悪役令嬢にヤバいのが転生したようです
「クリステラ・ファーレンハイト侯爵令嬢!お前との婚約を破棄する!」
キラキラしい王子様顔の男が金髪縦ロールの美人だけど目つきがキツい女性に指を突きつけ婚約破棄を宣告する。反対の腕にはピンク髪のゆるふわかわいい系の女の子を抱きとめているので、お約束を知っている人なら、はいはいあのシーンねという気になるだろう。
王子とヒロインの後ろには若い騎士と若い眼鏡の文官も立ってるから、彼らはおそらく未来の騎士団長と宰相なのだろうな。お約束だね。
そしてそんな彼らをまるでモニター越しのように俯瞰視点で観察している俺はただの日本のサラリーマンだ。なぜこんなのを見せられてるんだろう。昨夜は自宅で普通に布団に入って寝たはずだぞ。
「それはね、わたくしがあなたをここへ呼んだからですわ」
「だ、誰だ!?」
いきなり背後から女性の声が聞こえた。白く明るい扉も窓も何もない空間に映像だけが浮かんでいる状況で断罪劇場を観る前に意識が覚醒し、周りを見回した時には誰もいなかったはずだ。
後ろを恐る恐る振り返ると、豪奢な金髪に美しい妙齢の女性が神々しい純白の衣を纏って浮いていた。後光もキラキラと射してて誰もが女神と連想する登場シーンだ。
「め、女神、さま?」
「そうです。わたくしが女神ですわ」
何のひねりもなく女神だった。ちょっと得意そうに胸をそらしてドヤ顔してるのが可愛い。おかげでこの現実離れした状況に動転していた気が落ち着いてきた。
「ええと、すみません、今のこの状況を何かご存じなんでしょうか?」
ひょっとしたらドッキリを仕掛けてきてる相手に遜るのもどうかと思うが、まあ社会人なので初対面でぞんざいな口調は使えないよね。
「ご説明しましょう。お願いしたいことがあってわたくしがこの場にあなたの魂を呼びました」
「…魂とか不穏な単語が出ましたが、とりあえず後にして…お願いとは?」
女神は鷹揚に頷いて話を進めた。
「あなたにはそこの映像の先で責められている女性、クリステラを救って欲しいのです。彼女に転生して」
女神が指さした先では婚約破棄宣言されたクリステラ嬢が、もの凄い勢いで反論の弁をぶっているところだった。
「いやいやいやいやいや、転生って!?ていうかこのシチュエーションはスタジオのセット?トリック?」
自称女神のありふれていると言えばありふれている転生モノの導入に使われる話に、一応大人な社会人の俺としては乗るわけにいかず、ドッキリ番組の可能性にかけて大根気味だがうろたえてみせた。
「いいえトリックではありません。転生というのも本当ですよ。自身の魂だけの身体をご覧なさいな」
女神は宙に浮かんだまま、後背から漏れ出る光を強めた。俺は彼女の言葉に従って自分の手のひらを見つめると、透き通った手の先に女神の姿が見えるではないか。俺は慌てて自分の身体や脚などを透かしてみるが違和感なく透ける。リアルタイムなCGによるズレのようなモノも感じ取れない。少なくとも俺の認知能力では真実と判断できている。
「では経緯を説明しましょう」
女神がこちらの困惑を意に介さず話を始めた。
「ご承知の通り、クリステラは悪役令嬢です。王太子の婚約者ですが、彼の後ろで庇われてるピンク髪の聖女を虐めた罪で断罪中です」
うん、それはわかる。見たまんまだし。
「断罪への流れ自体は問題ありませんでした。本来の流れは王太子に気に入られた聖女に嫉妬した悪役令嬢が婚約破棄され修道院送りとなり王太子と聖女が結ばれてめでたしめでたし、という流れになるように世界を作りましたので」
はあ、まあオーソドックスかな。世界を作ったという発言が神っぽいな。
「ところが!あの聖女は!あのピンク女はっ!!あろうことか、わたくしが嫌いな逆ハーレムルートを目指しやがったんですわ!!」
「逆ハー!難易度高そうなことに挑戦するとかやるなあ。ていうことはあの聖女も転生者ですか?」
