第四話
「おはようございます」
「おはよう燈真!昨日は大丈夫だったか?」
「はい!」俺はにこやかに答える。時刻は9時ごろ、先生の家にいた。魔力の制御には時間がかかると思い、なるべく早くに訓練に来た。昨日はうまく制御できずに訓練場を吹き飛ばしてしまった。
(まだ地面は昨日のままなのかな…)
心配に思いつつも訓練場を見てみる。すると、
「あれ?もう全部直せたんですか?」
そこは、何もなかったかのような整備された訓練場だった。
「あぁ、昨日は言えなかったもんな。見てろよ…」
すると先生はいきなりレーザーのようなものを発射した。その着弾点は爆発が巻き起こり、爆風に怯み俺は咄嗟に腕でガードした。顔を上げるとそこは、昨日と同じようにえぐれた地面があった。
「これ…どうするんですか?」
「この訓練場は壊れてもすぐに直せるように「保存」してあるんだ。こんなふうに地面がえらい事になっても一瞬で直せる」
先生は前へと踏み出し、手を地面に当てて詠唱した。
「『テンポラリアン』」
すると周囲は青白い光の柱に包みこまれ、地面がみるみるうちに平坦にならされていく。光が消え、先生が地面から手を離す頃には、何事もなかったかのように元通りになっていた。
「ざっとこんなもんだ。便利だろ?」
「……」
すごすぎて言葉も出ない。もちろんテンポラリアンもすごかったが、その直前に放ったレーザーのインパクトが強すぎる。
「さ!気持ちリセットして特訓するぞ!」
(いや無理だろ!)
心のなかでそうツッコみつつも、俺は先生の隣に立つ。そして、カテリアン鉱石を受け取り、ポケットに入れる。左手を突き出し、右手を添える。魔力をためすぎないようにして、紋章を意識する。
「燈真、魔力は血液とおんなじで常に全身を駆け巡っているものだ。心臓を意識するといいかもしれない」
「はい!」
心臓を意識…目をちらっと開けると紋章が赤く光っている。ただ、昨日ほどではない。閃光を放ってはおらず、ただ赤く染まっていた。
「放つ!」
力を込めた左手からは、ハンドボールほどの火球が放たれた。
「うおぉ!!」
俺は大興奮だった。本当に魔法が撃てたことに喜んだ。
「先生、いまのは成功ですか?」
「あぁ…すげぇなお前、まだ二日目だろ?それで制御できんのは、飲み込み画はえぇのなんの…」
先生は感心しているようだった。先生は手を「パン!」と一回鳴らし、次の特訓に移った。
「いまのが炎魔法の基礎だ。魔法名とかも詠唱とかも必要ないからな。んじゃあ次だ。俺が見本を見せる」
先生が取った構えはさっきとは違い、左手を左下に伸ばし重心を低く取る。
「『ボーダー』」
左手を薙ぎ払うと、地面に赤い線が浮き出る。途端にその線の上で炎が燃え上がり、壁のようになった。
「これがボーダーだ。普通の敵はココを通れない。自分の姿を隠したり敵の行動範囲を狭めれる。使い方は、ボーダーって言ったあとに手を薙ぎ払う。地面に線を引くイメージで魔力を出してみな」
(地面に線を引くイメージ…)
「『ボーダー』!」
薙ぎ払うと、同じように線が浮き出た。
「その線を、上に上げる感じだ!」
線を上に…すると、同じように炎が燃え上がった。先生のに比べると高さはないけど、俺の身長ぐらいはある。
「やっぱ飲み込みが早いな。素質あるぞ?お前」
そう言うと怪訝な顔で近づいてきた。
「やっぱり、前の世界に魔法がないって嘘じゃないか?」
「いやいや!本当になかったんですよ!」
証明する方法はないが…
「まぁいいや。ちなみに、お前が消したいと思ったときにこの炎は消えるぞ」
(消えろ)
炎は軽く弾けて消えた。
「魔法ってのは自分のイメージを具現化するような感覚だ。その像を結ぶのには特訓しなきゃいけないけど、ある程度自由度は高い。自分で魔法を編み出すことも可能だったりするしな。」
自分で魔法を編み出す…俺にはできっこないだろうが、やはり憧れるもんだよな
「ま、魔法はこんぐらいでいいか。武器も使えるだろ?だから今日はこのぐらいで…」
「ちょっ、ちょっとまってください!」
「?」
なんで俺が武器を使えると思っているのか…
「俺、武器なんて使ったことありませんよ!」
「…はぁ?んな話があるかよ?じゃぁどうやって戦うんだよ?」
「基本俺等は戦いません。そんな物騒な世界じゃなかったので」
呆然とする先生。まさか…
「もしかして、「そんな世界があるのか?」って思ってます?」
無言でコクリと頷く。
「あるんです。申し訳ないですが、武器の方も訓練してください」
「あ、あぁ、それはいいが…そっかぁ、そんな世界があるとはなぁ…」
困った顔で頭を掻くが、どうしようもないだろう。
「わかった。じゃあ、武器は何がいい?」
「うーん…なんかおすすめとかあります?」
「そうだな…無難なのはブロードソードだな。使いやすいし。ちょっと待ってな。持ってくる」
そしてどっかいった。その間に俺はいろんな武器を頭の中で思い浮かべた。剣、刀、斧、槍、短刀、双剣、メイス、鞭、大槌、メリケンサック…上げればきりがない。
(使いやすそうなのは剣、刀ぐらいか。多分そこの二択だな)
「一気に色々持ってきたぞ!」
帰ってきた先生の手にはさっき思い浮かべたものから全く知らないものまであった。
「ほら、これがブロードソードだ。持ってみ」
手渡された剣はごく一般的であろう西洋剣。長さは地面から俺の腰ほど。俺は構え、なんとなく素振りをしてみた。(年頃なら木の棒とかでやったことあるよね?)
