1-27. 非公式ログ/誰も知らない英雄
協会・地方支部。
夜。
事務室はほぼ無人。
残っているのは、当直の職員一人だけだった。
コーヒーを片手に、全国ログを確認している。
淡々とスクロール。
戦闘報告。
救護報告。
魔力異常。
どれも日常。
だが。
ある項目で、指が止まる。
【観測機使用ログ】
【本日使用回数:27】
【救護成功率:上昇】
【撤退判断時間:短縮】
職員が眉を上げる。
「……もう二十七?」
まだ配備されて数日だ。
もう全国で使われている。
ログを開く。
地方支部。
山間部。
沿岸都市。
住宅地。
全部、同じ傾向。
【視界確保により負傷回避】
【侵入経路事前確認】
【救護優先順位確定】
【心理的安定効果あり】
職員が小さく笑う。
「心理的って……」
さらに下。
自由記述欄。
【これがあると怖くない】
【最初から状況が分かる】
【新人でも判断できた】
【本当に助かった】
静かな沈黙。
最後の一文。
【設計者に感謝】
職員は背もたれにもたれる。
設計者欄を見る。
【魔法少女協会所属/真咲綾芽】
年齢欄。
【7歳】
「……は?」
思わず声が漏れる。
ログを見直す。
間違いない。
全国の現場。
誰も顔を知らない。
会ったこともない。
でも。
今日だけで何十人も。
その子供の装備で助かっている。
職員はしばらく画面を見つめて。
ぽつり。
「……これ」
本当に小さく。
「英雄じゃん」
誰も聞いていない。
ただの独り言。
その夜。
全国ログの下に、誰が書いたか分からない一行が追加された。
【非公式メモ】
観測機は戦力。
設計者は戦闘員扱いと同等評価。
翌朝。
その一文は削除された。
公式ではないから。
だが。
削除前に、記録は残っていた。
静かに。
各支部へ。
各現場へ。
各隊員へ。
誰も口にはしない。
公式には書かない。
それでも。
現場の中で、ひとつの共通認識が生まれていた。
――ラボの子の装備は信用していい。
その頃。
綾芽専用ラボ。
午後。
机の上。
綾芽は真顔で配線をいじっていた。
「……これで最適化できるな」
ただ、それだけ。
世界がどう動いたかなんて。
知らない。
知らなくていい。
窓の外。
平和な空。
綾芽は小さく呟く。
「次は飛行制御の見直しかな」
本人は、まだ知らない。
その一言が――
これから何人の命を救うことになるのか。




