一章:魔法使い、アビリティを使う。
冒険者ギルドノルキスタ支部のギルドマスターのトラおじじと副ギルドマスターのドレグと共に、冒険者ギルドの中庭を抜けて、訓練場へと向かう。
訓練場は5メートルほどの木の壁で囲まれている。しっかりとした頑丈なつくりで、崩れ落ちないように外側から支えが組まれており、中から衝撃が多少加わったところで崩れないだろう。訓練場の壁は頑丈でないとね。
よく見たら、マナの流れを確認できる。魔道具の影響なのであろう。魔道具の作用は、壁の頑丈さか、それとも防音であろうか。
クロムがトラおじじの方を向いて、話しかけた。
「すごく高い木の防壁ですね。崩れないようにしてありますし、色々手をかけていますよね?」
「そうじゃのぅ。訓練場に壁を作るのは冒険者ギルド本部からの指示でな。
魔道具も使用して精霊術が当たっても傷がつかんようにしてあったり、防音性能もあるし、壁の耐久度も高めておる。木の壁じゃが、そうそう壊れんぞ。何かしらあってご近所さんにご迷惑をかけるわけにはいかんからのぅ。」
「特にこの近所には町の役場もありますから。一般のご家庭にご迷惑をおかけしないのは当然ですが、行政に影響を及ぼさないのも重要です。」
「町の役場にご迷惑おかけしたら、ドレグの親御さんとこに謝罪しに行かないといけんしのぅ。」
本部指示なら一律の規格がありそうである。どこの冒険者ギルド支部に行っても、5メートルの木製の訓練場の壁があるのだろう。また、どの魔道具を置くかもまた、本部指示…むしろ、本部から貸与されている可能性もありますね?
…ところで、ドレグの親御さんって何者ですか。
ミルキィと同じ意見を持ったのだろう。目を丸くしたルディがトラおじじとドレグに質問をする。
「ドレグさんの親御さんに謝罪をするって…ドレグさんの親御さんって、何をされている方なんですか?」
「ふむ。ノルキスタの町を含むこの周辺一帯はアルヴァーノ男爵領なんじゃがの?
ドレグは現アルヴァーノ男爵の三男じゃよ。」
「貴族籍も返還して、今は完全な平民ですよ。」
「わぁ…。」
笑顔で、トラおじじの説明を補足するようにドレグが話す。この辺りの領主が親御さんとは、想定外なんですが。ルディは驚きの声を溢していたが、さもありなん。
旅人一行は驚きながら、木製の壁の開いている両開きの扉から訓練場に入る。
中では木製の武器を使って模擬戦を行なっている人や、等間隔に並べられた木製の人型人形に向かって打ち込みをしている人、武器の素振りをしている人、新人冒険者に武器の扱い方を指導する人や、木製の壁の近くに設置された的に向かって矢や精霊術を放ったりしている人が見える。
講義の後だから人が多いのか、それとも日常的に人が多いのだろうか。そもそも、訓練大事だからなぁ。
手に、紙を挟んだ板を持ったローナがこちらの方を見て、驚いていた。まさかのギルドマスターと副ギルドマスターが一緒だからね!
