一章:魔法使い、森で収穫する
時折、薬草系限定の〈捜索〉に反応した薬草の群生地に寄り道しつつ、一行は進む。なお、ミルキィはまだ戻ってこない。
本当に置いていっても大丈夫なんです、合流できないから遅くなっているんじゃ、と落ち着かなくなっているトゥエラ達に対して、多分、一刀両断できないから遅いんじゃないかな?とキュウヤはぽつり。
「毒の種類を確定させるためにも、毒腺は潰せない。毒の抗体もあるだろうから、なるべく身も潰したくない。そうなるとピンポイントに脳だけ切る、って結構技量のいる事が要求されるんだよね。」
「はい…?」
本日何度目になるだろうか。〈森の輪〉の面々がひっそりとひいている。
「亀は甲羅を盾の素材として使えるから、なるべく綺麗な状態で確保したい。となると首を狩るか、いっそのこと頭から串刺しにするのがいいかな?蛇よりも技量は要求されないね。どちらかというと膂力が鍵になってくるかな?」
「改めて言語化すると、やっばいのだ。ま、ミルキィならやってくれるはずなのだ。多分、きっと。」
キュウヤの言っている魔獣討伐方法は、中堅の冒険者もできるものがほぼいないだろう、とトゥエラは予想する。そもそも、蛇の討伐なら頭を潰すなり身体を断ち切るなりするところを、頭蓋骨を砕き、脳だけ破壊することなど、試すもの好きもいないだろう。
考えても見てほしい。動く蛇の頭を、的確に真横に射抜けるのか否か。弓矢を用いるのなら、蛇の感知範囲外からゆっくり狙えば、可能かもしれない。ただしミルキィの武器は、トゥエラ達にあまり見覚えのない不思議な形をした剣だ。近接…必然的にヘビに近付かねば攻撃ができない。相対しているならば真横から突き刺す事も出来ない。
〈森の輪〉はいっぱしの冒険者である。そろそろ中堅どころと呼ばれるランクへの昇格も見えてきたところである。無論、技量も磨き続けてきた。
故に、キュウヤがさらりと要求している技量の難易度も把握できるのだ。
とんでもない集団に出会ってしまった、とトゥエラは何度思った事か。魔法使いの段階でとんでもない集団であるのに、やる事がこれまたとんでもない。
トゥエラの今の一番の悩み事は、キュウヤ達に知識や常識を教えきれるかどうかである。
「合流まで時間かかってるし、結構丁寧な狩りしてるんだろうねぇ。」
両手で寄り道して採取した青い果物を抱えたスノゥが、ルディの持っている籠に詰め替えながら呟く。
あまりにざばざばと入れていくので、果物が落ちないようにセイカも詰め替えに参加する。落ちたら痛みの元になるだろう、ともっと丁寧に入れるように抗議しつつ。
キノコ見つけたのだー!とシルトが木の根元に駆け寄り、クロムが待って!?と追いかける。更にルディから籠を受け取ったロヴェルが追いかけて。次は先に報告してねー、とキュウヤが困ったように微笑みながらシルトに声をかける。
あっちの薬草を収穫しに行ってくる、とフォードとアヤナがキュウヤに告げ、草むらの方へと歩いていき。
キュウヤは〈森の輪〉の方を振り返る。
「うーん、ごめん、みんな色々見つけちゃったから、ちょっと休息取ろうか。」
暖かな木漏れ日の差し込む昼下がり、旅人と冒険者は歩みを止めてしばし休息を取る事に。
シートを敷いて収穫に行った面々を待ちながら、キュウヤとノート、ロヴェルと〈森の輪〉の面々は水を飲み、喉を潤して。トゥエラが口を開いた。
「そういえば、ダンジョンがあるだろうという話だったんですが、どうしてそう考えたんです?」
「実際には確認してはないんだけどもさ、ダンジョンがないと説明できない魔獣がいたんだよな。」
「〈砂哭蛇〉も〈砂丸亀〉も、森は本来の生息域では無い…。」
エデュライナが静かに、ノートの言葉に反応して。
そっか、砂漠の魔獣になるのか、とアトラが呟いた。
〈鑑定〉しながら、色々調べた情報にはなるんだけど、とキュウヤはトゥエラ達を見ながら、語る。
「ミルキィが狩っている〈砂哭蛇〉も〈砂丸亀〉も砂があるところで発生する魔獣になる。けれどここは森だ。魔獣発生の為の前提条件が満たせないはずなんだ。
となると、現在存在している以上、発生する為の前提条件を満たしている何か、が存在しているはずだ。」
キュウヤが両手で持っているカップの中、水面が揺れる。
「他にも〈泥狂狸〉や〈泥潜蟻〉といった泥、あるいは沼が発生の前提条件になっている魔獣も森で討伐した事がある。
7日間探索したけれど、森の中で沼は見なかった。アトラ達はこの森の中で、沼地を見た事があるかい?」
「いんや、沼地みたいなどろどろした場所は見た事ないな。」
「綺麗な水の池なら見た事あるけど…沼は知らないなぁ。」
キュウヤの問いに首を振って、アトラとルビナが森の風景を思い出しながら答えて。
ちゃぷん、水面が揺れる。
「発生条件を満たしていない魔獣が少なくとも2系統いる。…となると、ダンジョンから出てきた、って考えると説明つくんだよねぇ。」
「ただいまー!全部狩ってきたよー!…ん、何?難しい話でもしてた?」
はふり、とキュウヤが息をついた瞬間、後ろの茂みから、ばさりとミルキィが帰ってきたのだ。
ひらり、ミルキィの頭から葉が落ちた。
「…おかえり?」
読了ありがとうございます!
また次話お会いできると嬉しいですっ。




