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「で、どうやって動かすんですか? そもそもこんな奴、僕の手におえないような気も」

 思わずモヒカンゴールデンゴリラから後ずさってしまう。そんな僕の後頭部をコツンと小突いて、よもぎ先輩は僕の首に腕を回してぐいと顔を引き寄せ耳元で言った。

「いつもの伊吹くんらしくないぞ」

 よもぎ先輩の吐息がふわりと頬にかかる。

「音楽やってる時みたいに堂々としていればいいんだ。私にかっこいいとこ見せつけな」

 そんなこと言われても。そっと見上げると、ゴールデンゴリラも僕を見ていた。鋭くでかい犬歯を覗かせながら。絶対こいつ肉食ゴリラだ。

「でもこいつ僕の言うこときくんですか?」

 よもぎ先輩は細い掌を精いっぱい広げて僕の頬を鷲掴みにした。両頬に指を強く食い込まれて唇が突き出す格好になる。そのままくいと自分の方に僕の顔を向けるよもぎ先輩。鼻と鼻がくっつきそうになるまで近付き、よもぎ先輩は本当に小さな声で囁いた。

「今日の伊吹くんは質問ばっかだな。そんなつまんないオトコだったっけ?」

 ハッとした。そうだ。さっきから僕は質問ばかりだ。他人に頼ってばかりで自分から答えを見つけようとしていなかった。よもぎ先輩という大きな存在に雨宿りするようによりかかり、自分で考えることを放棄していた。つまんないオトコかどうかはともかく、そんなのは僕のやり方じゃない。

 まずい。場の異様さに飲み込まれていた。場の流れに翻弄されていた。それじゃあだめだ。なにをやってもうまくいくはずがない。流れは乗るものじゃない。流れは自分で作り出すものだ。今の状況下での場の流れは、よもぎ先輩でも、エルミタージュやバローロでもなく、未知数である僕の手にかかっ

ているはず。キーを握っているのは僕なんだ。じゃあどうする?この場では……!

「よもぎ先輩、ごめん。正直、ビビってた」

「ん、一瞬でいい顔になったぞ」

「うん。桧原伊吹、本気スイッチ入りました」

 この場では……、先に動いて流れを生み出す!

 僕はよもぎ先輩から解き放たれ、エルミタージュとバローロに、そして闘技場の観衆すべてに向かって弓を引いた。弓は弦の上を走り太く低い音を奏で始めた。それを僕の両腕からほとばしる電気が増幅し、重低音のエフェクトをかけ、闘技場の隅々まで震わせる。

 金色のモヒカンゴリラは僕の音に合わせて歩きだし、弓を強く押し出した瞬間に跳んだ。その巨体は重力を振り切って闘技場の空を舞い、両腕を大きく広げて力を誇示するかのように胸を突き出し、短いが太くたくましい脚でエルミタージュとバローロの前に降り立った。僕の奏でる音に合わせてゴールデンゴリラは右腕を前に差し出す。そしてブルース・リーのよう

に掌でくいくいっと二人を挑発。

「それはやりすぎ」

 細い身体を抱くように腕組みしてよもぎ先輩が笑う。

「ライブの演出はやりすぎくらいがちょうどいいんです」

 こいつは楽器を使って動かすんじゃない。音楽で動くんだ。僕は楽器を鳴らして感情を表現すればいいんだ。こいつは僕の表現そのもの。はっきりとわかった。この金色のモヒカンの能力が。

「こいつに特殊能力があるように、エルミタージュやバローロ、よもぎ先輩も能力があるんでしょ?」

「オタクっぽく内に秘めたパワーが覚醒するっていいな」

「それは中二病って奴です」

 エルミタージュとバローロも動き始めた。エルミタージュは数歩後退り、バローロがそれを守るように立ちはだかる。

 この金色のゴリラは僕そのものだ。自分自身の手足が届く範囲が解るように、こいつが持つ特別な力が自分の能力のように把握できる。

「僕はこの金色ゴリラがいる限り絶対に負けません」

 よもぎ先輩に宣言する。

「金色ゴリラって、もうちょっとかっこいい名前つけな。ちなみに、エルミーのはエバーグリーン」

 バラの花びらに包まれた姿は、まるで根を張るように地面にいばらの脚を埋め込んでいた。エルミタージュはクラリネットのような音色の横笛を唇に添えたまま、笑顔でよもぎ先輩を見ていた。

「ヨモギがくれた名前よ。けっこう気に入ってる」

「バローロのはアバウト・セブン・ドワーフズ」

 つまり7人ぐらいの小人ってことか。

「ASDとヨモギは呼んでくれる。悪くないな」

 バローロがドラムを叩くと、小人達がうわーっと分身の術のように増えたり減ったりしてる。よく見ると、全員微妙に違ったリュックを背負っているが、はっきりと区別つかないぞ。余裕で7人以上はいる。たぶん。

「そして私の。ガールブラスト」

 爆裂少女。いや、少女爆裂か。らしいと言えばらしいな。全体的によもぎ先輩の爆裂っぷりをよくイメージできているかも知れない。コイル状の形にねじれた髪束の中心にはネオンサインのような柔らかい光が灯っている。だらりとやたら長い両方の袖をぶらぶらさせて、黒タイツの脚でつま先立ちしてハイヒールで地面をほじくっている。まるで待ち惚け食らってる子供みたいだ。

「じゃあ、こいつは……」

 エバーグリーンとASDを威嚇するように胸を突き出している黄金の獣。金色のモヒカンはそのままたてがみとなって背中を伝っている。そのたくましい両腕で空を支え、凛々しく大地に仁王立ちしている。その後姿はまるで鎧を装備した輝く巨人のようだ。

「ハイペリオン。こいつの名前はハイペリオン!」

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