一章:魔法使い、付与の見学。3
魔道具の作製は大変。
「魔石に刻む文言で必要なのはー、何の効果を魔道具に求めるのかとかー、対象とか範囲はどうなのかとかー、消費するマナ量と比例する効果とかー。その魔道具を使うために必要な要素をー、簡潔にー、わかりやすく書くんだー。
言い忘れてたけどもねー。文字を書く時にはー、マナをこめながら書くんだよー。
文字を書く時には一気に、あんまり時間をおかずに書き上げるのが失敗しないコツだねー。」
さらさらと、すらすらと。迷いなく楽しそうに。ヘルロットは万年筆の様な道具を動かし、魔石に魔道具の仕様を文言を書き込んでいく。書き慣れた文言なのだろうか。トロパ鉱で書いた文字を触らない様に気をつけて魔石を回しながら、新たな文言を増やしていく。
昨日、ヘルロットが魔石を核にする時にはマナがたくさん必要だ、と話していたが。これだけ文字を書いて、一文字一文字にマナを消費していたら、そりゃあいくらマナがあっても足りないというものである。
トゥエラとエデュライナの方を見ると、驚いた顔をしている。二人の冒険者としての立ち回りは、マナを消費して行動するタイプだ。その二人が驚くという事は、今ヘルロットが消費しているマナ量がそれなりに多いということでもあるのだろう。そりゃあ、魔石を核に加工できない魔道具師がいるのも納得である。
見ると、球体に書かれたトロパ鉱の文字は、トロパ鉱が垂れることなく書かれたままを維持し続けている。これもトロパ鉱の特性なのだろうか、それともマナをこめながら書いた効果なのだろうか。艶々とした銀色の文字は、部屋の明かりを反射して瞬いた。
魔石の表面のおおよそ半分ほど、文言を書き込んで。ヘルロットの手が止まり、見学者達を見渡した。
「文言をぜーんぶ書き終わったらー、終わりの文字を書き込むのー。
そうしたらねー。不思議な事に魔石が縮み始めてー、小さくなって魔道具の核になるんだよー。」
ほら、見ててー、とヘルロットは見学者達に声をかけて。最後の言葉を、終わりの文字を書き加える。
文字を書き終わったその瞬間、魔石に書かれたトロパ鉱の文字が光り輝いて。ヘルロットの手の中で、魔石が、縮み始めた。
つるりと、トロパ鉱の文字が形を保ったまま、小さくなって魔石の内側に沈みこみ。しゅるしゅると魔石は小さくなって。ころり、と手の中の小さくなった魔石…魔道具の核を静かに、ヘルロットはローテーブルの上に置いた。
最終的に7級の魔石の大きさ…直径2センチほどの大きさにまで縮んで。小さくなった魔石の内側で、書き込んだ文字がくるくると踊る様に舞っていた。
それなりのマナを使ったヘルロットは、ひとつ深い息を吐き。つかれたぁー、と声を上げた。そんなヘルロットの口の中に、ほれ、補給じゃ、とテオラルテが飴玉をひとつ入れた。からり、ヘルロッテの口の中で飴玉が転がる。
「マナの使用量、結構多め…?」
「全力で戦闘した時に使ったマナ量よりと同じくらいか、それよりも多いぐらい…?」
「二人、へろへろになった。」
「それぐらいでのマナ量の消費だろ…そりゃ疲れる。」
小さな声で、〈森の輪〉後衛二人が魔石を魔道具の核に加工した際のマナ量について話している。
やっぱりね、多いよねぇ。これで2級の魔石の加工である。更に1級の魔石を魔道具の核に加工する時には更にマナが必要になるのだろう。つまり、それだけのマナ量を放出できる人でないと加工できない。改めて、ヘルロットの凄さを知った気分だ。そのヘルロットはからころと飴玉を口の中で転がし、糖分補給真っ最中である。
〈森の輪〉の横で、腕組みをしたままのスノゥが一つ頷いて、つらつらと考えた内容を話し出す。
「始まりと終わりを明確にし、文字を書く時にマナをこめる事、が魔石加工の大前提になるのかな。
文字数が増えるとそれだけ消費するマナの量は増えるから簡潔に書く、効脳を明確にするためにわかりやすく書く、こめたマナが空気中に放出されないように時間を空けずなるべく一気に文言を書く。こういった工夫は、魔石加工の難易度を下げるのと同時に、魔石加工の成功率を上げるための一手でもある、ってとこかな。
魔石に書く文言の研究も、結果の文言の一般普及も、魔道具の性能を上げるだけじゃなく、その辺りに多少なりとも絡んでそうだねぇ。
さらに言うならば。恐らく、文言が成立していないと魔石加工が失敗するんだろうね。」
で、魔石加工して失敗したらどうなるんだろ、と、スノゥがポツリとつぶやいた。
読了ありがとうございます!
また次話お会いできると嬉しいですっ。