「まぁ。皆さんギルドマスターと副ギルドマスターと一緒だったんですね。」
「ほっほっほ、皆様方に誘われましてなぁ。巨大な〈魔猪豚〉を倒した技術を見せてくださるとの事でしたので見学させてもらう事にしたのじゃよ。」
「なるほど…。何か準備はありますか?」
トラおじじがネタバレ防止がわりにこっちに話題を振ってきた。元々ミルキィが披露一番手だったので予定との差はないので問題ないのだが、まさかの振りである。ちなみに、順番とか誰がアビリティ使うかの相談は全部〈念話〉で行なってました。
ローナがミルキィの方を向いて、問う。
「的として〈大緑化人〉の剣を地面に刺したいのと、土の小山をつくりたいです。剣は手持ちのを使いますね。」
「わかりました。…〈大緑化人〉の剣は錆びていても買取対象ですがいいんですか?」
「問題ないです。」
なんたって男性陣総出で、対立しそうな〈王緑化人〉率いる〈緑化人〉系統の2集団をぷちーっと殲滅してきたから…。戦利品としてたっぷりあるのよ…。
ローナの許可が出た瞬間に、ルディが小ぶりのスコップをいくつも取り出して、シルト筆頭に何人かで土の小山を作り出した。さくさくと周囲から土を取り、どんどん大きくなっていく土の小山。
ミルキィも錆の浮いた〈大緑化人〉の剣を、シルト達から2メートルほど離れたところでしっかりと大地に突き刺した。
なんだなんだと周囲で訓練している冒険者達がこちらの方を見る。あ、あの〈魔猪豚〉の、と呟いている冒険者もいた。
「さぁて、ちょっと離れてね。アビリティのせなきゃ斬撃は飛ばないけど念の為ねー。」
なんだなんだと近づいてくる冒険者達に、離れるように告げる。具体的には3ラング以上!そっちの山からもおんなじ距離離れといてー!と大きめの声で冒険者達に伝え、シルト達の方を見るとあっという間に1メートルほどの小山を作って離れていた。近付ける様に奥半分だけ土を掘った様子。
冒険者達が一定の距離以上に近付いてきてない事を確認し、〈収納〉から刀を取り出し、声高らかにミルキィは宣言する。
「一番手、ミルキィ・ウェイ!いきますっ。」
とん、と剣に近付いて、一歩踏み込んで、一閃。のち、即納刀。一泊遅れて剣が半ばで切れて、上半分が地面に落ちた。切断面はなめらかである。
「はい、二番手だっ。ノート・ペルシ!いくぜっ。」
今度はノートが鞭を片手に土の小山に近付いて。
「《シャドウ・ソーン》!」
鞭を土の小山に巻き付けるのと同時に、鞭から闇の棘が出現し、土の小山に突き刺さる。即座に鞭を回収し、後ろに下がってシルトとハイタッチを交わす。
今度はシルトがハリセン片手に前に出る。
「三番手ー!シルト・ヴェインなのだっ。やるのだっ。」
即座に近付き、シルトがハリセンを土の小山に向けて振りかぶり。ぱきり、石がハリセンを覆っていく。
「《石硬撃》!」
石を纏ったハリセンで、思いっきり土の小山を引っ叩いた。ぼろり、先程のノートの攻撃で穴だらけの土の小山の一部が吹き飛んだ。
振り抜いた直後に後ろに下がり、長杖を片手に持ったアヤナとハイタッチを交わす。
アヤナは一歩前に踏み出し、地面に杖を突き刺して。綺麗なカーテシーを披露して。
「四番手、アヤナ・アオキ。参りますわ!」
名乗りを上げ、即座に杖を抜き。くるりと一回転すると、杖の上部に水が纏わりつき。
「《水龍撃》!」
アヤナの宣言と共に、杖の水はみるみる龍の形を取り。アヤナが杖を小山に向けると水の龍は小山を飲み込んで上空へと向かい、消えていく。
後に残った土の小山は水に濡れてボロボロになっているが、まだ終わらない。
そっとアヤナは元の位置に戻り、キュウヤとハイタッチを交わす。武器も何も持たず、キュウヤは片手を上げ、名乗りを上げる。
「五番手、キュウヤ・イチノセ!それじゃあ、やろうか!」
ぐっと、低くしゃがみ込んで。次の瞬間、大地を踏み込んで、空高く跳躍する。
瞬間移動か、と思われそうなほどのスピードで。一瞬で、土の小山の上、上空5メートルの位置に飛び。〈収納〉から大剣を取り出し上段に構えると、ごうごうと大剣から火が吹き出した。
「《火炎斬》!」
大剣を構えたまま、自由落下。ばさりと、長めのストールが翻る。
落下の勢いを乗せたまま、燃える大剣を土の小山に叩きつける。水にしっかり濡れた土の小山は弾け飛ばないが、完全に潰れた。
土の小山に大剣を叩きつけたまま、即〈収納〉し。キュウヤも他の面々と同じ位置に戻る。
ミルキィが剣を切った頃には盛り上がっていた周囲は、完全に沈黙に包まれていた。
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