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一章:魔法使い、村に入る。

いつまでも視線逸らしたままだと話が一切進まないので、ティグレと呼ばれていた男性や制服を着た男性の方を向く。そうしたら、トゥエラやアトラ達に思いっきり見られていた。


「あの…。」

「どしたんだねーちゃん。あ、入村手続きか!?悪りぃな、待たせたな!」


それも大事ではある。大事ではあるんだけれど。

はふり、と息をついて。軽自動車ぐらいに大きかった〈魔猪豚〉の頭を取り出して、地面に置く。抱えきれないほど大きな頭だ。血が流れないよう、こっそり処置済みである。

ギョロリとした生気のない瞳が、門の方を向いている。ひっ、と門の中にいる誰かが、恐怖のあまり短く息を呑んだ。生首怖いよね。改めて見るとおっきいし。


「…は?」


ティグレは地面に置かれた巨大な〈魔猪豚〉の頭を見て、ぎぎぎ、と油分の足りていないぎこちない機械のような動きで、ミルキィの方に向き直る。制服を着た男性は目を丸くして、〈魔猪豚〉の頭から視線を逸らさない。

対象的にキュウヤは苦笑しており、アヤナはあらあらまあまあ、と微笑んでいたりする。


「ねーちゃん、これは…?」

「森の中で遭遇したんで、首落とした〈魔猪豚〉の生首ですね?」

「マジかよ!!?」


いやー、改めて見ると本当に大きい。頭だけの剥製を作っても、中に木を入れて重いだろうから壁に飾れるかわからない大きさだ。

ティグレは驚愕の声を上げて、ぐりんと体を捻りながら、今度はトゥエラの方を振り向いた。


「トゥエラ、このねーちゃん達はお前らが連れてきたよな!?ねーちゃんの言ってる事はマジなのかよ!?」

「本当だよ。なんならおれたちの目の前で首を切り飛ばしてたからね…?」

「マジで?え、ねーちゃん首切り飛ばしたのかよ…?」


トゥエラがまた遠い目をしてしまった。私達と出会ってから何回目の遠い目だろうか。ほんっとにヤバかった、何が起きてるのかわかんなかったとルビナとアトラがティグレに伝えているけれど、本人近くにいるからね!?

もう生首はいいだろ、とアトラが言うと周りの人たちも勢いよく首を縦に振るので、巨大〈魔猪豚〉の生首を収納しなおす。まあ、生首ホラーだったしね…?

収納した瞬間に息をつく人、ミルキィの顔を見る人、驚愕する人と反応はさまざまであった。収納使っているからだろうか。

一人だけ残念そうにこちらを見てくる人がいる。制服姿の男性だ。…〈魔猪豚〉の生首ですよ…?


「そんなわけで、巨大な〈魔猪豚〉は一頭は討伐済みになります。」

「それなら殊更、今急いで森に入る理由がないですね。村にやってきたら被害が大きかったであろう〈魔猪豚〉は討伐済み、〈砂哭蛇〉の毒に対応する解毒薬の材料は揃い、あとは調合されるのを待つばかり。…だろう、ティグレ。」


トゥエラの言葉に、制服の男性が優雅に頷いた。言われたティグレはぐぬぬ…と悔しそうな声をあげて。首を振って真剣な眼差しで声を上げる。


「わかったよ、今日の夜は森に行かない!集まってくれたみんなも悪かったな、今日はもう帰ってゆっくりしてくれ!明日以降のダンジョン探しはドレグと話し合ってまた声かけさせてもらうな!」


ティグレの声に、集まっていた推定冒険者の面々がわかった、お疲れ様、等々声を掛け合いながら門の前を離れていく。蛇に噛まれた人が仲間だった冒険達はお見舞いに行くのだろう。

門の前に残ったのは、ティグレ、ドレグと呼ばれた制服の男性ともう一人。そして〈森の輪〉とミルキィ達だ。


「さて、ねーちゃんには驚かされっぱなしだったが、仕事をしなきゃあな。

ようこそ。トルキスタの町へ。身分証はあるか?」

「あー、ティグレさん、ドレグさん、ノアトさん、一旦ここだけの話にして欲しいんですが。」


この世界の身分証なんてないです。

ティグレさんがにかりと笑ってこちらに声をかけてくるのだが、額に手を当てながら、トゥエラが会話に割り込みをかけて。


「こちらの11名は全員魔法使いです。魔法も確認済みで、身分証はないですね。」

「…は?」

「…はい?」


目がこぼれ落ちそうなほど瞼を開いて。三人がこちらを見てくる。

驚かせっぱなしだけど申し訳ない。いきなり物語の登場人物の役割を言われたら驚くよねぇ。


「保証金はこちらで払いますし、保証人は我々〈森の輪〉がなります。ドレグさん、こちらの皆さんの冒険者登録をお願いしたいんですが…。」

「あ、ああ…わかった。ティグレ、ノアト君、こちらの方々の入町手続きを頼む。私はギルドで登録のための準備をしておこう。」

「お、おう。すまんがこっちに来てもらえねぇか?」


ドレグが門の前を去り、旅行者一同返事をしながらティグレの後についていく。門の横の建物の中にお邪魔します。

ノアトと呼ばれたもう一人の男性にアトラがお金を支払い、トゥエラが書類を記入して。

ティグレから水晶玉っぽい魔道具に一人ずつ触るよう指示され、誰一人光らず。問題なし!と言われて、冒険者証を貰ったらアトラ達とまた来いよ、と保証金返金制度について説明され。

…やっとこさ、人里に足を踏み入れる事ができたよ。


読了ありがとうございます!

また次話お会いできると嬉しいですっ。

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