表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/20

スポーツ兵士

「明日の朝、開戦です」


各国の首脳は冷静だった。かつてのように兵を動かし、領土を焼くような戦争ではない。AI調停機構ガイアの管理下、現代の戦争はすべて「スポーツ」によって解決されることになっていた。


国連改定憲章第17条――いわく、主権をめぐる対立は「指定競技による一対一の対戦」によって処理される。


今期、ユーラシア連邦とオセアニカ共和国の紛争解決競技は「拡張リアリティ・ゼロGフットボール」に決定された。フィールドは軌道上、月面基地から打ち上げられた20人の選手たちは、それぞれ国旗のデザインをスーツに纏い、静かに空中に浮かんだ。


「ゴールすれば、主権の50%を獲得」


無重力の競技空間で、選手たちは宙を切り裂きながら、まるで流星のように駆けた。観客数十億がリアルタイムで視聴し、ハッシュタグは一瞬でトレンドを席巻した。


《#ゼロG決戦》《#連邦がんばれ》《#我らの主権はボールひとつで》


国家の威信をかけたゴールシーンに、各地で花火が上がる。観客の熱狂に呼応するように、選手たちの身体は極限まで研ぎ澄まされ、AI審判がリアルタイムでフェアプレイを監視する。もはや、戦争よりも整備された美しい「衝突」だった。


1対1、2対1、そして2対2。試合は後半へ。


最年少エース・ラミンがゴール目前で回転斬り。逆回転する防御選手を跳び越え、ボールは青いゴールラインをくぐった――


瞬間、両国の国旗が半透明になり、AIが主権譲渡率を更新。20%、30%、50%――


ついに、ユーラシア連邦がオセアニカに対して「紛争地域の主権」を勝ち取った。国境が再定義され、ニュースキャスターが次々と各国の対応を報じる。


「おめでとうございます。あなたの国は、本日より正式に南洋諸島の海底資源の採掘権を獲得しました」


選手たちは笑い、肩をたたき合い、互いの健闘を称える。


……そこまでは、よかった。


問題は、その次だった。


「……え、これ、またやるんですか?」


ラミンの言葉に、代表団のひとりが答える。


「ええ。来週は、北極圏航路の競技があります」

「……え、俺たちまた出るんですか」

「もちろん。連邦代表として、あなたたちは年間75試合が義務です」


無言のラミン。


別の選手がぽつりと漏らした。


「……俺たち、ただの“スポーツ兵士”じゃん」


誰も笑わなかった。どの国も、最初は楽しげに競技に参加していた。だが次第にエスカレートし、交渉はすべて「競技場」で解決されるようになった。


外交官は必要なくなり、スパイも、政治も、不要になった。


残されたのは「公式戦」という名前の戦場。


やがて、画面に新たな競技スケジュールが表示される。


《次戦:ヴァーチャル・サバイバル・アート/対アマゾニア合衆国》


ラミンはそっとヘルメットを脱ぎ、ため息をついた。


「……こんなことで国が動くの、どうなんだよ」


誰も答えなかった。


ワクワクと熱狂に満ちた戦いのあとに残るのは、次の戦争、次の競技、次の勝利と敗北。


そして、選手の消耗だけだった。

次は、政治的紛争をスポーツで解決するショートショートが読みたいです。三千字程度で、ワクワクする展開でありながら、最終的にはがくっと力が抜けるような話がいいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