表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/33

1-18. はじめての教室

 小学校が始まった。


 今日から一年生だ。


 入学式は、思っていたより長かった。


 話も長いし、椅子は固いし、足はぶらぶらするし。


 (みんな、よく座ってられるな……)


 変なところで感心する。


 式が終わり、ぞろぞろと教室へ戻る。


 自分の机。自分の椅子。


 それだけなのに、ちょっとだけ特別感がある。


 黒板の前に立った先生が、にこやかに言った。



「じゃあ、順番に自己紹介しましょうね」



 名前を呼ばれ、椅子から降りる。


 教室の前に立つと、思ったより視線が多かった。


 (まあ、見るよな)


 少しだけ息を吸う。



「真咲綾芽です」



 ここまでは普通。



「体が弱いので、学校は月曜日だけ来ます」



 教室が一瞬、しんとする。



「よろしく!」



 ぺこり、と頭を下げた。


 子供らしく、短く。


 母さんには「堂々と説明しなさい」と言われたけど、さすがに一年生にラボの話をしても仕方ない。


 先生には全部伝えてあるし、それで十分だ。


 席に戻ると、前の方から視線を感じた。


 振り向く。


 ――花音だ。


 桜庭花音。


 目が合った瞬間、ぱっと顔が明るくなる。


 小さく手を振ってきた。


 ……振り返す。


 すると満足したのか、こくこく頷いて前を向いた。


 (相変わらずだな)


 少し離れた席から、元気な声。



「はいっ!」



 日向向葵が立ち上がる。



「ひなたひまりです! 好きなものは体を動かすこと!」



 知ってる。



「綾芽とはもう友達です!」



 クラスがざわっとする。


 先生が笑う。



「仲良しなんですね」



 ひまりは大きく頷く。


 こっちを見る。


 親指を立てている。


 (なんだそれ)


 でも、悪い気はしない。



「……次、木村さん」



 ゆっくり立ち上がった女の子が、ちらっとこちらを見た。


 黒髪。少しだけ吊り気味の目。



「木村由衣です」



 短い。


 それだけ。


 座る瞬間、もう一度だけこっちを見る。


 完全に、睨まれた。


 (え、なに?)


 まだ何もしてない。


 休み時間。


 席で教科書を眺めていると、足音が近づく。


 止まる。


 嫌な予感しかしない。



「ねえ」



 顔を上げる。


 由衣だった。


 腕を組んでいる。


 一年生とは思えない威圧感。



「月曜しか来ないの?」



「うん」



「ずるくない?」



 初手、それ?



「ずるくないよ」


「来ない分、別のことしてるだけ」



 由衣は少し黙る。



「……ふーん」



 納得してない顔。


 それから小さく言った。



「弱そうには見えないけど」



「よく言われる」



 本当によく言われる。


 由衣はもう一度、じっと見る。


 何かを測るみたいに。



「……まあいい」



 くるっと背を向ける。


 去り際、ぽつり。



「遅れないでよね」



「?」



 振り返る。



「みんなより」



 それだけ言って、自分の席へ戻っていった。


 (なんだ今の)


 怒っているわけでもない。


 嫌っている感じでもない。


 たぶん、負けたくないタイプだ。


 そこへ、ひまりが滑り込んでくる。



「もう話したの!?」



「うん」



「いいでしょ由衣! 強いよ!」



 (強い?)



 由衣が遠くから叫ぶ。



「聞こえてるから!」



 教室に、小さな笑いが広がる。


 花音も笑っている。


 先生も、ちょっとだけ笑っていた。


 騒がしい。


 でも、不思議と嫌じゃない。


 窓の外を見る。


 校庭。


 走る子供たち。


 普通の景色。



 (……悪くないな)



 毎日は来ない。


 でも、ここには来る。


 ここも、ちゃんと自分の場所だ。


 そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