《議題2》動物園における啓蒙活動について
司会進行役 狸ヶ淵権八郎狸久右衛門
「次の議題へ移ります。全日本動物園狸活動の会会長•利根三郎狸九郎二郎殿、お願いいたします」
全日本動物園狸活動の会会長 利根三郎狸九郎二郎
「ただいまご紹介に預かりました全日本動物園狸活動の会会長の利根三郎狸九郎二郎と申します。この度わたくしが申し上げますのは、人間の経営する動物園における狸の啓蒙及びその労働環境の保全並びに改革についてであります。老若男女の人々に、我々狸の生態や行動に理解を示してもらうべく、長年各所の動物園と提携を行い、動物園における狸エリアの拡充を努め、現在全国43ヵ所の動物園において、狸の啓蒙活動が実施されております。有志諸君に動物園の狸バイトを斡旋し、若者への安定した生活の供給源にもなっております。ところが昨今、この動物園での労働環境について、さまざまなご意見が寄せられておりますのが現状です。以下、そのご意見のうちいくつかを取り上げます。ええー、まず、寄せられました意見についてまとめた書面がここにございますので読み上げます。ひとつめ、動物園での啓蒙活動については、言葉で煙に巻いているだけであり、実態は啓蒙とは程遠く、行動の自由を制限される時間と引き換えにただ人間に見せ物にされる動物に成り下がっている、これは誇りある狸のやることではない、これではまるで生活を質に取られ、好きな時間に排便もすることができないほど1日の大半を拘束された間抜けな人間と同じである!と」
司会進行役 狸ヶ淵権八郎狸久右衛門
「人間に対する不適切な発言が見受けられました。原文をそのまま読み上げるのではなく、不適切な箇所は適切な言葉に変換するか削除するなどして、連盟の品位を落とさないようご配慮をお願い申し上げます」
全日本動物園狸活動の会会長 利根三郎狸九郎二郎
「おいっ、誰だこの書類を用意したやつ!!!
あっ、失礼いたしました。これより先は、わたくしの方で、適切な言葉へ変換して述べさせていただきます。ええー、次のご意見につきましては、実際に動物園の狸に従事している狸からの意見です。昨今の夏は暑く、動物園の狸スペースも日陰があるとはいえあまりにも暑すぎるので空調が設備された職場を求めると。これにつきましては、動物園との協議を進めているところでございます。進捗状況につきましては、月末に刊行している狸活動月報にてお確かめください。次の意見です。狸の啓蒙活動に取り組んでいるとあるが、嘆かわしいことに人間の中にはアライグマと狸の区別がつかない者もおり、到底啓蒙活動が好調とは思えない。動物園を視察したが、ほとんどの人間は狸の生態について書かれた説明書を読みもせずに、しげしげと狸を眺めているだけである。果たして彼らは、我々を狸と思って眺めているのか、アライグマと思って眺めているのかとんと分からない。より一層狸の啓蒙活動を盛んにするには、動物園の取り組みだけでは難しいのではないのか。大変厳しいご意見ですが、これにつきましては我々も痛感しておるところです。また、蔵王きつね村に並ぶ四国たぬき村実現プロジェクトを立ち上げてはどうかと言うご意見も賜っております。そちらにつきましても会員一同となって検討する所存にございます。何か他にご意見等はございますでしょうか」
狸若連中同志の会会員 越後万三郎狸七宝丸
「動物園の狸の労働について、これは誇りある狸のやることではないとの意見がありましたが、これについてのお話がありませんでした。これについてはどのようにお考えでしょうか」
全日本動物園狸活動の会会長 利根三郎狸九郎二郎
「はい、これにつきましては非常に難しい問題だと捉えております。動物園とは提携により、一日8時間を労働時間とし、各狸は三交代制で動物園へ狸の身を提供しております。人間社会で使える通貨をもって報酬とし、雇用契約も人間の法律に則り結んでおります。よって、法律上、狸が自らの身を動物園に提供することはなんら違法なことではありません。また、これは現代社会における新たな狸の雇用の創出にもなっております。しかし、寄せられた質問内容につきましては、法律上適正かどうかではなく、狸のアイデンティティや尊厳に焦点を当てておることは我々としても重々承知するところであります。狸社会も複雑化、高度化する一方で、古来より我等の血脈に受け継がれし、誇り高き里山の生き物の地位が揺らいでいるのも確かでございます。この地位を確固たる地位として存続させるために、動物園との関係については見直す所存にございます」
狸若連中同志の会会員 越後万三郎狸七宝丸
「見直すとは具体的にどうされるおつもりでしょうか。動物園での啓蒙活動の廃止なども検討されるのでしょうか」
全日本動物園狸活動の会会長 利根三郎狸九郎二郎
「廃止の検討は今のところ行なっておりません。動物園での啓蒙活動は扱い方によっては、里山の生き物である狸本来の姿を広める格好の場ともなり得ます。現状、誠に遺憾ながらそのような場の実現とは程遠くはありますが、ありのままの自然界の狸に限りなく近い形での啓蒙活動の発案を通して、取り組んでまいります」
狸若連中同志の会会員 越後万三郎狸七宝丸
「わかりました。回答ありがとうございます」