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一章:閑話:人族について学ぶ。

今日の更新は閑話です。

旅人達がノルキスタを訪れるよりも、10年ほどは昔の話。


空は晴れ渡り、雲もなく。窓から入る陽の光は明るく室内を照らした。

毛足の長い絨毯は柔らかく歩く少年の足を受け止め、室内の調度品は品の良い彫刻に彩られ。陽の光が差し込む大きな窓は少しだけ開き、隙間から入り込んだ風で華奢なレースのカーテンが揺れる。また、風は城下町の喧騒をほんの少しだけ部屋へと運んでいた。

少年がふわりと柔らかく沈むソファーに座り、机の上の本や万年筆を整理し、ノートを開くと。机の対面に、もしゃもしゃした豊かなお髭を蓄え、ふさふさの髪を肩ぐらいからゆるく三つ編みにした、本を持った一人の老人が立つ。


「先生、今日もよろしくお願いします。」

「うむ。それでは、今日は人族についてお話ししましょうかのぅ。」


礼儀正しくお辞儀をした少年に、老人の眼差しが柔らかく注がれる。


「この世界には、魔王国群に住まう魔人族と、それ以外の国々に住まう人族がおりましてのぅ。

魔人族の特徴としては、角が生えておりますの。また明日、魔人族について、詳しくお教えいたしましょうかの。」

「魔王国群は、この国の北部の辺境と接していましたよね。」

「そうですな。この国と接しておりますのは、怠惰の国となりますのぅ。この国の魔王は、怠惰の名を冠しておりますなぁ。このあたりも明日お話しましょうかの。」

「楽しみにしてます。」


にこにこと、少年が微笑み、老人も楽しそうな声を崩さない。


「まずはこの国で一番多い〈隣空族(マウ・サウラ)〉ですかの。殿下もわしも、〈隣空族(マウ・サウラ)〉になりますの。人族の中で一番多い種族になりますなぁ。

身体的特徴はなく、人によって何が得意かが異なるのが、いっそ特徴になりますかな。」


己を指差しながら、老人は説明を続ける。


「この国とも国境を察しておりますクロディアル森領域は〈隣森族(マウ・ラフル)〉の住まう国になりますな。

耳が葉のように尖っており、どちらかの耳の上に花が咲いているのが特徴的ですのぅ。精霊との距離が近い方々が多く、多くの人が神官や精霊術師として過ごしておられるそうですな。

勇者や魔法使いの方曰く、エルフみたい、という言葉が残っておりますな。」

「勇者や魔法使いの国にも、〈隣森族(マウ・ラフル)〉のような種族が住んでいるのだろうか?」

「いいえ、彼らの知る物語によく出てくる種族だそうですなぁ。同様に、〈隣山族(マウ・ラトタ)〉も、ドワーフみたいだ、という言葉が残っておりますな。

この国の西部に位置する冒険者ギルド本部のあるフィフナート通商連合よりもさらに西の、アイソナルベ鉱山域が〈隣山族(マウ・ラトタ)〉が治る国になりますなぁ。」


ふぉっふぉっふぉっ、と、老人が髭を撫で付けながら、己が殿下と呼んだ少年へ授業を続ける。


「身長は低いものの、筋肉質でがっしりとした体躯。鍛冶や大工、木工といったものづくりの才能が素晴らしい種族になりますなぁ。身体のどこかに鉱物が生えているのが特徴になりますな。」

「この万年筆を作成したのも、〈隣山族(マウ・ラトタ)〉だろう?すごい技術力だな。」

「万年筆の仕組み自体は勇者が持ち込んだそうですが、勇者に頼まれてそれを再現したのが当時のアイソナルベ鉱山域に住まう〈隣山族(マウ・ラトタ)〉だったそうです。」

「そうか。当時の勇者と〈隣山族(マウ・ラトタ)〉には感謝しかないな。こんなに便利な筆記用具を開発してくれたのだから。」

「本当に。

我々の住む大陸より西南の方にスルトラド共和国という島国がありますの。その国は〈隣獣族(マウ・カラバ)〉と〈獣人族(カラバ・ナノ)〉、〈隣草族(マウ・サナウク)〉が主体となって国を動かしておりますの。

隣獣族(マウ・カラバ)〉は獣の特徴を持った種族となりますの。顔立ちは獣ですが、体格は他の人族と変わりません。

獣人族(カラバ・ナノ)〉は〈隣獣族(マウ・カラバ)〉と〈隣空族(マウ・サウラ)〉の間に生まれる子の種族ですな。顔立ちは〈隣空族(マウ・サウラ)〉と同じですが、耳や尾が〈隣獣族(マウ・カラバ)〉のものと同じになりますな。

隣草族(マウ・サナウク)〉は〈隣空族(マウ・サウラ)〉の子どもと同じぐらいの体格で、すでに一人前の大人の体格になりますな。似たような身長の〈隣山族(マウ・ラトタ)〉と比べて体格は薄いですが、その分素早く動けますな。器用であり、何かを直すことも得意なことになりますなぁ。」

「スルトラド共和国にといつか行ってみたいな。この国とはどのように違うのか、この肌で感じてみたい。」

「その為にもしっかりと様々なことを学びましょうな。

最後の種族ですが、主に芸術の国であるエウロア王国に住む〈隣水族(マウ・サトラ)〉ですな。手の指の間に水掻きがありまして。陸上にいる時には我々と同じ二足歩行ですが、水に浸かると足が魚の尾鰭に変化するのが最大の特徴ですな。水中行動も難なくこなすことができますな。

こめかみの部分に宝石がついておりまして、陸上でも〈隣水族(マウ・サトラ)〉だというのは気付けるかと。」

「流石にこの国には〈隣水族(マウ・サトラ)〉はいないだろうか。」

「残念ながら、おりませんのぅ。」


しょもり、と眉を顰めた老人を見て、殿下と呼ばれた少年はくすりと笑う。


「トラおじじ先生、いつか〈隣水族(マウ・サトラ)〉の人にも出会いたいな。」

「そうですな、殿下。いつか、様々な人に出会い、様々な場所に赴いてください。その出会いが、経験が、殿下にとって大事な宝物になるでしょうからのぅ。」



優しい眼差しのトラッカ・ベル・ノスターヴェ法衣準男爵に見守られ。ストーヴェ王国第二王子、ラストリア・ディアベ・ストーヴェは未来を描く。

ラストリアはまだ知らない。この先で、魔法使いに出会うことを。

読了ありがとうございます!

また次話お会いできると嬉しいですっ。

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