魔
「大分血を失ってるなぁ…ま、助けてもらった恩があるし、ここは気合入れますか!」
『回復!』
謎の少女が手をかざすと、キングの傷が塞がっていき、悪かった顔色がみるみる良くなっていき
ついに意識を取り戻した
「ガハッあ!ゲホッ!ゲホッ!…どれぐらい寝てた!?ここは…」
「お?起きた?結構君死にかけだったから私に感謝してもいいんだよ?」
「ん………!!」
キングは横の少女の存在に気づき、とっさに剣を構えて少女へ向けた
「お前、その尖った耳、魔物だな!?来い!叩き斬ってやる!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!君の傷治したの私!ブラッドに囚われてた所を助けてもらったから恩返しがしたかったの!だから剣降ろして…?」
警戒しながらも剣を降ろし、確かに先程の戦いで受けたダメージは回復しているのを確認した
「本当に治してくれたのか…感謝する。では、俺はこれで」
去ろうとする背中を少女は必死に止める
「待って待って!どこ行くつもり!?」
「いや…生き残った人間が他にいないか探しに行こうと思って」
「ここに生き残りがいるじゃん!人間じゃないけど…」
キングはもう一度背を向けて去ろうとする
「待って待って待って!私の話を聞いてよ!」
笑顔だった少女の顔は今にも泣きそうな顔に変わっていた
「悪いが、君は魔物だ。俺はついさっき魔物に弟や仲間、おそらく両親も殺された。傷を治してくれたからと言ってお前を信用する理由にはならない」
「そんな…私は…」
「じゃあな。お前の幸運を祈るぞ」
その時、頭の中にカインドの声が聞こえた
「悪人と善人って全ての種族に共通していると思います。話ぐらい聞いてあげてもいいと思いますよ。」
こんなのは幻聴だ。カインドはこんな事一度も言ったことが無い。だけど、あいつならきっと…
「その話、俺に聞かせてくれないか?」
少女に近づきそう言った
「え…あ、ありがとう!じゃあ、立ち話もなんだし、どこかの家の中とかで話すね!」
少女の顔に笑顔が戻った
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「おい、ここはどう考えても厩舎じゃないか。何が家の中だ」
「え?違うの?私の家に一番似てる所を選んだんだけど…」
「はぁ…まあいい、それより早くお前の話を聞かせてくれ」
「!そうだね!でも本題に入る前に君、魔物が何か説明できる?」
「えっと…自分たち以外の生物に見境なく襲いかかり、村の略奪とか遊びで人を殺したりする醜悪な化け物…とかか?」
「実際そうだけど、いざそう言われると傷つくものがあるなぁ…」
さらに続けて少女は問う
「気を取り直して…なんで私は魔物なのに喋れたり、魔法を撃てたと思う?」
「ブラッドの『知恵の傷跡』の力か?あれは魔法を与えることが出来たはずだ。喋れるようになってもおかしくない。というか、実際奴がそうだったしな」
「不正解、人間語を喋るのは『知恵の傷跡』の能力ではないわ。」
「では、何故お前やブラッドは言葉を喋れたんだ?」
「というか、100年前は魔物と人間は友好関係にあって、お互いの言葉が喋れたんだ。」
「100年前だと?この国の図書館には約2000年前までの文献があるが、そんな情報は見たことがないぞ?」
「だろうね。その歴史に関する情報や記憶は現魔王の力で消されちゃったから。」
少女は話を続ける
「私がそのことを覚えてるのは私がエルフ族でその魔法に対する耐性があったからなの。もちろん現魔王が見逃すわけなくて、ヴァンパイアとか他の魔法耐性のある種族は私以外はほとんど殺されちゃったと思う。ブラッドはその生き残りだったみたい。」
それを聞いて、自分と似たような経験をしている少女を突き放したことを少し後悔した
「その…すまなかった。お前も俺と同じ目にあっていたとは思わなくてな」
「いやいや、私も同じ立場だったらそうなってたと思うし、気にしなくていいよ!」
「そうか…ありがとう」
「うん!じゃ、話戻すけど、私の目的は前魔王様の作った人間と魔族が手を取り助け合える世界に戻すこと!でも私だけの力じゃ到底敵わないから、あなたの力を貸してほしいの!お願い!」
「なるほどな…だが今の世界は、人間も悪い奴がたくさんいる。それでも、そんな世界を創れると思うのか?」
「創るよ。ふふ、無謀かな?」
少女の目は希望と信念で満ちているように見えた
「そうか…なら、俺も協力させてくれ、お前の言う平和な世界を俺も見たくなっちまったよ」
右手を差し出すと、少女は小さな手で握り返した
「フォース=キングアームだ。
「私の名前は繝医Λ繝ウ?昴せ繝?Λ。よろしくね!」
「は?」
「え?」
「あ!魔族語だった!トラン=ステラが私の名前ね!今度こそよろしく!」
(こいつ、本当に大丈夫かな…)
心の中で少しだけそう思った
第三話 終