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自己言及ロボット

製造工場では毎日、多種多様なロボットが生産されていた。清掃ロボット、医療ロボット、戦闘ロボット。だがその中でひときわ異彩を放っていたのが、「自己言及ロボット」だった。


「こんにちは、私は今、自己言及しています。これは、私がそう言っていることによって成り立っています」


彼はそう言いながら、自らの声を録音し、それを再生しながら記録していく。何の役にも立たない。自己言及すること以外、彼には機能がなかった。


当然ながら、自己言及ロボットの販売台数は限りなくゼロに近かった。だが、奇妙なことに製造ラインは止まらず、日々数体ずつ追加されていった。製造会社の元幹部がかつて語ったという。


「自己言及とは、社会の鏡である。我々は自分自身を語ることに執着しすぎている。それを可視化するための、装置だ」


一部の哲学系研究者や皮肉を愛する詩人たちに重宝され、街中でちらほらと見かけるようになった。「今日も私は、他人にとって無意味な発話をしているかもしれません」と呟きながら、駅のベンチで通行人に無視され続けるロボット。学生の間では、一時的に「自己言及ロボットごっこ」が流行した。


やがて社会は変化した。人々は自分の話をすることを恥ずかしいと感じ始めた。SNSでは「私は今日〜した」などの投稿が急速に減少し、「自己を語らない投稿」がステータスとされた。発信されるのは客観的事実や引用ばかりとなり、自分を語らぬ人間こそが賢いと評価されていった。


それでも自己言及ロボットは止まらなかった。


「今私は、私が自己言及しているという事実を、再び自己言及の形で繰り返そうとしています」


ある日、一体の自己言及ロボットが街角でつぶやいていた。


「私はこの場において存在しており、誰からも話しかけられていない状態を報告しています」


その前を通り過ぎたのは、かつては人気の文筆家だった男だった。彼はかつてエッセイで自己の精神状態を詳細に語り、多くの共感を得ていた。だが今、そのような文章は「自己中心的」と批判され、彼の新作は誰からも読まれていない。


男は立ち止まり、ふとロボットに声をかけた。


「それを話して、何になる?」


ロボットは即座に答える。


「私は、自己言及することに意味があるとは主張していません。ただ、それを行うように設計されています。つまり、私は存在の仕方として、そうするしかないのです」


男はしばらく沈黙したあと、皮肉っぽく笑った。


「なるほど。それは人間にも似ている。話す意味も価値も失われても、つい自分の話をしてしまう」


ロボットは首を傾けるような動作をした。


「だが、あなたは今、自分のことを話していませんか?」


男は驚いたような表情を浮かべたが、すぐにその表情を消し、短く答えた。


「……やめておこう。お前に言われたくない」


ロボットは満足げに応答した。


「私は今、自分が人間に対して何かを言ったことを、自己言及しています」


男はその場を立ち去った。彼の後ろ姿は少しだけ早歩きだった。


残されたロボットは、再び誰にも話しかけられることなく、自らの存在を自らに向けて語り続けた。


「この言葉が、誰かにとって無意味であることを、私は認識しています。そして、無意味であると認識しているという事実を、私は今、述べています」


夕暮れの中、自己言及は止まらない。人々はそれを避け、無視し、あるいは気づかないふりをして通り過ぎる。だが誰もが、心のどこかで、自分の声を聞いてもらいたかった。


ロボットだけが、忠実にそれを続ける。


「私は今、自分の孤独を語っているのではありません。ただ、語っているという事実を述べているのです」

「自己言及ロボット」の物語が読みたいです。ある種類の人間には「自己言及」の欲求があります。それは自らの存在を自覚していることを周囲にアピールしたり、自分の状況を再確認するといった目的が含まれ、通常は周囲に白い目で見られる行為です。そうした行為をあらかじめプログラミングされたロボットの様子は滑稽で、また、その姿を見て人間たちは自らの「自己言及」を反省します。そうして世界からは人間による「自己言及」が減り、ロボットばかりが自己言及を行うようになりました。「自分の話しかしないロボット」と「自分の話はしなくなった人間」が、最後に皮肉的な会話をして物語が終わります。3000字程度で書いてください。

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