「そうですわ!」
「はじめに純愛ルートを目指せって言っとけばよかったのに」
「言いましたわ!何回も口ずっぱくなるほど王子ルートを目指せって言い聞かせたのに!あのピンク聞いてやがりませんでしたのよ!!」
女神の口調がだいぶ乱れている。そうとうご立腹のようだ。けど逆ハーはダメで略奪愛はOKって女神のくせに倫理観ゆるいな。
「世界の安定のためには王道ルートが最も望ましいという理由があるのですわ。決してわたくしの嗜好というわけではありません」
「なんか、思考読んでます?」
「剝き出しの魂から感情の揺れを読むのは簡単です。話の流れと合わせれば考えを推測することもできますわ」
自分の身体(魂)を眺めてみるが揺らぎというのは俺にはわからなかった。女神の知覚が特殊なんだろう。
「…それで悪役令嬢を救えとのことですが、転生してというのはどういうことでしょう?本来の彼女の魂があるでしょうに」
「彼女の身体に入って現状を打開してくださいな。ピンクの裏工作でこのままでは修道院ではなく家を追い出されて娼館いきですわ。それとあなたが転生すれば彼女の魂の方は弾き出されて消えます」
「えっ!?転生って過去に戻ってではなく?この状況からスタートってどんな無茶ぶりですか!?それとさらっと彼女の魂消えるとかカミングアウトしないでください!!」
「ピンポイントに時間を戻すって簡単なことじゃないんですのよ?単細胞生物からやり直させるならまだしも、そんなの神でも飽きてしまいますわ」
画面ではクリステラ嬢が槍を構えた兵士たちに包囲されて絶体絶命のピンチとなっている。このタイミングで俺が転生してもどうにもならんだろうし、転生したらクリステラ嬢の魂は消滅するし、彼女にとってはどこにも救いがないじゃねえか。とんでもないロクデナシだなこの女神。俺は女神の翻意を期待して言い募ってみるが聞き入れてはもらえない。
「──じゃあ!チートくださいチート!ただの日本のサラリーマンにこの状況切り抜けるスキルなんてありませんて!」
「どんなチートなら切り抜けられると?暴力的なのはダメですよ?そもそもプレイヤースキルで解決することを期待して、この世界の元ネタのゲームのやりこみ勢のあなたを呼んだのです。どうにかしてくださいまし!」
元ネタやりこみ勢って?俺は元ネタのゲームとは何のことかと聞くと、女神が言うにはこの世界は一世を風靡した某有名乙女ゲーを基に創り出したそうだ。ルートこそ王子ルートに入った状態で転生聖女に始めさせたが、ストーリーやフラグ処理なども完コピしてるので、バグ技を使って無理やりハーレムルートに突入されてしまったらしい。
「某有名乙女ゲーは俺も知っています。有名家庭用ゲーム機の国民的な人気タイトルですもんね」
確かにタイトルは知っている。
「けど俺、そのゲームやったことないですよ?」
「は?」
俺が家庭用ゲーム機で遊んでたのは高校生までだ。それ以降はパソコンゲームに移り、それも会社に入って仕事を始めたらしなくなった。ゲームブランクは10年を越えてる。そしてこのゲームは俺が社会人になってから出たゲームだ。
「えぇっ!?けどけど『Youつべ』で攻略RTA配信動画出してたじゃない!動画からソーシャルハックして3Dアバター貫通して割った顔から貴女なのは間違いないですわ!!」
そう叫んで女神が俺の前に出した映像には確かに俺が映っている。いや、俺によく似た人物だコレ。
「…これ俺の妹ですね。ニートの。あいつ部屋に籠って配信なんてしてたのか」
女神が俺の言葉の理解を拒んだのかフリーズしてしまった。俺と妹は顔立ちは似ているが男女の違いや髪型の違いもあるので間違われるようなことはなかったが、見た目からしてアジア系ではない女神からしたら、日本人の兄妹の顔を見分けるのは難しかったか。ちなみに俺が女顔に見られるようなイケメンなんてことはなく普通のチーズ牛丼が好きそうな顔でしかない。
