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第2章 戦闘はささやかな音楽とともに 1

   第2章 戦闘はささやかな音楽とともに


   1


 観衆ざわめく闘技場。誰かが兄王様および周辺のお偉方に向けた長ったらしいスピーチをまだ続けている。そして、僕とよもぎ先輩の目の前に弟国側の戦争代理人。

「来て。紹介する」

 紹介って。友達の友達同士を引き合わせるみたいな軽いノリのよもぎ先輩。対戦相手ってことはつまり敵じゃないのか?

「ハイ、ヨモギ。そいつが例のカレ……」

「このほっそいのがエルミタージュ。ムカつくくらい細いくせにこれでもこの子の世界では太目なんだって」

 よもぎ先輩はエルミタージュの言葉をぶった切っていきなり彼女のスカートをまくり上げた。小枝のような細い脚がギリギリのラインで押さえ込まれたスカートの奥に吸い込まれている。ほんとにアニメにでも出て来そうな小柄で細い子だ。

「エルミーって呼んであげな」

「こら、何すんのよヨモギ!」

 負けじとエルミタージュもよもぎ先輩のドレスの裾をつまみ上げる。その手をガッと掴むよもぎ先輩。でもよもぎ先輩の太ももをしっかりと拝見させて頂きました。はい。

 よもぎ先輩よりも頭一つ分小さなエルミタージュの身体付きは、ダイエットし過ぎの骨と皮だけの痩せた身体と言うよりも筋肉も脂肪も含めてすべてのパーツがほっそりとしていた。

 大きな瞳は濃いグリーンの光を放っていて、僕達人間との最も特徴的な違いはその髪の毛だった。髪の毛一本一本がまるでドレッドヘアーのように太く、先端に近付くにつれて枝分かれして細くなっていく。新緑のような瑞々しく活き活きとした強い緑色をしていた。そしてその一本一本がエルミタージュの感情に合わせて揺らめくように動いている。

「そっちがバローロ。ごつい身体しているけど、この国の奴らよりもずっと紳士的」

 よもぎ先輩とエルミタージュのスカートのめくり合いを顔を赤らめて懸命に見ないようにしていた男をよもぎ先輩が顎でくいと指し示した。

「おまえら、はしたないことはやめるんだ。ほら、何だ、見えてしまうだろうが」

 滅多にお目にかかれない秘密の花園は、確かにあからさまに見えてしまっては美しさどころか何の情緒もない。この見えそうで見えないところが想像力と妄想力を刺激してくれるんじゃないか。たぶんこのバローロと言う紳士はそう言う意味で言ったんじゃないだろうが、あえて僕はそう言う意味で、彼に同調しておこう。

「よもぎ先輩もエルミタージュもまず落ち着いて」

 ぐいと二人の女の子の間に割って入る。どさくさにまぎれてよもぎ先輩の剥き出しの肩に両手を添えて二人を引き離した。

 エルミタージュはふんと鼻を鳴らしてバローロに歩み寄って背の高い彼の後頭部を飛び上がってぱちんと叩いた。

「あたしの味方でしょ?仲裁なんてしてんじゃないの」

 バローロはエルミタージュと逆に全体的に大柄な男だ。背が高い、太っている、そう言う訳ではなく筋肉質な肉体が横に拡大されている感じだった。ごわごわとした髪は後ろで馬の尻尾と言うよりも豚の尻尾みたいに結んである。髪と同じく赤銅色した無精髭が彫りの深い顔付きによく似合っていた。

「嫁入り前の娘共がみっともないマネするんじゃないと言っただけじゃないか」

 太い首をさらにすくめるバローロ。ポニーテールならぬピッグテールがぴこんと跳ねる。

「で、そっちの彼がヨモギのパートナーって訳?優しそうな面構えだけど、ちゃんと戦えるの?お肉食べてる?」

「言うと思った」

 僕は思わずつぶやいた。はいはい、草食系草食系。ちなみに肉と野菜どっちが好きかと言えば、僕は魚が好きだ。

「彼は私の部下の伊吹くん。同じ世界から喚んできた」

「最近は部活の後輩を部下って呼ぶんですか、そーですか」

 バローロがぎゅっと口許を固く結んでごっつい右手を差し出してきた。そういえばさっきグラン少佐も握手を求めてきたな。異世界でも共通の挨拶ってところか。

「お互い戦争代理人として、奏者の名に恥じぬ演奏をしようではないか」

 根が真面目なんだろう、ちょっとこってりとした味付けの暑苦しいタイプの男だ。握手も力強く握りぶるんぶるん振るう。

「ハイ、イブキ。あなたの楽器ってとっても大きいのね。どんな音を奏でるの?」

 エルミタージュが腰のホルダーから横笛のようなものを取り出して、それで僕のコントラバスを差した。小柄な彼女からしたら、確かにコントラバスは巨大楽器だろうな。

「これはコントラバスって言って、低音……」

 そこまで言いかけてよもぎ先輩に遮られる。

「伊吹くんは私の忠実なしもべにして秘密兵器なんだ。そう簡単にネタばらししたらおもしろくないでしょ」

 どうやら一瞬で部下から下僕にレベルダウンしてしまったようだ。いや、この場合はある意味レベルアップか。

「もう何でもいいです。で、そろそろルール教えてもらえます?音楽で戦うって、どうやったら勝ち負けつくんですか?」

 僕の質問に戦闘経験者が三人とも顔を見合わせた。少しの間アイコンタクトが交わされて、みんな口々に喋りだした。

「勝った方が勝ちに決まってるでしょ。それ以外ないと思うけど」

「試合に負けても勝負に勝つと言う言葉もある。敗北を認めたらそこで負けだ」

「圧倒的実力差を見せつけてこそ勝利。全力で行くよ」

 えーと、一切進展していないような気もするが。

 と、タイミングの悪いことに、そこへグラン少佐がさっそうと現れた。

「なあ、和気あいあいなところ悪いんだが、そろそろ始めてくれないか? 兄王様をだいぶお待たせしているんだ」

 だから、誰か、ルール説明を。


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