一章:魔法使い、魔石で思い出す。
ぎぎぎぎぎ、と、油を差し忘れた機械の様にぎこちなくすごい顔でこちらを見てきたティグレによると。
魔石の等級付けは、一番下が最下級となって、7級、6級と、大きさと魔石内に蓄積されているマナ量が増えていくにつれ等級が上がっていく。
1級の上は1段となっており、段クラスの魔石を持つ魔獣を単独パーティーで討伐できるかどうかが冒険者中堅どころを卒業できるか否か、というラインらしい。簡単に言えば、Aランクに上がれる基準ともとれる。
…そんなのが森を闊歩していたのはあまりにも危険だし、今までよく怪我人でなかったね?とは思う。ああ、だからこそ、来た時に討伐しに行こうとしていたのか。多分、これ以上今は同様に巨大な魔獣は発生しないはず、ではある。
それを説明する事は出来ないが。とりあえずこの町に滞在する間は森を見回るか、とミルキィは考える。
「…ねーちゃんも、にーちゃんもあの魔石見て驚かねぇのな…?」
ティグレの言葉にノートと二人して苦笑いで返すしかなかった。
そう、あの大きさの魔石を見るのははじめてではない。
クロムが森に探索に行った際タイマン勝負をした〈闘魂熊〉も、セイカが森から山にかけて探索していたところで遭遇した群れから離れた〈狂騒牛王〉もそれぐらいの大きさの魔石持ちであった。更に山の方の探索をしていたフォードが、空を飛んでたのを撃ち落とした〈巨岩山鳥〉の魔石の方が、今回の〈魔猪豚〉のものよりも大きかった。
目と目が合ったのでと、〈闘魂熊〉と格闘勝負をしたクロムは、なかなかいい試合でした、とご満悦で。こちらの熊は誇り高くなかなか良い対戦相手でした、と自ら解体していた。どうにも自らの能力に縛りを設けて格闘勝負をしていた様子。拳一発で身体を貫通させる穴をあけれるのに、〈闘魂熊〉には目立った傷が無かったのだ。
セイカが遭遇した〈狂騒牛王〉は、〈鑑定〉曰く、群れをなして行動するタイプの魔獣である〈狂騒牛〉を率いる立場の魔獣であるが、単独で山を少し進んだところにいたとの事。恐らく、新たな〈狂騒牛王〉が発生した為、単独で群れを離れたのではないか、というセイカの想定である。セイカと遭遇した瞬間に突撃して来た様で、カウンター気味に槍を脳天に突き刺したとの事。群れを離れていても〈王〉であったから、最後の命を焦がす場所を探していたのだろう、と言うセイカは、自らの手で〈狂騒牛王〉を解体していた。
洞窟の裏の山の裏の方を探索していたフォードは、あまりにも大きな鳥が自らの方に向かって来ていたのを見て、〈巨岩山鳥〉を弓矢で撃ち落としたという。あまりにも巨大だったので、攻撃されたら被害大きいだろうから、と先手必勝で弓矢で撃ち落としたとの事。かなり大きかったので何人かで協力して解体した。どれくらい大きかったって?ここの解体部屋に入り切らないくらいかな…。
では、何故強い魔獣が同時期に何体も森周辺にいたのか。恐らく巨体の〈魔猪豚〉の発生と、ダンジョンが関係しているのではないだろうか。
魔獣は別の種の魔獣とも戦闘になりうる。故に強力な個体や強力な個体が発生しうるダンジョンは脅威度の高い敵となる。それを確認する為に、あるいは新しく発生した強力な魔獣と戦う為に魔獣達は移動し、旅行者達と戦闘になったのだろう。
巨体な〈魔猪豚〉が狩られたので、強力な魔獣が別の場所から移動してくる可能性は、ある程度低くなっているはずである。
二人の苦笑を見て、深々と息をついて額に手を当てながら、ティグレは小声でぼやくしかなかった。
「はー、ねーちゃんらが来てくれて助かった、と言うべきか…?」
そんなティグレとは対照的に、解体部屋の職員達はテンション高く解体作業を進めていく。
本気で骨格標本を作る気なのだろう。切り出した骨は完璧な形で、どの部分の骨であったかをメモしつつ丁寧に布の上に置いていく。二つに斬られた首の骨は最初に取り除かれ、修復しなければー!とテンション高い職員がどこかに持っていった。
買取用紙を渡されたとある冒険者は、すぐにカウンターへと戻らず、まだ見学して行くことを選択した様だ。
「ムキムキ!最下級の魔石は在庫あるんかえ!…は?」
「実験に使うので、ギルドの経費で買いとります…。え?」
賑やかに解体部屋にやって来たのは薬師のおばば様とドレグである。
水で洗われ布で磨かれ、低めの台の上で柔らかそうな布に包まれた1段の魔石を見て言葉を失っていた。…やばいものなんだね、あの魔石の大きさ。いや、ドレグは解体されている巨体の〈魔猪豚〉も含めてだな。何度も視線がそっちにいっている。
「おーい、手の空いたやつ、最下級の魔石もってけー。」
「あいあいさー!」
むきむきなおっちゃんの解体の動きは止まらず、手の空いていた職員が別の部屋へ。
「はー…大きさ20ラングほどって事は、1段の魔石かい。このデカブツ、そんなに強かったんだねぇ。」
「ああっ、なんて素晴らしい魔石…!惜しむは身体の方を解体前に一眼見たかった…!」
おばば様は魔石を見ながら感嘆し、ドレグは何故か嘆いていた。そういえば、門のところで名残惜しそうに切り飛ばした首を見てましたね…?
「魔石は買取対象外だでー。骨は買取やから、骨格標本つくるで。えかろ?」
「良かったと言うべきか、残念だったと言うべきか。しかし、骨格標本は楽しみですね。資料にもなりますし。是非とも作ってください。なんならこちらから予算出します。」
むきむきのおっちゃんとドレグの間で交わされるサムズアップ。おっちゃんの歯がきらりと白く光ったのは気のせいだろうか。
ドレグさんの趣味大暴走じゃん、と冒険者の誰かがぽつり。門のところの反応でそんな気配はしていた。
ところで、気になる事がある。買い取らなくて良かったって…1段の魔石の買取価格ってだいたいおいくらぐらいになるんだ。
小声でひそひそと、ナイショの話。
「ティグレ、知ってる?」
「あー…ギルドで売るなら小銀貨ぐらいからで、色によっちゃあ銀貨ぐらいになるんじゃね?買うんなら銀貨からだな。」
「例えるなら…?」
「あー、都市部に家立つな。」
あ、そりゃあやばいわ!?
読了ありがとうございます!
また次話お会いできると嬉しいですっ。




