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2話

 ルドヴィークは探索球を使用し川を探しながら、魔物の討伐も並行して行っていた。その数が二十を超えた辺りから数えるのをやめてしまった。加点の基準は明確ではないが、恐らく魔物の強さの等級ランクが高ければ高いほど、与えられる点数も多いはず。そう考えてなるべく等級の高そうな魔物を狙ってはいるが、ローウェンもそれなりの数を倒しているはずだ。気を抜くことはできない。

(恐らく他の同級生クラスメイトも目印に辿り着いているはずだ…早く川を見つけないと出遅れるな)

「…………!」

そう思っていたところ、唐突に脳内に映像が流れ込んできた。どうやら探索球の一つが川を探し当てたようだ。

(南東の方角か。ここからそう遠くはないな……)

ルドヴィークは中級魔術、〈飛翔〉と〈加速〉を併用し空からその場所を目指す。魔力消費を考えるとやや効率は悪いが、時間には変えられない。しばらくすると、目的としていた川が見えてくる。探索球より実際に見た川の方が大きく、深い。流れも急だ。

ルドヴィークはゆっくりと高度を下げ、流れる川の側に着地する。大きな岩が転がる川辺は足場が悪く、注意して進まないと足を取られてしまいそうである。

他にも目印のある場所があるのか、もう先に進んだのかはわからないが辺りに人影はない。ルドヴィークは辺りの様子を窺い、目印を探す。

(それらしいものは何も見当たらない、か……?)

ルドヴィークが周囲を見渡す中、静かに彼の背に迫るモノがいた。流れの速い川に背を向けていたルドヴィークは、その影に気づかない。

『グゥアアア!』

耳障りな咆哮と共に水飛沫を上げて、ソレはルドヴィークに向けて飛びかかる。

「ーーっ!」

自分に覆い被さる影でなんとかそれを察知したルドヴィークは、すんでのところでそれを躱す。ルドヴィークは地面に転がった体を素早く起こし、敵を凝視する。

「水地竜……! 厄介な…」

巨大な顎と並ぶ牙。そしてその背を鎧のように覆う皮と太く筋肉質な尾を持つ水地竜は中級の魔物だ。その性格は獰猛で、川に人間や動物を引き摺り込んで喰らうため、川沿いの村では被害が絶えないという。

「ちっ……!」

などと考えている間にも水地竜の攻撃がルドヴィークを襲う。水地竜が大きく顎を開くと人の顔の数倍はある水弾が放たれ、眼前に迫る。直撃すれば骨折は免れない。

灼熱柱フレア!』

ルドヴィークは瞬時に魔法陣を展開すると地面に浮かんだ精密な紋様から灼熱の炎が噴き上がる。炎の柱は水弾を瞬く間に蒸発させる。

『キシャアアア!』

防がれた水地竜が怒りの咆哮を上げ、ルドヴィークに向かって突進してくる。びっしりと生えた牙は鋭く、噛まれたらひとたまりもないだろう。

鳴耀(リ・ベルザせよ』

腰に下げた可変呪器に刻まれた紋様が光を帯び、全体に広がる。無機質なそれが、まるで生命力を得たように。光が強くなると共に可変呪器は剣の姿へ形を変える。剣の部分には細かな紋様が広がり、ルドヴィーク自身の魔力が循環している。

(致命傷を与えるには……)

表皮の硬い水地竜に斬撃を繰り出したところで致命傷にはならない。ならば、弱点を晒してもらうようにすればいいだけだ。柄をしっかりと握り込んだルドヴィークは自身に〈加速〉の魔術を、向かってくる水地竜には〈鋭地壁〉を展開する。足元がぐらついた所に、腹部へ向かって勢いよく地面の一部が突き上がる。斜めに腹部に衝撃を与えられた水地竜は、その場に白い腹を見せてひっくり返った。ルドヴィークの可変呪器が強い光と熱を帯び、剣のかたち)に変わる。

「ーーはぁっ!」

大きく跳躍したルドヴィークは機を逃さず、水地竜の腹へ魔力を込めた斬撃を叩き込んだ。腹這いになろうと踠く水地竜の腹から一気に血が流れ出る。

『グ……』

(やったか……)

ルドヴィークは警戒しつつ、水地竜の側に近づく。水地竜の開いた口からは力無く舌が出ており、痙攣したようにその手足は小刻みに震えていた。この様子からするに、反撃を受ける心配はなさそうだ。やがて大量に血を失った水地竜の息は止まり、動かなくなる。

(よし、これでまた加点を稼げたな)

しかし、まだ次の目印を得られていない。早くそれを見つけなくてはならない。

ルドヴィークがそう考えていた時、水地竜の死骸が仄白い光を発する。

(あれは……)

そこに浮かんでいたのは、宝石に似た青の結晶。どうやら、この水地竜が次の目印だったようだ。

ルドヴィークは結晶に手を伸ばす。一瞬感じた眩暈のような不快感と共に、再び脳内で声が再生される。

『光に従い、進め。次の目印ヒントはそこにある』

ルドヴィークは細く長い光の先を目で追った。光が示すのは川の上流。次の目印はそこにあるらしい。

(この程度ではまだ目標到達ゴールさせてくれないか……。あの教師なら、この程度では済まないか)

ゴードンは生徒に対して厳しく、嫌味なところがある教師だ。そんな彼の性格が表れている。

やれやれとため息を吐きながら、ルドヴィークは可変呪器を本来の姿に戻すと上流を目指して移動を開始するのだった。













「ーーなんだよ、ありゃあ!」

目の前の敵の姿にヒューズは慄いて叫ぶ。

黒紫の汚泥の最奥から覗くのは、光る金の瞳。不気味な容姿の怪物は、崩れかけの手で自分たちを押し潰そうと大きくその腕を振り翳す。

しかし、その動きは緩慢で生徒達を捉えることはできない。地面に叩きつけられた腕から、異質な色をした汚泥が撒き散らされる。

「あんな魔物見たことないぞ。何なんだ、あれ!」

目の前にいる敵に集中する生徒達は気づかない。飛び散った汚泥がゆっくりと汚泥が動きだしていることに。

分離した汚泥は静かに生徒達の足元に移動すると、瞬時に下肢に纏わりついた。しかし、それに一瞬速く気づいたロキシーは、イルを突き飛ばした。

「ヒューズくん、ロキシーちゃん!」

地面に尻餅をついたイルは、友人達の名を叫ぶ。

「ーーな、何なんだよ!」

「きゃああ! 何これ、気持ち悪い。放しなさいよ!」

汚泥に抵抗する二人だが、その拘束は一向に解ける気配はない。それどころか増殖し始め、二人を呑み込んでいく。

『グォオオ!』

くぐもった唸り声があたりに反響する。

「イル、逃げなさい。あんただけじゃ、こいつに勝ち目なんか--」

ロキシーは最後まで言葉を紡ぐことができなかった。汚泥がすっぽりと彼女を覆い呑み込んでしまったのだ。先ほどまで聞こえていたヒューズの声も今はしない。彼も汚泥の中へと消えてしまった。

「ロキシーちゃん、ヒュ、ヒューズくん……!」

涙目になって名を呼ぶイルに、金の瞳が向く。

「ひっ……!」

(どうしよう、どうしよう……に、逃げなきゃ……!)

イルは不気味なその視線から逃れようと、必死に駆け出すのだった。

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