表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/33

1-30. 出どころ不明の噂

 昼休み。

 

 教室はいつも通り騒がしい。

 

 

 その中で――

 

 木村由衣が、突然立ち上がった。

 

「ねえ!!」

 

 声が大きい。

 

 

 綾芽は悟る。

 

 (嫌な予感しかしない)

 

 

 由衣がこのテンションのときは、だいたい爆弾を持っている。

 

 

 そして、投下された。

 

 

 「真咲ってさ!」

 

 一拍。

 

 「魔王の子供なんでしょ!?」

 

 

 教室が止まった。

 

 

 完全に。

 

 

 誰かの鉛筆が転がる音だけが響く。

 

 

 綾芽はゆっくり由衣を見る。

 

 (どこから仕入れた)

 

 

 向葵がぽかんとしている。

 

 花音は瞬きすら忘れている。

 

 

 ざわ……

 

 

 「え?」

 

 「魔王?」

 

 「なにそれ」

 

 

 由衣は腕を組む。

 

 得意げだ。

 

 

 「ママが言ってた!」

 

 

 なるほど。

 

 情報源:保護者。

 

 一番広がるやつだ。

 

 

 綾芽は静かに聞く。

 

 

 「……魔王ってなに?」

 

 

 由衣、止まる。

 

 「え?」

 

 「何する人?」

 

 

 想定外だったらしい。

 

 

 数秒の沈黙。

 

 

 由衣は必死に考えて――

 

 「……すごい強い人!」

 

 

 ざっくり。

 

 

 向葵が即座に食いつく。

 

 「強いの!?」

 

 「たぶん!」

 

 「じゃあいいじゃん!」

 

 

 いいのか。

 

 

 花音が小声でつぶやく。

 

 「こわそう……」

 

 

 由衣が続ける。

 

 「だってさ!」

 

 「真咲のお母さんってすごいんでしょ!?」

 

 

 ああ、そっちから来たか。

 

 

 教室の何人かが頷く。

 

 「なんか聞いたことある」

 

 「強いって」

 

 「元なんとかって」

 

 

 噂はいつも曖昧だ。

 

 でも、芯だけは残る。

 

 

 綾芽は少し考えて、答えた。

 

 「母さんは母さんだよ」

 

 

 それだけ。

 

 

 由衣がむっとする。

 

 「でも!」

 

 「魔王なんでしょ!」

 

 

 綾芽は真顔で言う。

 

 「違うよ」

 

 

 教室がまた静まる。

 

 

 「なんで分かるの!?」

 

 

 綾芽は肩をすくめた。

 

 「夜、ごはん作ってるし」

 

 

 沈黙。

 

 

 そして――

 

 吹き出す声。

 

 

 「魔王、ごはん作るの!?」

 

 「エプロンしてるの想像した!」

 

 

 向葵が大笑いする。

 

 花音も小さく笑う。

 

 

 由衣だけが赤くなる。

 

 

 「そ、それとこれとは別でしょ!」

 

 

 綾芽は追撃する。

 

 

 「あと洗濯もしてる」

 

 

 もうだめだった。

 

 

 教室が笑いに包まれる。

 

 

 ちょうどその時、担任が入ってきた。

 

 「はい、席ついてー」

 

 

 でも空気は柔らかいままだ。

 

 

 由衣は座りながら、小さくつぶやく。

 

 「……でも絶対強いじゃん」

 

 

 綾芽は窓の外を見る。

 

 (強いけど)

 

 (魔王ではないな)

 

 

 たぶん。

 

 

 その日の夜。

 

 どこかの家庭で、新しい噂が生まれる。

 

 

 ――魔王、エプロンをする。

 

 

 尾ひれは、いつだって自由だった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