1-26. 地方配備/初実戦ログ
地方都市・協会支部。
夕方。
小さな事務所。
古い机。
壁のモニター。
都市本部ほどの緊張感はない。
ただの地方支部。
新人魔法少女が、端末をいじっている。
「先輩、この新しいのって何です?」
横の先輩が肩をすくめる。
「さあね。今日から配備らしいよ」
机の上には小型ケース。
中には黒い四ローター機。
ラベル。
【先行観測ドローン】
新人が首を傾げる。
「飛ばすんですか?」
「らしい」
そのとき。
警報。
短い音。
端末表示。
【郊外・男性保護施設近傍】
【妖魔出現】
二人同時に立つ。
「行くよ」
「はい!」
外へ走る。
郊外・林道。
空気が重い。
魔力濃度が高い。
新人が息を飲む。
「……視界悪い」
先輩も頷く。
「木が多い」
そのとき。
端末が光る。
《観測機起動しますか》
二人、止まる。
「……これ?」
「やってみる」
先輩が操作。
ケースが開く。
ドローンが浮く。
静かに。
自動上昇。
新人が思わず呟く。
「うわ……速」
数秒後。
端末画面。
俯瞰映像。
林の奥。
妖魔二体。
さらに。
倒れている男性。
新人の声が震える。
「位置……全部見える」
先輩、即断。
「直進ルート危険」
「左から回る」
「あなた救護優先」
「はい!」
迷いが消える。
進路が確定している。
林を抜ける。
妖魔が振り向く。
だが、先に構えている。
戦闘。
短い。
終わる。
男性、確保。
新人が大きく息を吐く。
「……助かりました」
先輩も空を見上げる。
上で、ドローンが静かにホバリングしている。
ぽつり。
「これ……反則だね」
新人、小さく頷く。
「最初から全部見えてるし」
支部・帰還後。
報告書入力。
新人が端末に打ち込む。
【観測機使用】
【被害ゼロ】
【救護成功】
【戦闘時間:短】
送信。
数秒後。
返信。
【全国ログへ共有】
新人、目を丸くする。
「全国?」
先輩、笑う。
「そういう装備らしい」
さらに下に。
小さな一行。
【設計者:魔法少女協会所属 真咲綾芽】
新人、読む。
「……子供?」
先輩。
「らしいね」
窓の外を見る。
夕焼け。
「顔も知らないけど」
一拍。
「今日、あれが無かったら危なかった」
新人も頷く。
「はい」
上空。
支部屋上。
回収されたドローン。
静かに電源が落ちる。
ログ保存。
それだけ。
でも。
その日。
地方支部の内部メモに一行だけ追加された。
――観測機、常備必須。
静かに。
確実に。
世界の防衛線は、また一歩前へ出ていた。




