1-33. 情報共有は一瞬で終わる
日曜の午後。
真咲家リビング。
テーブルの上には紅茶と焼き菓子。
そして――母親が三人。
菖。
桃花。
葵。
この時点で、静かなはずがない。
「で?」
葵が身を乗り出す。
「なにがあったの」
桃花、にこにこ。
「聞きたい?」
嫌な予感しかしない。
菖はカップを置いた。
「桃花がその顔してる時は、大抵ろくでもない」
「ひどくない?」
「事実」
即答だった。
桃花は楽しそうに手を振る。
「昨日ね〜」
「二人、同じベッドで絡まって寝てたの」
沈黙。
次の瞬間。
「ぶっ!!」
葵が盛大に吹いた。
「ちょっと待って!」
机を叩く。
「早くない!?」
「何が!?」
桃花、きょとん。
菖は目を閉じたまま言う。
「……状況を説明して」
冷静すぎる。
桃花、即答。
「花音が抱きついて寝てた」
「無意識で」
「がっちり」
葵、大爆笑。
「将来有望すぎるでしょ!!」
「やめなさい葵」
菖の声は低い。
だが止まらない。
「で!? 綾芽くんは!?」
「普通に寝てた」
「抵抗なし!?」
「動けなかったみたい」
葵、さらに笑う。
「もう逃げられないじゃん!」
菖は深くため息をついた。
「……八歳よ?」
「そうだよ?」
桃花、真顔。
「可愛いじゃない」
「可愛いの方向が違う」
即ツッコミ。
葵が腕を組む。
「いやでもさ」
急に真面目な顔になる。
「相性いいんじゃない?」
「やめなさい」
「だって幼馴染でしょ?」
「隣同士でしょ?」
「もう半分家族みたいなもんじゃん」
菖のこめかみに青筋が浮く。
「まだ子供よ」
桃花、さらっと言う。
「子供の頃に距離が近い子って、そのまま――」
「桃花」
声が低い。
警告音。
だが桃花は止まらない。
「綾芽くん、婿に来る?」
空気が凍った。
葵、固まる。
菖、ゆっくり顔を上げる。
笑っている。
目が笑っていない。
「……桃花?」
「あ、冗談冗談」
一拍。
菖が静かに言った。
「うちの子はやらないわよ?」
圧。
元・紫の魔王の圧。
葵、小声。
「出た……」
桃花も苦笑する。
「分かってるってば」
そして、にやり。
「じゃあ予約だけ」
「却下」
即答。
間髪入れない。
葵が吹き出した。
「予約制なの!?」
菖は腕を組む。
「まず本人の意思」
「次に年齢」
「最後に――」
少しだけ間。
「綾芽が困る」
葵、頷く。
「それは確かに」
桃花も素直に頷いた。
「まあね」
「でも花音、顔真っ赤だったよ?」
菖、止まる。
ほんの一瞬だけ。
「……そう」
その反応を、葵は見逃さなかった。
にやりと笑う。
「菖」
「なに」
「ちょっと安心したでしょ」
「してない」
即答。
だが早すぎた。
葵、確信。
「してるじゃん」
桃花も笑う。
「分かるよ〜」
菖は紅茶を一口飲み、話題を変えた。
「で、綾芽は?」
「普通」
桃花が答える。
「朝ごはん食べてた」
「動じないタイプだねぇ」
葵が笑う。
「将来大物だわ」
菖、小さく息を吐く。
「……あの子は昔からああよ」
少しだけ柔らかい声だった。
沈黙のあと。
葵がぽつり。
「でもさ」
「なに?」
「子供同士が仲いいのって、いいよね」
桃花も頷く。
「うん」
菖も否定しなかった。
その代わり、小さく言う。
「まだ、見守るだけ」
桃花、にこっと笑う。
「もちろん」
葵、元気よく。
「面白くなってきた!」
「面白がるな」
即ツッコミ。
その時。
遠くの公園から、子供たちの笑い声が聞こえた。
三人は同時に、窓の外を見る。
まだ小さい背中。
まだ無邪気な時間。
菖が静かに言う。
「……今は、あれでいい」
誰も反論しなかった。
――なお。
この数分後。
桃花が追加で一言。
「次はお泊まり、いつにする?」
菖
「しばらく禁止」
葵
「厳しい!!」
桃花
「えーーー!」
平和は、長く続かない。
母親が三人集まる限り。




