男と母親。そして魔法使い。
男が公園で休んでいた。
職場の同僚の結婚式の帰り。
宴はまだ続いているが、職場で普段小言ばかり言う先輩はさっさと退散した。あとは仲良し同士で盛り上がれば良い。退散した表の理由はそうだが、裏の理由は結婚する後輩より年上の自分が独身なのが居たたまれないから。
酒は飲んだが、あんまり酔っていない。
参列した先輩として、イロイロ役回りに徹して馬鹿騒ぎはしなかった。
飲むならもっと飲みたかった。家に帰ったらもう少し飲むつもりだ。
とはいえ、まだ昼だし、今から飲んで酔いつぶれて寝てしまったら、睡眠サイクルが狂う。寝るのは夜まで我慢。
男には幼馴染みが居た。
子供の頃は仲が良かったので、将来は結婚するものだと思っていたが、学校を卒業と同時にあっさり他の男と結婚してしまった。しかも妊娠してたとは。相談もされなかったし、何も知らされなかった自分の立場に唖然とした。
初恋は長く続いたが、終わりは無慈悲だった。
「幼馴染は可愛いから気をつけろ」
学校で先輩に言われた事が思い出される。
幼馴染みは可愛かった。小柄、小顔で美人だった。胸は小さかったがそれを補って余有る可愛さ。
「鶏ガラ」と言ってからかうと怒りながらバンバンと殴り返されて面白かった。家でも外でも一緒だったが、恋人同然だと思っていたのに、俺はただの幼馴染だったのか。
思い起こせば、はっきりと告白はしてなかった。
伝わってると思っていたのは俺だけだったか。
『可愛いから気をつけろ』というのは、可愛い子は裏表が有るのか、悪女が多いから?
それとも、他の男に狙われるからということだろうか?
どっちの意味合いで俺に言ったんだろうか?
結果どっちも合ってる気が。
「結婚かあ」
ため息が出る。
不意に斜め前のベンチに座っていた女の子がベンチに横になる。さっきまではちゃんと座っていた。
少女は顔をやや下に向ける。
居眠りにしてはおかしい。
ああいう体勢は気分が良くない場合が多い。
酔っぱらいが近づくのは良くないのは解っているが、放っておけないので近づく。
「大丈夫か?具合が悪いのかい?」
少女は少しだけ顔を上に向ける。
15歳位?もっと若いかも。発育はいまいちだが可愛いとは思う。
「家はどこだい、親に迎えに来てもらうか?」
ゆっくり少女が起き上がる。
顔は苦しい様な疲れてる様なまま。
「貴方には私が小娘に見えているんだね」
ーーーーーーーーーーー
子供は可愛い。
嬉々として走り回り、幼さ故に変な単語を並べるだけの会話が愛くるしくてしょうがない。
天使の微笑みを受けながらリンダは憂鬱だった。
休日、リンダの家に近所の知り合い女性が孫を連れて来たのだ。
天使の母親は出掛けたので、天使の祖母である彼女が今日面倒を見ているそうだ。そのまま我が家に遊びに来た。
リンダには息子が居るが、都会に行ってしまった。たまに帰省した時の話だと出世したらしい。良くできた息子だ。
だが、息子は未だに独身。
私はまだ孫を抱いたことがない。
息子に聞いてみたが、煩そうにするだけだった。
そう、今私はご近所さんに孫自慢攻撃を受けてる真っ最中だ。笑顔作るのが辛い。
私も自分の孫を抱いて受けて立ちたい。
天使に罪は無いが、天使の攻撃力は絶大だ。
子供の親同士の付き合いの頃は互角か、有利だったのに、孫世代では不戦敗だ。
息子よ、何をしている!
助けてくれ!
願いは届かない。
だが、やはり天使は可愛い。
近所の女性が帰り、見送りを済ませ、郵便受けの中を見る。少し便りがきていた。
その場で中を見て懐にしまう。
不意に通りを見ると、幼女が居た。
落ち着きも無いし、苦しそうだ。ただ事ではない。
「どうしたの?大丈夫?」
「漏れそう・・・・・・・」
「こっちへ!」
大急ぎで玄関を開け、トイレまでの道を全部開け放つ!
猛ダッシュだ!
既に夫も先だって息子も居なくなって、この家の全権は私にある。誰にトイレ貸しても文句は言われない。
間に合っただろうか・・・・
「はあああああああああああっ!」
トイレの中から声がする。
幸せそうな声だ。
気持ちは解る。
女の子がとてとてと出てくる。
「ありがとうございました」
「良かったわ。大丈夫だったのね、漏らさなかった?」
「危機一髪でした」
「でもね、女の子なんだから「はあああああ」なんて聞こえるように言っちゃダメよ。折角可愛いのが台無しよ」
「貴方には私が小さな女の子に見えるんですね?」
「?」
「私は幼くは無い。それどころか女でも男でもない。そもそも人間ですらないのだから」
「??」
「私は貴方にピンチを救っていただいた。貴方が居なければどうなっていたことやら。
リンダさん、お礼に貴方の夢を叶えましょう」
名前は名乗って無い筈。
その後の言葉も気になった。
夢を叶える?
夢?夢って何だっけ?
この歳になると希望を持たなくなる。
「何を言っている。かわいい孫だろう」
心を読まれた!
「読んださ」
また読まれた!
神?女神?
「そのどちらでもない。力はそのくらいだがな」