005.『断罪された先輩』
湯から出てタオルも使わず私は洗面台の鏡と向き合った。
裸のまま、髪から水が滴り落ちる。
目は合わせられない。
向き合うつもりでここに立ってみた。
でも覚悟はまだない。
そっとふやけてシワになった指を鏡に当ててみる。
鏡面は滑らかで冷たく、向こう側の私も同じ事をする。
その指を指す行為が私の罪を暴いているようで、やはり真っ直ぐ向き合うことは出来なかった。
あれは高校一年生のころ。
部活動の先輩でとても頼れる人がいた。
運動神経も良く、人柄も明るく、生徒会でも活躍するような人だった。
私にもたまに話しかけてくれる気さくな先輩だ。
文化祭の時期、先輩はクラスの出し物と生徒会の仕事で全然部活に顔を出さなくなっていた。
うちの部活でも展示をするようにしていたのに部長である先輩が全く顔を出さなくなったのだ。
私はここで正論を使った。
「部長である先輩が来なくてどうするんですか」
と。面と向かって他人に告げるのは勇気がいった。でも言い終えた瞬間、胸の中にやってやったという涼やかな風が吹いた。正しいことを言えたからだ。先輩はその場では黙って俯いていた。
後日、他の部員から私は責められた。その先輩は部室で1人泣いていたそうだ。
私は部活のためを思って言ったつもりだったが、1人のまだ大人になりきれない女の子を泣かせることになってしまった。
私は叱ったんじゃない。ただ、裁いただけなのに。
その日から、私は正論が効く場所と、効かない相手の区別を覚えた。
覚えたこと自体が、いちばん気持ち悪かった。
解剖メモ:正しさを盾にして、人を裁ける。




