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至高の孤島  作者: こっちのあっきー


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1/5

大東そばとジューシー


「――今回の研修旅行は、諸君らにとって単なる観光ではない。離島の過酷な自然環境と対峙し、規律と忍耐を持って社会人としての礎を築く、極めて重要な教育の場である」


某高校の講堂。校長の話が長すぎて、僕、ミナトは健太と顔を見合わせた。

「なげーよ……。早く沖縄の海行こうぜ」

「まあ、楽しみだろ?」

隣では、双子の妹のさくらが「ミナトくん、そんなに急がなくても海は逃げないよ」と苦笑していた。


関西国際空港。国内線ターミナルへ向かうため、広い空港内を歩き、連絡バスに揺られる。那覇までの約2時間半のフライトを経て、さらに大東島へ向かうフェリーへと乗り継いだ。


フェリーでの15時間は、僕たちにとって初めての船中泊だった。食堂に漂う出汁の匂い。僕たちは沖縄の風土が詰まった「にんじんしりしり」や「ラフテー」、「ジーマミ豆腐」、「ゴーヤチャンプル」を並べた。

箸でつかんだラフテーは、口の中でホロリと崩れ、トロリと溶けた脂の甘みが醤油と泡盛の香りと共に広がる。僕たちは船内のザワザワとした喧騒の中、大人びた沖縄料理を夢中で平らげた。


ようやく辿り着いた港には、年季の入った中型クルーザーが待機していた。

沖合に出ると、海は深い群青色へ変わった。

「きたッ! ミナト、右の竿だ!」

けんたの叫びと共に、僕の竿先が限界までしなる。海面を割ったのは銀色に輝く大きなロウニンアジだった。


源児さんは、デッキに横たえたロウニンアジを前に、無駄のない動きで包丁を振るい始めた。

まず、尾の付け根から頭部へ向かってゼンゴを削ぎ落とす。そして、エラ蓋の付け根に深く包丁を入れ、エラを繋ぐ筋肉を断ち切る。そのままエラ蓋を掴んでグイと引き抜くと、食道や内臓がズルリと綺麗に引き抜かれて出てきた。源児さんは手際よく流水で腹の中を洗い流し、最後に頭を切り落とす。三枚におろし、腹骨をすき、皮を引く。

「これが『柵』だ。身の繊維に対して包丁が垂直に入るよう、角を立てて切るのがコツだ」

切り出された刺身を、醤油・酒・みりん・生姜・島唐辛子の自家製タレに漬け込む。


一方、鍋ではジューシーが仕上がっていた。

豚バラ肉の旨味を引き出し、人参・椎茸・ひじきを炒め合わせ、その出汁で炊き上げた米。蓋を開ければ、豚の芳醇な脂と出汁の香りが船上に立ち込める。

「いただきまーす!」


漬けにしたロウニンアジを、アツアツのジューシーにのせる。濃厚なアジの旨味と、豚の脂が絡み合った炊き込みご飯。

僕は、その穏やかな光景を眺めながらふと思った。

(……ずっとこうしてたいな。この技術を全部覚えたい)


あまりにも無防備な願いだった。


船底からドン、という鈍く重い衝撃。船体が大きく傾いた。

「全員、しっかり掴まれ!!」

源児の怒鳴り声と共に、船は無慈悲に翻弄される。ジューシーの香りが漂う船内は悲鳴と轟音に塗りつぶされ、世界が暗転した。


……。


気がつけば、僕は冷たい波打ち際で目を覚ました。

全身が痛い。喉の奥に塩辛い水が残っている。波の音しか聞こえない。


「……うっ、頭が……」

起き上がろうとするが、足元の砂が深く沈み込み、身体がうまく動かない。

少し先、満潮の波に乗って砂浜の奥深くまで押し上げられ、大きく傾いた状態で座礁している船が見える。

「船は……座礁したのか?」

他に誰もいない。僕だけなのか?

心臓が早鐘を打つ。波打ち際を歩こうとするが、柔らかい砂に足を取られて何度も転び、全身が砂と海水でずっしりと重くなる。砂をかき分け、必死に声を張り上げた。


「おい! 誰かいないのか! 誰か!!」


数メートル先、波打ち際の砂に顔を埋めてうずくまっている影を見つけた。

「……っ!」

駆け寄る。砂にまみれた背中。健太だ。

「健太! おい、健太!」

肩を揺さぶると、健太が苦しげに咳き込んだ。

「……ミナトか? ……ああ、最悪だ……」

健太が生きていた。安堵で涙が出そうになるが、まだ全員じゃない。

僕たちはさらに、砂に半ば埋もれるようにして倒れていたさくらとカナデを見つけ、必死に抱き起こした。源児さんも海水を吐き出しながら、ようやく砂をかき分けて這い上がってきた。


「よかった、みんな無事か……?」

僕の声に、さくらが小さく頷き、カナデは震えながら周囲を見渡している。

視線の先、どこまで見渡しても他のクラスメイトの姿はない。


「他の奴らは? みんなはどこだ!」

僕が叫んでも、返ってくるのは波の音だけだった。

浜辺に乗り上げた船の残骸が、夕闇の中で不気味に佇んでいる。自分たちがどこにいるのか、何が起きたのか。理解する余裕なんてない。

俺たち全員が、この島のどこかに打ち上げられているはずだ。そう信じるしかない。

平和な晩餐の記憶なんて、もう遠い昔のことみたいだ。

足元には、冷たい海水だけが打ち寄せている。


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