「…使えてるじゃねぇか」
「え?これでいいんですか?」
「まぁまだ色々指摘はあるが…もう形になってるんだよなぁ」
なんと、人生初の素振りでほとんどOKをもらった俺である。
「まぁ実践が一番の練習っていうか。よし、俺と一回戦ってみるか」
「えぇ!?」
(あまりにも…あまりにも展開が早すぎる!!!)
そう思ってるうちに先生はロングソードを構える。
「殺しはしない。そのかわりお前は俺を殺すつもりでかかってこい」
「は、はい!」
シン…と当たりが静まる。だいたいこういうときは先手必勝だ。俺は先生を捉えつつ、左手を薙ぎ払った。
「『ボーダー』!」
俺と先生の間に炎の壁ができる。俺はその壁の前に立ち、火球を放った。そして壁の奥に回り込んで火球と同時に攻撃する算段だった。
だが、すでにそのときには先生の姿はなかった。
(どこいった…?)
そのとき、俺の足元にレーザーが着弾した。
(!?)
「どこ向いてんだぁ?後ろだよ!」
後ろを振り向くと、すでに上から剣を振りかざして飛んでくる先生がいた。咄嗟に俺は剣を寝かせて刀身の側面で刀を受け流す。その勢いのまま剣を振り下ろすものの、咄嗟に転がってかわされる。俺は追撃で火球を放つ。その時、更に後ろに退かれないようにボーダーを放つ。
「うおっ!ボーダーかよ!?」
(いった!)
「『プロテクション』!」
キィィィィン!!!
突如として俺と先生の間に青白く透明な盾が生まれ、俺の剣を弾き返してしまった。
「ちょっと!それありなんですか!?」
「お前はヴィレデクの手先と接敵したとき、最初に相手に能力を聞くのか?」
その言葉におれは何も言い返せなかった。そんな俺の動揺を突いて切先で俺の左肩の付け根を的確に突いてきた。俺は避けることができず、先生の刀身は俺の体を貫いた。
「い゙っ…あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
あまりの痛みに地面に倒れ込んだ。血の気が引き、意識が遠のく。
「立て!燈真!そうしている間にも敵は畳み掛けてくるんだぞ!」
「そ…そうは言っても……」
「その傷では死にはしない。言ったはずだぞ?「殺しはしない」と」
(そんな無茶だろ…)
正論で何も言い返せなくしてくる先生の言葉に打ちのめされそうになったが、このままではいけないと体勢を立て直す。しかし、左腕はもう使えない。動かすと激痛が走る。
「一つ言っておく。右手でも魔法は撃てるが、紋章が左手にある以上威力は落ちるぞ」
「わかりました…!」
攻略しなければいけない点は3つ。攻撃をかわされずに叩き込むこと。謎のレーザー魔法。そして、プロテクションとかいう防御魔法。それに加えて魔法がうまく扱えないまである。
体勢を低くして斬りかかる。下から上へ。人としてはなかなかに守りづらい攻撃のはず。だが先生はひらりとかわして俺の腹に蹴りを入れる。
「ぐふっ!」
俺はさっきの武器の山の方に吹っ飛んだ。このままだとほんとに殺されかねない。
(なにか…なにか打開策を練らないと…!)
「終わりだ!」
先生が正面からレーザーを撃ってくる。かわしきれずに右頬をかすめる。咄嗟にボーダーを張るが、時間の問題だろう。
(まずい…まずい…!)
気づくと俺は、武器の山に手を伸ばしていた。
─続く