ナナリスシスターが盗る妹達を教育します?したいです(´;ω;`)
「わたくしの名はナナリスと申します。貴方達に教育を施すシスターですわ」
そう、わたくしはナナリス。これから貴族の家に盗る妹として入る市井の皆様を盗る妹ではなくて、立派な貴族の令嬢としての心得の為に教育するのですわ。
だってあまりにもあまりにも、市井の者から、高位貴族の家に母親について行った女性達の行いが悪くて悪くて。
前妻の娘の物を欲しがり取り上げ、挙句の果てには婚約者まで盗り、破滅に陥る盗る妹が多い事多い事。あまりにも多いので、このザックル王国で大いに問題になったのですわ。
それで、ザックル王国のガイル王太子殿下の依頼という事にしておいて、これから高位貴族に母親について入る事になろう三人の市井育ちの女性達に、あらかじめ教育をとわたくしが指名されたのでございます。
「お姉さん、とても綺麗っーー。どんな化粧品使っているの?」
「そのブレスレット、高そうーー。私に頂戴頂戴」
「それにしてもさぁ。シスターの服って地味ねぇ。同じ女性としてチョー恥ずかしいんだけど」
三人の女性達は皆、年齢は14歳、16歳、17歳。
それぞれ、母親の再婚に伴い、高位貴族の家に入る女性達でございます。
それにしても、教育のし甲斐がありそうですわね。
化粧品を褒めてきた子は、14歳。マリアーナ。金の髪で三つ編みをした幼い感じの少女ですわ。
ブレスレットを欲しがった女性は16歳。カディーヌと言って、黒髪でそばかすがある女性ですわ。
そして、わたくしの事を貶めた17歳のエメリア。赤い髪で男性のような恰好をした、きつい顔立ちの女性ですわ。
エメリアがわたくしを睨みつけて、
「あたしは本位じゃないんだ。母親が伯爵と結婚したいって言うもんだからさ。あたしは未成年だろ?だから、ついて行くしかないんだ。来年は18歳。この王国では成人するからさ。さっさと家を出て冒険者になろうと思っている。あたしは強いんだ。なのに、なんでこんなとこで教育なんて受けねばならん?」
わたくしは慌てましたわ。
「それは貴方様に義姉様になるお方がいらっしゃるからですわ。お義姉様を大事にしないと、それはもう破滅の道しかないのです。ですから、わたくしがそうならないように教育を」
するとマリアーナがもじもじと、
「私のお姉様になるお人は怖いのでしょうか?私はお化粧に興味があって。それにせっかくお金持ちの家にいくならおしゃれしたい。それも叶わないのでしょうか?」
わたくしはマリアーナに、
「お義姉様になるお人を尊敬し、尊重しなさい。過ぎたる願いは身を滅ぼします。ですから、マリアーナ。身の程を弁えて、確か、貴方は公爵家に行くのですわね。そこで一生懸命勉強致しなさい。貴方はハレット公爵様の血を引いているのですね?」
「はい。母にそう聞いております」
「でしたら、いずれは良い所へ嫁ぐ事も出来るでしょう。公爵家の令嬢として、しっかりとマナーを学び、自身を高めるのです。それが貴方の幸せになる道です」
「有難うございます。シスター」
マリアーナはとても良い子だわ。彼女は大丈夫そうだけれども。
カディーヌはじいいいいとわたくしのブレスレットを見つめて、
「欲しいわ。欲しいわ。そのブレスレット欲しい」
「いえいえ、これはわたくしの大事なブレスレットです。あげるわけには」
「伯爵家に行ったら色々と貰えるのよね。私、とても苦労してきたの。だから、伯爵家に行ったらうううんと贅沢するのよ。お義姉様がいらっしゃるようだけれども、何でもおねだりしてもらっちゃうの。だって私って恵まれない子だったから、貰う権利はあるはずよ」
すると、不機嫌に黙っていたエメリアが、呆れたように、
「あんた、おバカな女だねぇ」
「あたしのどこが馬鹿って言うのよ」
「ほら、シスター、説明しな」
