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1-20. 入学してから

 小学校に入学してから、特別大きな出来事はない。

 

 でも――

 

 気づけば、周りに人がいた。

 

 

 それだけで、十分すぎるくらいだった。

 

 

 

 クラスでは、普通に話す友達ができた。

 

 無理に作ったわけでもなく。

 

 気づいたら隣にいる。

 

 

 そんな距離の子たちだ。

 

 

 

 火宮紅羽は、学校でも道場でも一緒だ。

 

 剣道着に袖を通した瞬間、空気が変わるのに。

 

 普段はやたら面倒見がいい。

 

 

「真咲くん、それ逆だよ」

 

 「防具、こっちから結ぶの」

 

 

 完全に保護者の動きである。

 

 

 たぶん俺が一人でも大丈夫だと分かっていても。

 

 世話を焼かずにはいられないタイプだ。

 

 

 

 若葉りおなは、弓道道場の娘らしい。

 

 「体が出来てからね」

 

 

 そう言われて、通う約束をした。

 

 

 無理に勧めないあたりが、いかにもりおならしい。

 

 声も静かで、一緒にいると妙に落ち着く。

 

 

 

 日向向葵は、今日も突撃してくる。

 

 廊下の向こうから手を振っていると思ったら。

 

 次の瞬間には目の前だ。

 

 

 「綾芽ー!!」

 

 

 回避不能。

 

 

 元気の塊みたいなやつで。

 

 見ているだけで周囲の温度が少し上がる。

 

 

 

 桜庭花音は、もはや説明がいらない。

 

 家が隣ということもあって、行き来は日常になっていた。

 

 

 一緒にご飯を食べて。

 

 気づけば同じ布団に潜り込んでいる。

 

 

 「ねえ、まだ起きてる?」

 

 

 そんな声を聞きながら眠る時間が、嫌いじゃない。

 

 

 子供の距離は曖昧だ。

 

 近くて。

 

 無防備で。

 

 疑いがない。

 

 

 花音の笑い声を聞くたびに。

 

 ここが帰る場所なんだと思う。

 

 

 

 森千奈と小林真帆は、どちらも大人しい。

 

 でも、不思議とよく周りを見ている。

 

 

 忘れ物を教えてくれたり。

 

 先生の話で聞き逃したところを、小さな声で補足してくれたり。

 

 

 派手さはない。

 

 けれど、こういう存在が一番ありがたいのかもしれない。

 

 

 

 そして――木村由衣。

 

 

 あれはもう、分かりやすい。

 

 

 「なにその持ち方、変なの」

 

 「遅い」

 

 「もう終わったの? 本当に?」

 

 

 言葉だけ聞くと刺々しいのに。

 

 なぜか距離は近い。

 

 

 ノートを覗き込んできたり。

 

 気づけば隣にいたりする。

 

 

 ……微笑ましいので、普通に相手をしている。

 

 

 それに。

 

 

 由衣は、ときどき妙なことを言う。

 

 

 この世界では聞かない単語。

 

 知らないアニメの名前。

 

 存在しない食べ物。

 

 

 周りは首を傾げるけれど。

 

 俺には分かる。

 

 

 (ああ、そっちの記憶が残ってるんだな)

 

 

 子供みたいに笑った次の瞬間。

 

 妙に達観したことを言うこともある。

 

 

 そのアンバランスさに、少しだけ親近感を覚えた。

 

 

 いつか、もっと仲良くなったら。

 

 

 そんな話をする日も来るのだろうか。

 

 

 

 放課後。

 

 校庭の隅で、みんなの声が混ざる。

 

 笑い声。

 

 呼び合う声。

 

 走る音。

 

 

 その中心に、自分がいる。

 

 

 守られる側で。

 

 まだ小さくて。

 

 出来ないことも多いけれど。

 

 

 (……悪くないな)

 

 

 むしろ、かなりいい。

 

 

 強くなる理由が、少しずつ増えていく。

 

 

 気づけば俺は、当たり前みたいに笑っていた。

 


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