それはそうとこの女神の顔割った方法が想像つかないくらい高度そう、かつ手慣れてそうでドン引きなんだが。
「人違いだったということで帰してもらっていいですか?もしくは妹と交代させてください」
「無理っ!転生法の発動間際で今更キャンセルできませんわ!」
「はぁっ!?ちゃんと最終的な了承の返事聞いてから魔法使ってくださいよっ!」
「会話の流れの中でテンポよく大魔法を発動するには会話と同時並行して準備が必要ですのよ!」
勝手なことをいう女神から何かパワーが溢れ、俺の周りを光る魔法陣が取り囲んだ。今にも輝きが爆発しそうなブオンブオンという擬音も聞こえてくる。
「もう時間がありませんわ!貴方も日本人なら転生モノぐらい読んだことあるでしょ!その知識でなんとかしてくださいまし!」
「ちょっ!まっ!アホ!それは偏見んっ!予備知識も無く悪役令嬢を助けるとか無理ぃ!!」
魔法陣が俺たちの輪郭を消し飛ばすほどに輝きだして光が溢れる。──
──閉じた瞼を透過する明かりが暫く続く。それがおさまるまで待ってから目を恐る恐る開けてみると、しかしながら俺の視点が変わっているということはなく、先ほどまでと変わらない悪役令嬢の断罪劇を俯瞰視点で映したモニターが暗闇に浮かんでいるだけだった。
「あ、あれ?不発?」
俺の身体もさっきまでと変わらず半分透けている。俺自体に変わったところはないように思えた。女神の方をみると、姿に変わりはないが大きく口と目を見開いた表情はギャグ漫画のような驚愕の顔だ。
声も出さずワナワナと震える女神の視線の先を追っても暗い空間が広がるだけだ。いや、俺が覚醒したときは白い空間ではなかったか?暗い空間は果ての見えない黒い壁だった。横を向いても上を向いても果てがない。目の前に視界を埋め尽くして尚広がる壁が突然現れたのだ。
「め、女神様、何が起きたんですか!?この黒い壁はいったい!?」
「し、静かに!…いえ、我々の声など知覚されていないかもですわね…」
「この壁が何か分かるんですか?」
「人には壁と認識されますか…壁ではありません。こことは異なる世界から顕現された高次元の存在、高次元異界神がなぜか今ここにおわします!」
女神が戦慄きながらその存在について教えてくれた。俺が高次元異界神を正しく認識できないのは存在の格が違いすぎるかららしい。例えるならゴルフボールと地球ぐらいの差であり、本来なら壁とも認識できない筈だが、ありえないほどの天文学的確率に当たって転生法が高次元異界神を引き寄せたことで、人間の俺でも壁という物理的な存在として認識できているのではとのことだ。女神にも正確なことは分からないようだが多分こうじゃないかと解釈を語っていた。
ちなみに女神と高次元異界神の差は東京都と地球ぐらいの差で、女神はかろうじて高次元異界神の存在を確認できるが、試しに姿形を聞いてみたところ名状しがたきモノとかなんとかという答えが返ってきた。
「何がどうなってこんな事態に陥ったのか分からないけど、クリステラ嬢の中へ変質した転生法をパスに高次元異界神が入っていますわ!!」
「存在規模がボールと地球並みに違うのにそんなことできるんですか!?」
「出来ません!普通はありえませんとも!!」
女神が髪を振り乱して絶叫するように答えた。SAN値がやばいのかもしれない。
「例えるなら一合桝にありえない質量がみちみちのみち子さんに詰まっている状態ですわ!その隅っちょにクリステラ嬢の魂が圧縮されてるのに崩壊もせずに押し込められていますの!!」
映像の中では先程まで炎の魔法を周囲にばらまいて元気に兵士たちの接近を阻んでいたクリステラ嬢が、両手をだらんと下げて棒立ちとなっている。女神が言うには目の前にある黒い壁の一部がクリステラ嬢の中に突っ込んでて、一応元々の魂も隅っちょに残っているということか。転生法が成功してたら魂が消えてたこと考えたらまだマシか?
