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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

災いを喚んだ神官

作者: 久木

 あー、ひまひま。 すっげえひま。

 今日も机に向かってあれこれ無駄なものを書き散らす。

 ひまだなぁ。

 どいつもこいつもどっかにでかけちまってさあ。

 あ、そうだ、ベリアルとあそぼう、そうしよう。 あいつ引きこもりだし、いるだろ!

 なあなあそこのお前、ベリアル呼んできてくれよ。ほら、サタンが超呼んでるってさぁ。

 え、あいついないのー?

 なんだあ、あいつもかよー。

 ちぇー。 俺も遊びに行きたいなぁ。




**********




 もう後がない。

 大神官様にいただいた神威のローブも破れ、すでに防具としての価値をうしなってしまった。

 いや、それどころか。

 エルフの王から贈呈された精霊のリングもつ魔術王も、傭兵ギルドで名をはせた千弾の剣闘士も、暗殺ギルドで名高かった無音のダガー使い(アサシン)も、するどい爪で万物を裂く獣人の戦士も―――そして、異界から召喚された、神の加護を受けた勇者サマですらも。

 あっけないものだ。

 片端からなぶられ、吹き飛ばされ、刻まれ、勇者など真っ先に息絶えた。 勇者の看板を失った死に顔は年相応の子供の、哀れな躯でしかない。 かえりたい、と最期にこぼした言葉が、こんな状況なのに耳に残っている。 この子をこのような運命に引き込んだのは大神官様率いる、我ら神官だった。 わけのわからない伝承をあさり、眉唾物の召喚陣を引き、価値のわからない供物をささげ――そうして願った神の慈悲。

 それこそが、もの知らぬ前途有望な少年だったのだ。 まだ、20にもならないほどに、幼い。

 恐怖におののきながら、周囲に迫られて戦うしかなくなってしまった子供。

 ふふ、慈悲。 そんなものが神の慈悲か!

 私は、手にしていた折れた杖を投げ捨てた。

 これは神のご加護が――などといっていたのは、司教さまだったか。 加護も慈悲も、もうたくさんだ。 心であざけり、見習いから神官の位を与えられたときに自分のなけなしの財産をはたいて購入した、ショートロッドを取り出した。 美しい見栄えのロッドは、まるで神官のもつ杖のようで、当時の私は浮かれた挙句間違って購入したのだったが……今はその過ちを湛えよう。 神の奇跡をもって癒しをもたらす儀式道具の杖とは違い、ロッドとはあらゆる術を行使するための武器なのだ。 そう、これは、神官たる私が分不相応に持つ、唯一の武器だった。

 片膝をつきながら肩で息をする私を、ねっとりとした目で見下ろしていた魔物の王は、反抗の意を示した私に哄笑した。


『なんと愚かな! 人とは各も学習せぬいきものよっ! 下ることもできず、諦めることもできず、そうして仲間の躯に並ぶのがお望みか、神に仕える哀れな女よ!』


 耳障りな笑い声に返す言葉はない。

 そうとも、私は抗うしかない。

 私がここで屈するということは、この目の前の躯たちへのはなむけにならないのだ。

 せめて死ぬのであれば、彼らの遺志をつぎ、やつに一矢でも報いてから死ぬべきだろう。 どうせこの場には私とやつと、やつの手下のみならば。

 私にはもう、衆目を気にする理由はない。 神官という身分さえも邪魔であれば投げ捨てる。

 ――大神官様のめいで古文書をあさっていた私は、神の慈悲とは真逆の召喚術を目にする機会があった。 一人、神殿の書庫で読み漁っていたときに偶然目にしたもの、それはかつて災いを引き起こし破門となった神官が使ったという邪術の呪文。

 それかいかなる災いなのか、真実なのかなどしったこっちゃない。

 災いがこの地にとどまらず、人の住む国さえも蹂躙するかもしれない。

 だが、それでも。


 それでも、何を犠牲にしても――還れなかったあの子の無念を晴らせる可能性が、あるのであれば!


 神威をまとうローブを脱ぎ捨て無防備になった私は、穴が開きどくどくと血を流す自分の腹部を指でえぐった。 血を地面にまき散らす。 この邪術は、その凶悪さに比べてきわめて簡単。 なにせ供物にいるのは乙女の生血と、魂だけなのだから。

 呪文を唱える間に、にじり寄ってきた魔物の牙が私の四肢を穿つ。 私を引きづり倒し、ケラケラと笑う。 しかし私の腕はロッドを手放すことなく、私の喉は呪いの呪文を振りまいた。

 苦痛など、もはや恐るるにたりぬ!



「――さあこい、大いなる災いよ!」



 私の命と、魂を持って行け。

 このものどもを、みちづれに!

 来るのは天災か、力の波動か、荒れ狂う邪気か。

 しかし、現れたのはそのいずれでもなかった。

 私の術に呼応して私の上級に表れたものは、召喚門。

 まさかこれは、召喚術っ?

 その色、大きさこそ違えども、一度目にしたことのあるその門を見間違えたりするものか!

「、ん……な……っ!」

 そんな、そんな!

 その瞬間、脳裏をよぎるのは勇者。 ここから現れるものもまた、もの知らぬ子供だとしたら!

 わたしが、したことは……!

