一章:魔法使い、市場に向かう。
ロッカに野菜とお肉を渡して、昼の刻1時近く。ちなみに、野菜を入れていた木箱は、その場で返してもらってます。晩御飯が楽しみですね!
女将さんに4本の鍵を渡し、出かけてきまーす、と口々に女将さんに声をかけた。全員小銭の入ったポーチを腰につけ、何人かは武器も身につけて準備万端である。念の為、〈探索〉も起動させたままにする事に。スリとかね、人攫いとか、一応警戒しとかないとね…。アウトな動き方している人がいたら全力でとっ捕まえに行く所存です。
〈森の宿屋〉の外に出て、周囲を見渡す。食堂があり、お風呂屋さんがあり、宿泊客向けの雑貨屋と古着屋もありますね?古着屋の方を見ると、上に着るシャツが一着大鉄貨1枚前後との値札が見える。
この辺りも見て回ったら楽しそうだな、とセイカが柔らかい表情で呟いた時、〈森の輪〉の面々がやってきた。アトラとルビナは旅行者達を見つけて、手を振っている。
「おはようございまーす!」
「よく眠れた?」
元気なルビナとアトラの声。エデュライナがあまり表情を変えずに小首を傾げながら、こちらに問うてくる。旅行者達も挨拶を口々に交わす。
エデュライナの問いには、寝れたのだー、とシルトがにこにこ笑顔で返す。枕が変わったぐらいで寝れない人はうちにいないので、割と寝つきは良い面子ですよ?
「良い宿屋を教えて貰った。ありがとう。」
「そう言っていただけると嬉しいです。」
フォードがトゥエラに握手を求め、がっしりと握手をしていた。余程、〈森の宿屋〉がお気に召したらしい。部屋が清潔で、ご飯も美味しい宿は情報がないと巡り会えないものなのだ。
「そうそう、10泊追加で、〈森の宿屋〉に泊まることにしたからね。お風呂屋も近いし、いい宿だよ。」
「そだそだ、今日の夕御飯、〈森の宿屋〉で食べていってね。ご飯をロッカさんに頼んだから。」
「は、い…?」
キュウヤが穏やかに微笑んで、ミルキィはにかりと笑って告げると、トゥエラの動きが固まった。
「あ、今晩何か用事あったかな?」
「いや、用事はないんですけど…。」
「ん?晩御飯のお誘い?もう、ご飯奢ってくれるの?」
これはうっかり、とミルキィが呟き、トゥエラの動きは鈍いまま。
ルビナがぴょこりとトゥエラの方に寄ってきて、きらきらした瞳でキュウヤとミルキィの方を見る。
「…何がどうしてそうなったんですか。」
「え、食堂の方に食材差し入れしに行ったら、何人前準備したらいい?って聞かれて、17人前って答えたから…。一緒に食べようぜ、あの巨体な〈魔猪豚〉のお肉。」
「…は?」
にかっと笑って、ミルキィが食材を伝えたら、トゥエラがまた固まったんだが。
ルビナは困惑している。…ああ、そういえば、高級肉って言われましたね?ヤベェと連呼されてましたね??
固まっているトゥエラの肩を叩いて、首をゆるく横に振って、フォードが一言。
「悪い、巻き込まれてくれ。…すでに頼んでいるから撤回が出来ない。」
「ですよねぇ…。」
力なくトゥエラが笑い、ルビナはアトラとエデュライナにあわあわとしながら説明しに行った。悪いけど今日も一緒に晩御飯食べようぜ。そういや、〈隣森族〉についての話も聞いてないな、とミルキィは思い出す。
そろそろ、市場に向かおうよー、と、スノゥが声を上げたので、一同揃って市場に向かう事にする。
市場は森の近くの門とは別の、街道に繋がる門の近くにあると、トゥエラは言う。〈森の宿屋〉からはいくらか離れており、それなりに歩くそう。時間的には半刻も歩かないだろうとのこと。
その街道はどこに繋がっているんです?とルディが問うと、トゥエラはアトラの方を見て微笑む。うう、と力ない声を上げて、眉を顰め必死に脳内の記憶をさらっているのだろうアトラが、口を開く。
「ええと、北に行く道は、ヴラニッツェル辺境伯領行きで、南西の方に行く道はディノーテ伯爵領。西は領町イノバッハ経由してラルハ男爵領。南の方はグラニディス侯爵領で、更に南西方面の街道を進んで王都ストルディア…だった、よな?」
「よく出来ました。よく覚えてたな。」
「トゥエラが地理もしっかり覚えとけよって、勉強進めてきたんじゃんかよぉ…。」
トゥエラは満面の笑みであるが、アトラはぺっそぺそだ。〈森の輪〉は昇格の為…もとい旅行者達に色々教える為にも勉強を積み重ねているようだ。ありがとう、アトラ、ルビナ。
アトラの言葉をまとめていたルディが不思議そうに呟いた。
「結構いろんな領に繋がる街道が伸びているんだね?」
「そうなんだよ。ここ、ノルキスタの町はアルヴェーノ男爵領の中でも二番目に大きい町って言われてんだ。森…エルグラン大森林の素材を他の領に運んだり、ラルハ男爵領で取れる金属をノルキスタを経由して辺境伯領や王都に運んだりしてんだ。ディノーテ伯爵領のはしっこの、畜産が盛んな村で出来たチーズやなんかも、辺境伯領に送ったりするからノルキスタに来るんだぜ。」
「なるほど。つまり、ノルキスタはこのあたりの物流を支える町なんだね。」
勉強の成果が出ているのか、アトラの言葉にトゥエラが深く頷いている。
ノルキスタは森…エルグラン大森林に対しては攻略前線の町であり、物流面からは一種の流通センター状態であるということなのだろう。男爵領にとって、重要な立ち位置の町であることは間違いない。
はたして、どんな雰囲気なのだろうか、どんな物が売られているのだろうか。…市場に行ったら、とりあえずチーズを探さねば。
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