一章:魔法使い、解体を見学する。
いつ買取金額を書いたものをくれるのかなー、とノートと一緒に解体部屋の職員が解体しているのを見ている状態です。
「おい、鉄のナイフじゃ皮が切れんでな!もっと切れ味のええのを持ってこい!」
「マナ纏い全体でミスリルナイフ使いましょう!」
「許可!!マナ残っとる奴らは手伝え!残ってない奴は他の頼まれとる解体を!〈砂哭蛇〉解体してるやつはそのまま解体を続けるんや!」
「「「あいあいさー!!」」」
元気である。すごくわちゃわちゃしている。
巨体の〈魔猪豚〉の解体を見物している冒険者も何人かいるのだが、ムキムキなおっちゃんの鉄のナイフで切れない発言に顔を強張らせていた。
鉄の剣で切れないって、結構厄介である。ティグレがこっちをすごい顔で見ていた。か、考え事してて反射的に動いたら切れちゃったんだ…。思わず視線を逸らしてしまった。
通常の個体とは違って、大きかったり何かしら色が違ったりするモンスターは、通常個体よりも強化されている、というのが通説だった。恐らく、魔獣に関しても同様の事が言えるのだろう。普通サイズの〈魔猪豚〉は鉄の剣で毛皮を切り裂けたのに対し、巨体の〈魔猪豚〉の毛皮は鉄のナイフを刃こぼれさせ、全く切ることができなかった。
通常個体とは並外れた特徴を持つ魔獣は強い。故に冒険者達は討伐の為に他のチームの冒険者とも協力して当該魔獣に挑むのだろう。
「よっしゃ、切れるぞー!」
「うっさいよムキムキ!…なんじゃねそのデカい〈魔猪豚〉は!?もしかしなくともそいつが話題になっとったデカい〈魔猪豚〉かい!?
はー、とんでもなくデカいねっ!!」
「おばば、おばばの方が声でかいんやが?」
ムキムキなおっちゃんが叫ぶと、外から元気よくローブを身に纏った高齢の女性も叫びながら入ってきた。元気なおばあちゃんである。ふわふわの白髪をポニーテールにして揺らしながら巨体の〈魔猪豚〉を見ている。
ティグレにどなた?と尋ねると薬師のおばば様との事。おお、この人が。とても活力に溢れてらっしゃる方ですね…?
「おお、そうじゃ。〈砂哭蛇〉と聞こえたのじゃが、追加の納品があったんか!?」
「わざわざ聞きにきたんか…?」
「いんや。トラッカに呼ばれて来たんじゃが、〈砂哭蛇〉と聞こえたから来てみた。」
薬師のおばば様…自由なお方ですね?
ノートがティグレの顔を見ていた。地獄耳なんですね…?
「お任せくださいおばば様。解体して解毒薬に必要な素材をお届けしますねっ。」
むんっ、と胸を張って〈砂哭蛇〉を解体している解体部屋の職員がおばば様に、元気よく答えている。
皮を剥いで、血液を小瓶に移して、毒腺を専用のケースの中に入れて…と、かなり手捌きが良く、毒蛇系統の解体に慣れている人なのかもしれない。もう3匹目の解体が終わりそうである。
「おお、助かるのぅ。じゃが、次に解体部屋に〈砂哭蛇〉が持ち込まれたら、まるまるこっちで保管したいから解体せずうちに持ち込んどくれ。」
「わかりました。また明日以降持ち込まれたらお届けしに行きますねー!」
にっこり微笑んで、四匹目の〈砂哭蛇〉の解体に取り掛かりつつ、薬師のおばば様に手を振る解体部屋の職員。ほな、頼んだぞー、とおばば様は外に出ていく。
トラおじじは、はたして何用でおばば様を呼んだのか。もしかしたら、薬草育成方法検証のためかもしれない。薬草についての知識の専門家であるし。
解体部屋の周囲の空間に、検証用の畑も作るのだろうか…。後でシルトに確認しよう。
巨体の〈魔猪豚〉の解体は、というと。滑車で巨体が持ち上がらず、人海戦術で〈魔猪豚〉の身体を押す係と、肉を保護するための保護剤を皮との間に入れる係、肉から皮を丁寧に一枚皮になる様に解体していく係と、役割分担しながら、手早く解体作業を続けていっている。
「骨を綺麗に剥ぎ取って、骨格標本つくりましょう!資料として残しておくべきです!首の骨が切られてるけど、断面綺麗だし修復しやすいですし。
あ、予算はドレグさんにお願いしたら出る気がするっ。」
「皮は一枚の革として解体して、剥製にするかどうかも要相談だなぁ。鉄のナイフできれない革って、防具としても結構優秀な素材だし、金属鎧より軽いから需要めっちゃある…。」
ティグレに確認すると、解体して、ギルド買取となった素材は基本的には商人ギルドに持ち込まれて、その素材を必要とする商人や職人、個人の元へ届けられるとの事。その為、この場で素材の使用方法を相談しているのは珍しいケースだそうな。
まぁ、滅多に見ない大きさだから、資料にしたいのはわかる。重要だよね、こんな大きさの魔獣が出たんだぜ!って実際に見てわかるの。
きゃっきゃとノリノリで解体を進めていく解体部屋の職員達。時折ミスリルナイフ担当が変わりながら、綺麗に皮を剥ぎ切った。
食用に耐えれる肉、耐えれない肉、内臓を分けながら骨から肉を切りだし、美味しそうなブロック肉がこれもいるじゃん、と職員が持って来たカートの上に積まれていく。
胸部の解体をしていた職員が、肋骨の隙間から、大きな丸い魔石を取り出した。大きさおおよそ30センチ程。それを見た解体部屋の職員が湧き上がり、ティグレと見学中の冒険者達が固まった。
綺麗で透明感のある、ミッドナイトブルー色の魔石である。
その魔石にぺたぺたと何かをくっつけたり剥がしたりして何かを調べて、2分ほど。何かのモニターと思われるディスプレイを見て、ムキムキのおっちゃんが一言。
「1段の魔石持ちなんて解体したの初めてや…。こんなでかいんやな…。」
「すごい、巨大!肉が解体すれど解体すれど減りません!」
「魔石は買取対象外でしたよね。これは資料にはならない。」
テンションの高い解体部屋の職員とは対照的に、ティグレと見学の冒険者達が絶句していた。
…そんなヤバいものなの、あの魔石。
読了ありがとうございます!
また次話お会いできると嬉しいですっ。