ここはわたくしの出番ですわね。
「確か、貴方が行くモデナ伯爵家のご令嬢は、唯一、モデナ伯爵家の爵位を継ぐ権利を持っている方ですわ。現伯爵は婿養子で、伯爵の代理をしているにすぎません。ご令嬢が成人すれば、下手したら追い出されるのは確実でしょう。ですから、その時に、貴方も追い出されるかもしれませんわ。お母様と一緒に」
カディーヌは叫ぶ。
「えええええー???あたしが追い出される?あたしは可哀そうな子なのよ。色々と贅沢をする権利があるはずなのに?」
「そういう権利は貴方にはありません。貴方はどう転んでも貴族の血を引いていないのですから」
カディーヌはわたくしにしがみついてきましたわ。
「でしたら、シスター。あたしと結婚して?」
「え????わたくしは女性で」
すると、エメリアが呆れたように、わたくしを見つめて、
「あんた、女装下手だね」
マリアーナも頷いて、
「お化粧はうまいんですけどね」
カディーヌがわたくしに迫ってきて、
「結婚して結婚して結婚して。生えているんでしょう?生えているんでしょう?」
「いえいえ、わたくしはシスターっ。女なのよ」
エメリアがずいっと顔を寄せてきて、
「だったら、ここで脱いでみようよ。安心しな。あたし達は皆、女性。アンタが女性だというんだったら、すぱっと全裸になって証明しな」
カディーヌも頷いて、
「万が一、生えていたら、あたしと結婚して頂戴。そうだわ。ここは教会。教会なのだから、魔法契約しましょ」
マリアーナも頷いて、
「生えていたら即、結婚だなんて。カディーヌさん、凄いわーーさぁ脱いでくださいな。私も興味ありますっ」
わたくしは立ち上がり、
「教育は終わりました。ぜひとも、皆様。貴族の家で頑張って下さいませ。皆様が破滅しないようにわたくしは願っておりますわ」
いそいそとその場を後にする。
脱がされてすっぽんぽんにされて、生えているのが解ったら、即大変だ。
魔法契約なんてされたら一生、あの女から逃げられないっ。
ともかく、ともかくナナリスは逃げる事にした。
まさかその時は、逃げきれないとは思いもしなかった。
城へ戻ると、兄であるガイル王太子がやって来て、
「教育お疲れ様。しかし、女装でないと嫌なのか?」
女装を解いて、ナナリス事、ナディウス第二王子である自分は男に戻る。
「兄上。同じ女性だからこそ、彼女達も安心して私に教育されるのです。男性だったら、いらぬ野心を抱くのではありませんか?私が第二王子だと解ったら、玉の輿を間違いなく狙われます」
「ハハハ。確かに、しかし、お前の女装、下手だぞ。まぁ元がいいから見られなくはないが」
確かに私は女顔だが、私の女装はそんなに下手だったか?化粧は上手いと褒められはしたが。
ともかく、今日は疲れたので、
「兄上、私は品のない人の物を盗る妹とやらが嫌いです。ですから、これからも頑張って高位貴族の家に行く妹の立場の女性の教育をしていこうと思っております」
「ハハハハハ。まぁ頑張れよ」
と、闘志を燃やしながら寝たのだが、翌朝、臣下の一人が部屋に入って来て、
「ナディウス第二王子殿下。門の前で三人の女性達が騒いでおりますが」
「へ?」
「ナディウス第二王子殿下に会わせろと。一人は結婚の約束をしたと申しております」
慌てて王宮の庭を走り、門まで行けば昨日の三人が待ち受けていて。
カディーヌが私に抱き着いて来た。
「やはり、第二王子殿下だったんだ。約束だから結婚して?」
マリアーナが、目をキラキラさせて、
「カディーヌ、おめでとう。玉の輿素敵だわ」
エメリアが凄んで、
「生えていたら結婚するってカディーヌと約束したはずだよ」
「ちょっと待った。約束した覚えはない。お前達、よく私が解ったな」
「「「下手な女装ですぐにっ」」」
ああああっ。そんなに下手な女装か???
