一章:魔法使い、付与の見学。5
まぁ、でも、トロパ鉱にマナを注いだ人と魔石の加工する人が一緒な方が良いのはわかる。
旅人達がもともといた世界での話であるが、人や動物、生きるものが放つマナには、それぞれ固有の波長が存在する。種族によってある程度系統わけが可能ではあるのだが。基本的に個々人で同じ波長が存在しない、指紋の様なものである。
生命体から空気中へと放出されたばかりのマナは、波長を帯びたままであるが、その波長は時間と共に平坦化していき。やがて時間をかけて空気中から地中へと染み込んだマナは、固有波長の存在しないマナになる。固有波長がないマナは第三者としては利用しやすいマナになっているのだ。
では、固有波長の残っているマナは第三者から見て使いやすいのか否か。答えは基本的に否である。家族間であれば波長が似通っている事があるのでまだそうでもないのだが。相手の固有波長と自身の固有波長がかけ離れているほど扱うのは難しくなる。
故に、トロパ鉱にマナを注いだ人が、そのまま使った方が更にマナを流すのに楽なのだ。
旅人達がこちらの領域にやってきてからまだ10日もたっていないが、マナの固有波長が存在する事は確認済みなので、同じ事が言えるだろう。
では、マナの固有波長を自らの意思で平坦化して扱いやすくできるのか。ミルキィ的にはその人がどのくらいマナについて知っているか、また、どれくらいマナを扱うのに長けているかで変わる、と考えている。そもそも固有波長が存在している事を、個々人でマナの固有波長の形が違う事を認識していなければ、マナの固有波長の平坦化は出来ない。
ヘルロットの話的に、経験則としてその辺りの話が伝わっているのだろう。
この領域で流通している魔道具はどうなのか。旅人達が遭遇した魔道具は数えるほどしかないが、どれもこれも固有波長を有するマナを放ってはいなかった様に思う。可能性的には、トロパ鉱に込めたマナは空気中のマナよりも早く、マナの固有波長が平坦化するのかもしれない。回路から完全にマナが抜けているわけではないのだし。
なお、魔石のマナの波長は既に平坦である。だからこそ、燃料として使いやすいのだろう。
ちなみに余談であるが。マナの固有波長によっては、互いに有害だったりする組み合わせも存在する。もともといた世界だと問題なかったのに、別の世界に行ったらマナの固有波長が合わず体調を崩しましたー!な例も存在する。魔界の空気が現世に流入したら瘴気になった、というのはマナの固有波長が合わなかった、というのも原因の一つに数えて良いと思うミルキィである。
それと、液体状のトロパ鉱をインクの様にして書き込む為の道具であるが。いっそのこと、マナで液体状のトロパ鉱を持ち上げて、直接書き込めやしないだろうか。試してみたいミルキィである。
ヘルロットは、トロパ鉱につけていたペン先を引き上げて、万年筆の様な道具を机に置いて。魔道具の外側にする箱を開いて、核になった魔石を核を置く場所と言っていた窪みに置いた。
「それじゃあー、これから回路を書いていくよー。ちゃあんと、魔道具の核にもトロパ鉱の回路を書き入れてねー。で、回路書く時にもマナは流すんだけどー、核を加工する時ほどじゃないかなー。
後ね、核を使わない魔道具の時はねー、液体になっているトロパ鉱にー、使用済みの魔石を砕いて粉にしたものを混ぜるんだー。そっちの方が魔石のマナを効率的に使えるんだってー。魔道具の核が必要な種類はー、使用者のマナを使って動かす種類のもあるからー、使用済み魔石の粉は混ぜないんだー。混ぜたら使用者のマナが通りにくいとかって言うねー。」
ゆるっとした口調で説明しながら、ヘルロットは万年筆の様な道具を手に取り、魔道具の核から回路を引いていく。
使用済み魔石の粉をトロパ鉱に混ぜる云々の話は、人種のマナの固有波長と相性が合わないのだろうか。この辺りも実験してみたら色々わかるかもしれない。そのためにもトロパ鉱を購入せねば。
するすると、さらさらと。ヘルロットは澱みなく万年筆の様な道具を動かして回路を繋げていく。
「魔道具の核を加工する時ー、ここが動作切り替えでー、とか、ここが魔石を動力にするところでー、とかそういう機能がある場所のしるしを事前に決めて核の文言として埋め込むのねー。」
回路の共通の仕様があるわけではなく、魔道具の核を加工する際の文言に連動させる事になっているのか。となると、結構魔道具の核の加工の時に、文言を色々書かないといけない。だがしかし、文字を書ける範囲は限りがある。
そりゃあ、大きな魔石でないと難しいだろう。含有するマナ量も必要だが、必要な文言が書けないと魔道具として不便な状態になるどころか加工失敗になりかねない。
さらさらと、書かれたトロパ鉱の線が一周して。輪を描いた回路が完成する。
「回路が全部書けたらー、回路全体に更にマナを通して固着させるんだー。回路がちゃあんと成立してたらトロパ鉱が固まってくれるしー、固まらなかったらどこかで回路が破綻してるんだねー。
それじゃ、マナを通すよー。」
回路に手を近づけて、ヘルロットはえーい、と気の抜けた声を上げて。するとみるみるうちにトロパ鉱で書かれた回路が固まっていく。手のひらからマナを放出して、回路を固着させているのだ。
回路全体が十分に固まった時、ヘルロットは魔道具の核の上に部品を嵌めて核が動かない様に固定してから、魔道具の蓋を閉めた。
「これで一応完成だねー。後は、蓋が取れない様に加工したり、回路に不具合がないかどうかの確認したりするよー。」
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