第二話
「燈真さん!おはようございます」
「…んん?あぁ、クーニャ、おはよう」
眠い目を擦り体を上げる。
「昨夜はよく眠れましたか?」
「うん、家のベッドみたいにぐっすりだよ」
話しながら下の階に降りると、そこには湯気を立てた朝食が並んでいた。すべて、クーニャの手作りだという。
「お口に合うかわかりませんが…。食べてみてください」
「ん。いただきまーす」
パンのようなものを口に運ぶと、ほんのりと甘く、おいしかった。他の品も俺好みの味付けで、あっという間に食べ終わってしまった。
「ごちそうさま。クーニャ、美味しかったよ」
「それは良かったです。」
「ところで、俺はこれから何をすればいいんだ?」
昨日いきなり転生されて初日、まず何をするべきなのか全くわからない。
「そうですね…他の4人の方とスムーズに合流できるように、転生してから7日後に出発することになっていますので、それまでに色々準備をしないといけません。まず…服をどうにかしちゃいましょうか」
「服?」
自分の服装に目を向けると、俺は元いた世界でのパジャマのままだった。
(これじゃあすぐに死んじまうな)
そう苦笑いすると、クーニャは「防具屋に行きましょう」といった。
「防具屋に行けばいろんな装備が売っています。燈真さんのお気に召した装
備を選んでください。お金は私が払います」
そうやって笑ったクーニャに連れられ、この街唯一の防具屋へと向かった。
「いらっしゃ~い」
でかい大男が会計をしてるその防具屋は、一般的な体育館ぐらいの大きさだった。それも二階建て。俺はどこから見ようかなと迷っていると、「一階は主に鎧とか、甲冑とか結構重めの装備です。燈真さんにおすすめなのは、二階の比較的ラフな装備ですね」と教えてくれた。
「それって防御力とか大丈夫なの?」
ラフな格好といったらシャツとかパーカーとか、剣や斧であっさりバッサリいかれそうだが…
「安心してください。この防具屋の腕はすごいんです!ただの繊維に見えても、実は金属を細く柔らかく加工した合金繊維で、動きやすさと防御力を両立した装備なんです。まぁ甲冑とかに比べれば脆いですが…」
(俺のいた世界よりも技術が発展してんだな)
実際に一階の奥では、ガラスの向こうで鍛冶の様子が見える。鉄の棒を極限まで細くして、その鉄で服を編み込んでいる。
俺は感心しつつ二階に上がると、そこはまるで服屋だった。
流石にTシャツとかはなかったが、パーカーやジャンパーのような服がたくさんあった。実際に触れてみると、確かにこっちの服より柔軟性は劣る。
二階を散策するうちに、一着の服が目に止まった。深く、何にも染まらないような漆黒。内側はほんのり赤く染まった、フード付きのローブだ。そのローブを手に取ると、クーニャが寄ってきて、ローブについて説明してくれた。
「このローブは特殊な金属を利用してるんです。アレビリウム合金といって、魔法などの威力を弱めるんです。仕組み的には、その合金繊維の中で魔力を循環させると同時に、空気中にゆっくり逃がすんです。多少値は張りますが、この特徴は結構役に立ちますよ。実際、私が着てるローブも、このアレビリウムで出来てるんですよ」
見ると、クーニャのローブは俺の持ってるものに比べ、全体が紫がかっていて、より神秘的な雰囲気になっている。
(結構いいかもな…)と思い、値札をちらっと見てみると、「1000ポル」と書かれている。
「1000ポルってどれぐらいなの?」
「燈真さんがいた世界の相場はわかりませんが…こっちだとリンゴ一個40ポルぐらいですね」
(こっちだとリンゴ一個200円ぐらいだから…)
200:40=x:1000
40x=200000
x=5000
(5000円!?結構高くないか?)
「結構高いと思うんだけど…大丈夫?」
「1000ポルぐらいならぜんぜん大丈夫ですよ?安くはないけど、そこまで高くもないです」
「じゃあこれにしようかな…」
「インナーとかも買ってくださいよ?」
忘れてた…
そうして1時間ほど吟味した俺達は、ローブと襟付きのシャツに、速乾性のあるインナーとズボンを買った。店で着ると、我ならがそこそこ似合っていた。
─────
そして俺はクーニャと別れ、図書館に向かった。この世界について何か知っておかないとまずいと思ったからだ。
結構大きな(国立図書館ぐらい)図書館に入って、俺は司書さんに聞いて歴史コーナーに向かった。
なにかそれっぽい本を手にとって開くが、文字が難しくて読めなかった。他の本も同じく、独自の言語で書かれてて解読不可能だった。諦めて帰ろうとしたときに、一人の女性が声をかけてきた。
「なにかお困りですか?」
「あぁ、俺、最近この世界に来て、調べ物をしたいんだけど文字が読めなくて…」
するとその女性はなにか感づいたように聞いてきた。
「最近…というと、もしかして勇者の方ですか?」
「あぁ、まぁそうだけど…」
すると女性はニコっと笑い、「手伝えることがあったら手伝いますよ」といってくれたので、お構いなくこの世界の歴史について教えてもらった。以下の文章は、一部抜粋したものだ。
─遥か昔、この世界「ベレット」は、人々の支え合いによって成り立っていた。何個もの国ができ、その各国々で統治を行っていた。
そんなある日、一人の男「クレイドル」が、とある王国の中で王族殺しの大罪を犯した。その事件がきっかけで、世界大戦が勃発してしまった。いずれ集結するかと思われたこの戦いは、戦線の泥沼化によって冷戦へとなった。
そこで新たに攻め込んできた勢力が、魔族「ヴィレデク」であった。泥沼化し緩んだ戦線を狙い、一瞬で世界を征服してしまった。そんな状況を打破するために、すぐさま「リアド王国」は二人の勇者を転生した。その二人は魔王を倒すことに成功したが、その後、手下の突然の奇襲により二人の勇者は敗れた。
ヴィレデクは世界を統治しやすくするためにリアド王国と「ゾアル王国」を合併することを命じ、「ゾリアルド王国」が誕生した─
「なるほどなぁ。結局はこうなったのも発端はクレイドルのせいってわけか」
「まぁあくまで引き金ってだけですがね」
「ありがとう、助かったよ。俺の名前は夢見燈真。あなたは?」
「マレリア・スボラです」
マレリアのお陰で俺は、無事ベレットの歴史を知ることができたので、俺はクーニャの家に戻ることにしようと腰を上げると、
「また何か知りたいことがあればこの図書室に来てください。わたし、いつもここにいるので」
「また助けてもらうかもしれない。そのときはお願い」
ニコっと笑った彼女に見送られ、俺は図書室を後にした。
「あ、おかえりなさい!」
「ただいまー」
帰るとすでにクーニャが夕飯を作っていたので、それを二人で食べて自室に戻って考え事をした。
(クレイドルってやつが争いの火種になったのか。もしかしたら、そのクレイドルがヴィレデクの回し者なのかもしれないな…)
考えてるうちに眠くなったので、俺はそそくさとベッドに入り眠った─