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002.『天然パーマとお節介』

ソファの上で目を開ける。

相変わらず部屋は暗闇に包まれている。

遠くの廊下の間接照明だけが部屋を照らす唯一の明かり。

あの子の父は何色のソファの上で最期を迎えたのだろう。

ファブリックソファを撫で立ち上がる。

何年も下手すれば何十年と前の記憶なはずなのにとても鮮明に思い出せた。胸にこびりついて剥がれないこの居心地の悪さをどうにか流したい。

感情を思い出すのは、思いのほか労力というか、……とても削られる。


あぁ、そういやこんな話もあった。


思い出したくない過去は次から次へと数珠繋ぎに頭に思い浮かんでしまう。



あれは小学六年生のころだったか。


この頃になるといわゆるグループというのが女子の間ではできてくる。

それまで男女分け隔てなく遊んでいたものも性別ごとに別れて少し大人びてくる。

私は特にグループには属したつもりはないが仲良くしている子達はいた。

あと、素知らぬ顔してくっついてくる子がいた。天然パーマの色素の薄い子だった。別に嫌いでもないが私は特に好きでもなかった。

ある日、担任の先生が私に言ってきた。

「天然パーマちゃんとグループの子たちともっと仲良くなれるように頑張って」

と。

私は意味がわからなかった。その子から頼まれても無いことをなぜやらなければならないのか。

他にもグループがあるのになぜその子たちには言わないのか。

この先生も天然パーマも私を使うだけ使おうとして私の気持ちは度外視するのだな。


「怒り」と呼ぶにはあまりに静かで「呆れ」と呼ぶには強い感情だった。

そしてその感情は誰にも伝えられないまま私の中に居座った。


結局担任の先生の言うことを聞いてあげて仲良く振舞った自分にもげんなりした。

「偉いね」と言われた記憶がある。褒められた瞬間、さらに気持ち悪くなった。

私は誰のために笑ってるんだろう、と。


天然パーマちゃんは酷く気を良くしたのか段々と態度が大きくなっていったが、そうこうしている間に転校して行った。

親の転勤で仕方なくだったそうだ。



彼女が居なくなった後の教室は何も変わらなかった。

私はむしろ「安心」した。もう彼女のお世話をしなくて良くなったからだ。

安心した瞬間、心が軽くなった。軽くなったのが、いちばん嫌だった。


「安心」してしまった自分を、良かったと思ってしまう自分を、どう扱えばいいのかは分からないまま。

良かったと思うほど、私は自分に厳しい判決を出したくなる。

軽くなった分、罰が必要だと思ってしまう。


解剖メモ:安堵を感じた瞬間から、私は自分を裁く。


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