 絶望が私の胸を襲った時、召喚は完成してしまった。 薄黒い光の門が、ひらかれて、そして。



「うっふぉう!! 久々の娑婆だぁああ! まさかこの俺をーよんでくれるとはね! うれしいね! 俺、超ヒマしてたから!!」



 なんか、へんなのきた。


「えー、なにこれどういうこと? なんの遊びしてんの? すげーマニアック」


 門から現れた男は、その下にいた魔物の頭を足場にして、中心で魔物にたかられていた私をひょっこりと覗き込む。「お。いい乳してるね」って……きさま、見るんじゃない!

 あきらかに空気を読まない不自然さに、魔物の王が獰猛な唸り声をあげた。


『愚かな。妙な輩をよんだものよ……、そやつも、勇者のように八つ裂きにしてくれる!!』


「え、ナニナニ。 おまえ、俺と遊ぶ気? やめとけよ、俺ってばさぁ、」


 手加減、苦手なんだって。


 男の爪が、剣のようにすらりと伸びる。 黒い爪の一閃は、あまたずその先にいた魔物を絶ち斬った。

 一泊遅れて、切断面から吹き出す霧状の体液は……魔物の、血?

 それが蹂躙のはじまりだった。

 男は足場にしていた魔物を、その周辺にたかっていた魔物を、私の足を加える魔物を、己に向かってくる魔物の王を、まるでチーズをスライスするかのように切り落とし尽くした。 ろくすっぽ動くことなく、腕を振るうだけで魔物がパズルのように崩れ落ちる。

 武器ひとつ持たぬ、笑う男の手によって。

 勇者の剣をもってしても切り裂けなかった王がさいの目になって床に散った。 断末魔の叫びさえない。 なんという、あっけない末路。 まるで塵芥のよう。

 なんということ。 こんなことが、人にできるものなのか。

 床に転がったまま、私は思った。

 この男は、真実、災いなのだと。

 人の国を余さず蹂躙し、死の地に変えてしまう――私がよんだものは、そういうものなのだと。

 思わず笑いが込み上げる。

 人類の敵を滅ぼすために、更なる凶悪な敵をわたしはよんだのだ!

 なのに、こんなにもすがすがしい。 魔物の王の死にざまを見た私には、一片の悔いも残っていなかった。 この男がもたらすこれから先の被害など、知らぬ。 ふふ、神官とはもはや名ばかり。

 わたしの心は、魔物への憎悪にとらわれすぎてしまったのだろう!


「あれー。死んだ?」


 あらかたを屠った男が、私をまじまじと見下ろしている。

 口をぱくぱくと動かすと、なるほど、死にそうと緊張感なくつぶやいている。

「とりあえず、召喚んでくれたお前に、超感謝! でもってあれだ、たぶん絶体絶命ってとこたすけてやったんだし、とりあえず対価、もらっとくわ!」



 そういって、男は私に手を伸ばし。

 私は男に、食われたのだ。




**********




 そう、くわれた。

 にくたいてきに。


「だぁかぁらぁ。 いいじゃんいきてんだからさー」

「ふざけるな! 魂を奪われるならまだしもっ、仮にも神官の貞操を奪うなど、男の風上にも置けぬ!」

「魂より貞操大事ってどんだけー。 そもそもおれ、男っつーか悪魔だし。 神官を堕落させるのとか、超すきだし」

 サタンっていうの、よろしくーなどと差し伸べられた手を誰がとるか!

 26年、守りに守り抜いてきた神官のほこりをうばわれて、私はどうしたらいいのだろうか!

 そう、なんとこの人外としか思えぬほど非常識な男は、あろうことか瀕死の私を回復させ、その、その貞操をうばっていったのだ!対価だと?アクマなどしるかぁ!!

「この痴れモノがぁ!」


 どうしてくれよう!どうしてくれよう!

 憤慨する私の後ろを歩きながら、男はのんびりついてくる。

 いずれ、魔物の王が死んだ話は人里へ伝わり、国を巡るだろう。

 しかし邪術に手を出した私に、もはや帰る地はない。 といえば、確かに神官でなくなったのだから貞操にこだわる必要はないかもしれないが……そこはまあ、乙女心というものだなのだ。

 さて、これから先は流浪の旅があるばかり。

 後ろの災いがどっかへ行けば気ままな一人旅となるところが、後ろをついて離れない。

 すきに災いでも振りまけばいいと罵れば、何の話という始末。

 災いって、ナニソレおいしいのとかのたまいおった、この男。

 まったくどうしてくれようか!

 いくとこないしー、やることないしーと言われたところで、私にどうしろというのか!

「なあなあ。おれ、腹減っちゃったんだけど。 くうもんないの?」

「しるかぁ!!」


 大いなる災いは、そんな感じで私の世界へ訪れて、私の災いとして、私が死ぬまでそばにあり続けたのだった。

設定

魔物・・・なんか黒いいきもの

勇者・・・召喚された異世界の人間。文系男児。

私・・・神官のエライひと。勇者に同情しいつかかえしてあげたいと思っていた。

男・・・異世界から来た悪魔。しかし来た世界の人は悪魔をしらなかったので、単なる人間と思われている。


本当は勇者召喚で悪魔が表れて人と勘違いされて……という話を書こうと思ったんですがなんだかこうなってしまったパターン。

深夜のテンションで書いたらとても誤字が多かったので微修正。またみつけたら直します。

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