「なんとか高次元異界神にお帰りいただくことはできないんですか?」
「意思疎通を開始するまでが難しいですの。こちらを認識して下手に身じろぎでもされればクリステラ嬢の身体が大陸破壊爆弾のごとく炸裂する危険性がありますわ」
俺たちがやり取りしている間も断罪劇場の時間は進む。クリステラ嬢に高次元異界神が入った時の異様な気配にあてられた兵士たちが遠巻きに警戒する中、事態が思い通りに進まないことに焦れた王子がイライラと兵士たちに檄を飛ばす。
「何をしている!クリステラは魔力が底をついたから動けないのだ!早く取り押さえろ!!」
王子の言葉に背中を押された兵士たちが槍を構えて棒立ちで天を向いて白目を剥いた悪役令嬢を取り囲む。隊長格の兵士が一人で前に出てクリステラ嬢に降伏を呼びかけ肩に手をかけようとしたその時、それまで白目を剥いていた瞳がグリンと前を向き、さっきまでの激情が嘘のように鳴りを潜めた様子で何の感情もあらわさない顔を前に向けて楚々と立つ悪役令嬢がそこに現れた。映画の場面転換でも起きたように切り替わった悪役令嬢に隊長格の兵士の動きも止まる。
姿かたちは先ほどから対峙していたクリステラ・ファーレンハイト侯爵令嬢だが何かが決定的に違う。兵士やその世界の人間では感知できないが、その次元の異なる大いなる気配は不幸にも一番近くによることになった隊長格の兵士の精神をグラインダーを掛けるように急速に摩耗させた!
「ァァぃぃァァぁっぁ#%&!!9rsrRRァァイアアアッッッッ!!!!」
『あっ!?バカ止めてっ!!』
兵士がいきなり泡を吹いて叫びだし悪役令嬢に向けて槍を振りかぶった。それを俯瞰映像で見ていた女神が焦ったように声を出して静止しようとする。
──刹那、音が消える。
誰も認識できなかった。悪役令嬢の手がハエを払うように何もない空間で振られるのだけは見えた。何も齎さない。事実、起きたことと因果関係はないのかもしれない。
ただ、その手の振るわれた先に広がる、人も、調度品も、壁も、建物も、城壁も街並みも、空に浮かぶ雲さえも、ごっそりと何の予兆も余波もなく特大の規模で消失したのだ。
「──馬鹿なことを…高次元異界神に不用意に近づくという刺激を与えるからです…」
女神が苦虫を噛み潰したような表情で映像を見ながら言葉を漏らす。
「い、いったい何が起きたんです?手を振ったらクリステラ嬢の右前方の床も何もかもが消し飛んで城の外も見えちゃってますけど。うわっ!?消えたとこの断面がめっちゃ鋭利!」
「高次元異界神にうざいと思われたのでしょう。そう意識を向けられただけで空間が消え去ったのです。手の動きは特に関係ないですわ」
映像の先で遅まきながら気を取り直した人たちが騒ぎ始めた。
「な、な、何をしたクリステラァ!?」
「えぇっ!?悪役令嬢のクリステラにこんな力があるなんて聞いてないわよ!」
浮気王子と転生聖女が腰が引けた様子で何か文句を言っている。他の逆ハーメンバーも聖女を庇う素振りは見せるが積極的に前には出てこない。
クリステラ嬢の身体を動かす高次元異界神は特に新たな破壊を齎すわけでもなく、あたりを観察している。微妙に目の焦点が合ってないようにも見えるから目で見ているわけではないのかもしれない。
高次元異界神憑き悪役令嬢が断罪劇場となっていた王宮のダンスホールを移動し始めた。移動するといっても歩いてではなく空間を歪ませてだ。何を言っているのか伝わらないかもしれないが見たままで言うのなら、クリステラ嬢は立ったままで周囲が陽炎のようにぐんにゃりと歪みながら彼女の位置座標が変わるといった感じだ。歪められた空間は彼女が通った後は通常空間に復帰するが、そこにあった物質は歪められた形状で残る。人が巻き込まれればかなり悲惨な様相になることは想像に難くないだろう。なので彼女の移動に巻き込まれまいと舞踏会参加者たちが悲鳴を上げて逃げ惑っていた。
