003.『無効票なはずの票』
胸なのか脳なのかにこびり付いた汚れとも言えるこの感情を今すぐ洗い流してやりたい。
静かな部屋に足音だけがいきり立つ。
浴室のシャワーから出てくる湯気により一気に室内が白く煙る。
服を着たまま頭から浴びるお湯は、身体をどんどんと重く気持ちの悪いものにさせた。
温かいはずのお湯は外気を吸収して直ぐに冷えて体温を奪っていく。
居心地の悪いことを思い出すと今ある現実までほとほと嫌になってくる。
湯に当たりながら、また1つ思い出した。
あれは小学五年生の時だった。
私が通っていた小学校では五年生の時に生徒会役員を決める。
私も少しやってみたいと思っていたが、少しだけだった。
なぜならクラスで生徒会役員になれるのは男女それぞれ1人まで。
声高に「私は生徒会役員になりたい」と言っている子がいたのだ。
彼女は周りの子に堂々と宣言していた。
私は別にそれほどの興味はなかった。ただ、その子よりも今まで先生に頼られていた自負はある。
無言のプレッシャー。
生徒会役員選挙が始まった。
投票用紙に立候補するなら自分の名前を、しないなら誰かふさわしい子の名前を記入する。
私は時間ギリギリまで空欄のまま迷った。
でも結局、彼女の名前を書いて投票した。
結局、彼女は当選した。
でも同時に噂も流れた。「私が立候補していた」という噂だ。なんでもその噂によると彼女を貶めるために私は自分の名前を書きつつ彼女のことも書いて何をしたいのか分からない。という内容のものだった。
そもそも私は自分の名前を一度も書いていないのだから真実でないことはわかる。
でもそれを証明できるものなどなかった。投票する時記入者の名前は書かないから。
胸のあたりがぬるくなった。お湯のせいじゃない。
怒りでも悲しみでもない、でも確かに気持ち悪い熱。
言い返す言葉を探すほど、何を言っても届かない気がした。
私は「違う」と言わなかった。言えなかったんじゃなくて、言う価値がないように振る舞った。
段々と思春期になっていく彼、彼女たちに「虚しさ」とも「馬鹿馬鹿しさ」とも呼べない感情が、私の中でだけ結果となって残っていく。
結局噂のせいで私は一時期孤立はしたものの、みんな飽きてきたのかまた普通の日常は戻った。
人間というのは群れを作るために誰かを除け者にしたがる生き物なんだな。
とその時思うようにした。
そう思うことで、私は私が孤立した理由を作りたかったのだ。
あの時書いた彼女の名前にも納得ができるはずだった。
私は正しかった、と言える場所を、後から探していた。
でも、本当は違う。
私は中立のふりをした。
中立のふりをして、どっちにも属さない顔をして、あとから一番孤立した。
解剖メモ:中立のふりは、あとから私を孤立させる。




