幼馴染の過去
夫の葬式は終わった。
こうしてみると、私の人生はあまり上手くいってない。いや、散々だ。
夫と家を火事でいっぺんに失って、残されたのはあの日着ていた服と3歳のこの子だけ。
そもそも愛していない夫。子供が出来たので仕方なく結婚した夫。
昼間っから火事出すとは夫は何をしていたんだ!
なにかロクデモナイもの買って使ったんだろう。
あいつは最後まで私を振り回し続けた。
「初めて」の時に「好きで堪らなかった」と私に言った筈だが、結婚一年目から浮気しやがって。それも鶏ガラな私とは違い、グラマーな女を漁りまくってた。知らないとでも?
これからどうなるんだろう、私とこの子は。死んで養育義務も放棄しやがって。
今の所ははリンダさんの家に世話になっている。近所のよしみでと言ってくれたけれど本当に申し訳ない。
リンダさんは部屋は余っているからねと言ってくれた。
でも、早く生活基盤を作って出て行かねば。だけれども問題は山積み。火事の後始末もまだ掛かる。
私には大好きな幼馴染みが居た。
男ながらも美しい顔立ちで、彼と仲良かった私は周りの女の子から羨ましがられた。
私もまあそれなりな見てくれは良かったと思う、胸は残念だったが。
それでもまあ、男子からの人気は有ったからまあまあだと思う。
足りないものと言えば「背」が足りなかった。
クラスでも一番低かったし、人ごみでは前が見えない。
高いところの物が取れないのは子供の頃から変わらない。
いつまでも子供扱いされる。
私のコンプレックス。
昔からの街の知り合いには「ちゃん」付けで呼ばれる。
どこに行っても、誰からも「ちゃん」付けだ。
可愛い女性という意味ではない、可愛い子供という意味合いがそのまま続いているのだ。
私の呼ばれ方は昔のまま。
結構気にしていたんだ。
だから私は卒業したら都会に出たかった。
新しい地に行って新たな生活を始めたかった。新たな人間関係を作りたかった。
だけど、彼との関係だけは捨てたくない。
彼は地元で生きて行くつもりだったみたいだけど、彼は優秀。都会に行っても全然大丈夫。
私と一緒に都会に出よう!二人で部屋を借りよう!
そう伝えるつもりだったんだ。
はやく言えば良かったんだ。
でもあの日、人生が狂った。
迂闊にも、彼が一緒じゃなかったのに、クソ夫の家に行ってしまった。
クソ夫は、私と彼の事を知っていたし、仲も良かったので油断していた。
玄関で受け取るものだけ受け取って帰る筈だったんだ。家に入るつもりなんてこれっぽっちもなかった。
世間ではこういう時のことを『押し倒される』と言う。
私の場合は『お持ち帰りされた』だ。
本当に手で持って行かれた。
クソ夫は玄関で私を片手で脇に抱えて、家の中に持ち込みやがった。
片手で戸を閉め、カーテンを閉め、布団を引いた。
その時私は犬のように脇に抱えられていた。
身体が小さいからって・・・・屈辱だった。小人扱いしやがって!
全力で抵抗したが、身体も小さく、強くもない私はあっさりヤられてしまった。
それも、最初は下半身のみの結合だ。
短時間のうちに既成事実だけが成し遂げられ、私は陥落した。とんでもなく痛かったのが敗北感を強めた。
私の処女はここで雑に奪われた。
一息ついてから、クソ夫は私の服を楽しそうに剥ぎ出した。
なされるがままにされて、それこそチョット大きな枕を扱われるように弄ばれた。クソ夫は楽しそうだった。
彼に言えない秘密が出来てしまった私はその後もクソ夫の言いなりだった。
こんなことなら彼とさっさとすれば良かった。彼との結婚は判らないけど、そんな先の事は解らないけど、好きなのは彼だった。初めてなら彼が良かったのに。
なんとかこの関係から逃げ出せないかと願ったが・・・・・
あっけなく私は妊娠した。
クソ夫の仲間が、私とクソ夫をちょくちょく見たらしく、私の子供の種が誰かというのがあっさり知れ渡ってしまった。
私は逃げ場が無くなった。
卒業後、ボテ腹でクソ夫と結婚した。
何故か結婚を渋ってたクソ夫。
自分のせいだろうが!
地元に居たくない。
別の街に引っ越そう!田舎でも良い!
私は彼の居る街に居たたまれなかった。
かつては都会への憧れで街を出たかった。今は逃げたくて街を出たい。
必死に訴えた。私を好きにしたんだからこのぐらいは聞いて!
でも、よりにもよって新居は彼の家の近所。
何考えてやがる!
しばらくして、彼が街を去ったと聞いた。
挨拶も無いまま、居なくなった。
手紙も無かった。
時間を遡る魔法が有れば良いのに・・・
そして今、私達親子は彼の母親に世話になっている。
本当に申し訳ない。
私が悪い事をした訳ではないが、本当に申し訳ない。地元っ子だった彼が出ていったのは私のせいだ。
幼馴染の彼の家。
幼い頃からさんざん見た家、子供の頃遊んだ部屋とリンダさんを見る度辛い。
彼をこの家から追い出したのは私だ。なのにご近所さんの好意という事で世話になってる。
リンダさんは子供もあやしてくれるし、私にも優しい。
前の家ではクソ夫と三人暮らしだったが、奴はいつも居なかった。今はリンダさんとの生活が有難い。母親としての先輩だし、子供も懐いている。余裕ができたのか私も子供に当たる事が無くなった。生活基盤が無くなったのに心に余裕ができたのはなんだかな。
まるでリンダさんちの嫁になったような扱いで申し訳なさすぎる。
私がもっと上手く立ち回っていれば、心からリンダさんの好意を受け取れる関係になった筈なのに。
あんな失敗しなければ、本当にこの家の嫁に・・・・・そうだ、私は彼もろとも都会に出るつもりだったんだ。そんな事言えない・・
悪いのはクソ夫。
だけど、自分を責めた。