カディーヌに向かって、
「生憎、私は君と結婚する訳にはいかない。婚約者がいるからな。モデナ伯爵家のリディアだ」
カディーヌは驚いたようだ。
「なんて事っ?私のお義姉様になる人の婚約者っ。盗るわ盗るわ盗るわ。盗りまくるわーー。私が結婚するのっ。王子様は私の物よ」
「いやいやいや、ちょっと待った。伯爵家に婿養子に入る事になっているんだ。モデナ伯爵家は名門で王家とも縁が深い。だから、私が伯爵家に養子にっ」
「嫌よ。私と結婚するの。ずうううううっと憧れていたの。ほら、王宮で年に一回、国民の皆様に挨拶をするでしょ。ずうううっと好きだったの。だから、私と結婚して頂戴」
「君に何がっ。私の何が解るというのだ?私はモデナ伯爵家に入る事で、兄上とのいらぬ王位争いも避ける事も出来る。あの豊かな伯爵領をリディアと一緒に富ますという未来を、とても楽しみにしているんだ」
マリアーナが目をうりうりさせて、
「あの、婚約者の方と上手くいっているのですか?」
「勿論、リディアとは週一回の茶の席で交流を深めてはいるが、気に入らないんだよな。いつも護衛騎士が一緒で、リディアも親し気にしていてっ。あの美男の護衛騎士、首に出来ないかなぁ」
エメリアがぼそりと、
「それって、もしかして、さ。全然、あんたに似ていない子が出来たりして」
「うおおおおおおっーーー。それは嫌だぁーーー」
カディーヌがべったりと、
「あたしは一筋だよ。だから、あたしと結婚して」
「それでもだ。将来の安定を私は取る。それが私の生き方だ」
カディーヌが首を振り、
「本当にそれが生き方なの?本当にその生き方でいいの?」
「贅沢好きなお前にそう言われたくない」
「そりゃ、あたしは贅沢したいけど。本当にあたしは贅沢したいのかな。貴族の家に行って幸せになれるのかな……」
ふと、私は思った。
モデナ伯爵家に婿養子に行くのが自分の道だと思っていた。
リディアはしかし、自分にはそっけなくて、明らかに護衛騎士の事が好きみたいで。
王家の為だから仕方なく……そんな態度が出ていて。
このままリディアと結婚して上手くいくのか?
いや、政略だから、自分が生きる為に、リディアとの結婚は必要だけれども。
自分の本当にやりたいことは?
自分の本当に生きる道は?
「今日の所は帰ってくれないか……また、教会に行くから」
「「「解ったわ」」」
三人組は帰って行った。
ナディウスはリディアに会う事にした。美しい青い瞳に金の髪のリディア。
テラスで茶の席を用意して貰い、リディアの対面に腰を掛ける。
「リディア。君は私と結婚して幸せなのか?」
「政略ですから」
「君が本当に好きな人は、背後にいる男ではないのか」
リディアはハっとした顔で、後ろを振り返って。
後ろの護衛騎士は跪いて、
「私はずっとリディア様の事を思っておりました。どうか、リディア様を私に下さい」
リディアは護衛騎士にしがみついて、
「わたくしも貴方の事を思っておりました。あああっ。ジーンっ」
ナディウスは頷いて、
「婚約は解消しよう。私は私のやりたい事が出来た。どうかリディア。そちらの男と幸せに」
苦い失恋?いや、恋心なんてリディアにあったのか解らない。
だが、自分のやりたい事は、教会で、人々を導く事。
ナディウスは教会へと歩を運んで、
「私はこの教会に教育機関を作る事にした。平民は字が読めない者もいる。常識だって貴族と比べたらない者だっているだろう。だから、私はこの教会で学校を開き、平民達に色々と知識を教えて行くことにする」
待っていた三人組に向かって、そう叫んだ。
カディーヌが抱き着いて来て、
「だったらあたしと結婚してぇーー」
カディーヌを押しやって、
「もっと常識を身につけたなら考えてやってもいい。ここで学ぶのでも、モデナ伯爵家で家庭教師をつけて貰いともかく学べ。勉学は必ずお前の力になる」
「あたし頑張るっーーー。モデナ伯爵家に引き取られるんだもの。そこで、立派な女性になって、きっと貴方に相応しい人間になる」
マリアーナは両手を組んで、
「応援していますわ。カディーナ、私達はいつまでもお友達よ」
エメリアも頷いて、
「そうさね。あたしたちはいつまでもダチだ。あたしも勉強頑張るよ。必ず、冒険業に役にたつはずさ」
燃え上がる三人と共に、ナディウスも拳を握り締めて燃え上がった。
ナディウス第二王子は、教会に学校を開き、庶民たちに学をつける事に生涯力を尽くした。
その傍にはいつも明るいカディーヌという妻がいて。
名のある冒険家になったエメリアが良く美味しい差し入れを持って訪ねて来る。立派な公爵令嬢になったマリアーナもお菓子を持って遊びに来てくれて。
賑やかな教会では、子供たちの笑い声と、女性達の楽し気な声が良く響いていたという。




