてだけど―――スライムじゃないか?
俺はしばらくの観察の末にそう結論をだそうとしていた。
今までスライムなんて見たことなかったけど、ゲームとかからの知識から考えてみればもしかしたらこれはスライムなのではないだろうか、と思ったのだ。
「じ、じゃあもしかしてここって……異世界なのか?」
そして知識として僅かに持っていた異世界転移、なるものをその時俺は思い出した。
異世界転移、または異世界召喚。
この二つは偶然にも最近読んだライトノベルの題材として書かれていた。
そして今の俺の状況が、そのライトノベルの内容と似ているところも確かにある。
ただそのライトノベルはどこかのお城に召喚されていて、今の俺がいる森のような場所では無かったにしろ、未だに俺の腕に擦り寄ってきているスライムを見ていると、そうとしか考えられない。
―――俺、異世界に落ちたんだ。
そして俺はついに、そのことを理解した。
異世界―――現代の日本や地球とは異なる世界。
恐らくスライムがいることを鑑みる限りでは、きっとゲームなどに出てきたモンスターも存在しているのかもしれない。
つまりは命の危険が無きにしも非ず。
そんな危険な状況であるということを理解しつつも、俺は今までとは違った日常の訪れに少なからず胸を高ぶらせていた。
「…………」
それから数日が経った。
今日も俺は木から降ってきた木の実を食べている。
もしかしたら俺が異世界に来ることになった原因である何かが俺を探しにきてくれるかもしれない、とか思っていた時期が俺にもありました。
けど現実はそんなことはなく、俺は一人森の中で過ごしている。
しかも正直、日本にいた頃ともあまり大した違いはない気がする。
もちろん学校などが無くて一日中森の中を散歩したり、スライムと戯れたりしているわけだが、如何せんどうにも俺の頭にはいろんな物が落ちてくるのだ。
森を歩けば上からは木の実や枝が落ちてきて、眠っていればスライムが俺の顔に水をかけてくる。
これでは異世界にいる意味がない。
だからといって帰ったりすることができるわけでもなく、今日も俺は食料である木の実を探しに向かうのだった。