「これどうすんですか?ほっといたらお城が瓦礫になりそうなんですけど」
「不興を買えば城どころか惑星が一瞬で蒸発いたしますわ!こうなったら現地のマオちゃんに退去誘導してもらいましょう!」
女神が虚空に向けてみょいんみょいんと怪電波を飛ばし始めた。
「あのぉ、ところでマオちゃんって誰です?」
「魔王のマオちゃんです。わたくしのペットなんですけど現地人類には内緒ですわ」
「わかっちゃいたけど、やっぱ黒幕女神か」
王宮のダンスホールは高次元異界神憑き悪役令嬢があっちこっち徘徊するので、ムンクの叫びのごとくあらゆるところが歪みまくっている。逃げ遅れた人間が何人か巻き込まれたようで、生きた奇怪なオブジェとなって不気味なうめき声を上げ、さながら地獄の様相となっていた。
「マオちゃん着拒していますわ!あの駄犬めぇ!高次元異界神の気配に気づいて雲隠れしたわねぇ!!」
「あぁ~、なんか王子がみんなの力を合わせて攻撃するみたいですよ?」
「うそっ!?お止めなさい!バカッ!!」
高次元異界神憑き悪役令嬢から離れたところで、王子がキラキラした剣を両手で構えていた。彼の傍らには転生聖女が立ち、両手を王子の剣に向けて青いもやもやなパワーを送っている。同様に王子の後方に未来の騎士団長たち逆ハー要員も立ち、剣に手を向けてパワーを送っていた。
「王宮をこんなにも破壊するとは!クリステラこそが魔王に違いない!正義の剣を受けよ魔王!!」
王子が決めセリフを放ってキラキラ剣を大上段から振り下ろすと、集まったパワーが青い光の奔流となってクリステラ嬢に殺到する。
「やったか!?」
おいアホ王子!当たる前からフラグ立てんな!フラグのせいか青い光の奔流はクリステラ嬢に到達する前に消えていく。横から見ると画面が分割されているように青いビームが境目で途切れているのだ。
「うわ…あれってたぶん攻撃を別次元(?)に飛ばしてるんですよね?」
「ええ、なんの予備動作もなくノータイムで次元の扉を開いてますわね。あぁやっぱりとんでもない反撃が…」
女神が憐れみを込めた声を途切れさせた先では、必殺の青いビームを完璧に防がれた王子たちが絶望の表情を晒していた。高次元異界神憑き悪役令嬢は興味がないのか背中を向けているが、青いビームを飲み込んだ次元の穴は宇宙に星が瞬く空間への穴を開いたままであり、次の瞬間その穴が分裂増殖してクリステラ嬢と王子を分断するようにダンスホールを埋め尽くした。
「「「!?」」」
王子たちが言葉を発するより早く、無数の次元の穴から青い光の本流が迸った。青いビームは王子の必殺技と全く同じものであり、時間と空間を弄ってコピーして増やされたものである。生き残っていた舞踏会参加者たちもこの攻撃にはなすすべもなくビームの熱で蒸発させられていく。兵士や王を守る近衛兵などの高レベルな者たちも王子の必殺技には数秒も耐えられない。さらにはそのビームが幾本も纏まって照射されれば王子たちなど選ばれし強者たちですらひとたまりもなかった。
「うっわぁ…王城が半分消し飛びましたよ」
「さっきと違って物理的な破壊だから周囲への影響も大きいですわね。王城の向こう側の街並みも燃え上がってますわ」
現地に居ない俺たちはのんきともとれる感想を漏らすが、あの場にいた人たちは大変だろうな。
「…転生聖女が物理的に消えて、悪役令嬢のクリステラが残ったから、これはこれで解決ということかしら?」
「いやいやいや、現実逃避しないでください。どう考えても転生聖女よりやばいもんが女神さまの世界に残ってますって!」
映像の中では高次元異界神憑き悪役令嬢であるクリステラ嬢が、現状把握が済んだのか、城の外へ飛び出し、思うが儘に高速移動している。空間を歪め邪魔なものは消去しながらの移動なので被害は甚大だ。
「これ、三日ともたずに世界崩壊すんじゃないですかね…」
「あ、あははははは…」
俺と女神はなすすべもなく崩壊していく世界を眺め続けるのだった。
完




