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第28話 ミルミーさんのラボ

「木が家になっているなんて面白いね」

「そうか? 私達にはこれが普通だからな」


 居住区に入った僕は、周りを見回しながら歩く。


 遠目にもすごい光景だったけど、こうして間近で見るとよりすごい。


 木をくり抜いて作っているのではなく、生きた木が家の形をとっているのだ。


 ロロネア曰く、精霊様の力で霊樹の形を変えているとのこと。


 全ての霊樹が精霊様の一部みたいなものだからこそ、こんな応用も利くんだね。


「ロロネアの家もこの辺にあるの?」

「いや、私の家はもっと中心寄りだな。これから向かう里長の家の近くだ」

「へえ」


 かなりの好立地だ。


 前からちょくちょく思ってたけど、ロロネアって結構偉い立場の人なのかな?


 レレノンさんも里長と面識があるみたいだったし、絶対に(ひら)のポジションじゃないよね。


「ちなみにもう少し進んだところにミルミーのラボがあるぞ。ほぼ通り道だし寄っていくか?」

「そうだね。軽く寄ろうかな」


 ミルミーさんは研究でパークに来ないことも多いから、ここ2~3日は見ていなかった。


 普通にラボも気になるし、挨拶くらいしておきたい。


「あ、でもさ。先に里長のところに行かなくて大丈夫なの? 招待の準備をしてるんでしょ?」

「少し遅れるだけなら問題ないぞ。招待と言っても、軽い顔合わせみたいなものだしな」

「そうなの? なんとなく、謁見的なものを想像してたんだけど……」


 精霊の里という呼び名ではあるけれど、外から見れば立派な小国という扱いだ。


 長に会うということはいわゆる国家元首、王などに会うのと同じこと。


 一応はそう考えてたんだけど、ロロネアは笑いながら首を横に振る。


「そんなに堅苦しいものではない。里長とは言っても、大きな村の村長みたいなものだ。里の皆もフランクに接しているしな」

「そうなんだ」

「うむ。だから心配は無用だぞ」


 どうやら、精霊の里のトップは想像よりもカジュアルな立場らしい。


 権力者とかではなくて、皆のリーダーって感じなのかな。


 そこから1~2分進んだところで、ロロネアが脇道に進路を変えた。


 脇道といっても木々の中だから、ちょっとした獣道感がある。


「あれ? こっちなの?」

「ミルミーのラボは大きめだからな。居住区から少しだけ外れたところにあるんだ」

「なるほど」


 頷きながら先を見ていると、木々の間に大きな構造物が見えてきた。


 居住区に生えていた霊樹を10本以上束ねたような、ことさらに太い霊樹だ。


 高さは他の霊樹と大差ないものの、その直径が圧倒的なため、ドーム状の形になっている。


「ここがミルミーのラボだ」

「お、大きいね……」


 開きっぱなしの扉から中に入ると、どこか白衣っぽい服を着た人達が歩いている。


 勝手に個人のラボかと思ってたけど、完全に研究施設って感じだ。


 あと、歩いている人達の中には、ちらほらと男性もいるね。


 ロロネア達がパークに連れて来たのは全員女性だったから、なにげに初めての男性森霊族かも。


 そんな研究員? 達の様子を見ていると、1人の男性がこちらに近付いてくる。


「これはこれはロロネア様、所長に何か御用ですか?」

「うむ。リベルを連れてきたので、ちょっと顔を見せにな」

「リベル? おお! もしや例の……!」


 僕を見ながら言葉を交わすロロネア達。


 というか、ロロネア様って……やっぱり偉い立場だったんだね。


 あと、眼鏡の男性が言った所長っていうのは、もしかしなくてもミルミーさんのことっぽい。


 根っからの研究者だとは聞いてたけど、こんな大きなラボの所長だなんてすごいなぁ。


「リベル殿、所長から話は聞いていますよ。貴殿が開発したという魔力生成パネルには、我々も度肝を抜かれました」

「はは……ありがとうございます」


 キラキラとした目で見てくる男性に苦笑いで返す。


 こうしていきなり褒められると、なんだか気恥ずかしいね。


 僕の存在はラボ内で広まっているらしく、やり取りを見ていた他の研究員達も続々と挨拶にやって来た。


 しばしの挨拶タイムを過ごした後、眼鏡の男性から所長室へと案内してもらう。


 所長室内にはミルミーさん専用の個人ラボが併設されていて、そこが彼女の居場所とのことだった。


「――リベルさん! よく来てくれました!」


 ノックで顔を出したミルミーさんは、目の下に薄っすらと隈を作っていた。


 話を聞いたところ、睡眠を削って魔力生成パネルの研究に没頭していたみたいだ。


「まだまだ分からないことだらけですけど、だからこそ燃えるというか、なんだか楽しくなっちゃいまして……」

「はは、体調を崩さない程度に頑張ってね」

「はい、気を付けて研究します!」


 拳を握りながら言うミルミーさん。


 目の下の隈とは対照的に、その瞳は生き生きと輝いている。


 少しずつだけどパネルの仕組みも理解できているみたいだし、遠くない未来に何かしらの成果が出るんじゃないかな?


 僕にとっても興味深い話だから、内心結構期待していたり。


 ちなみに魔力生成パネルといえば、最近屋敷の近くに大量のパネルを設置した。


 きっかけは新しく開発した隠蔽魔法。


 森の入り口付近に作ったクラフト小屋がバレないかふと心配になり、急ごしらえで開発したんだけど、これってパネルを隠すのにもぴったりなんだよね。


 パネルの設置に向いた日当たりのいい場所――周りに遮蔽物のない場所でも、安全にパネルを設置できる。


 そんなわけで、屋敷の庭先から少し進んだ開けた場所に、ずらりとパネルを並べてやった。


 僕以外にはただの草むらに見えるはずだから、バレる可能性はほぼゼロだ。


 一応、万が一の場合に備えて、パネルをクラフト小屋の近くに緊急転移させるシステムも組み込んでおいた。我ながら隙のない二段構えだね。


 閑話休題。


 ミルミーさんとしばし所長室で話した僕達は、その後ラボ全体を簡単に案内してもらった。


 チェスターで買ったという見たことのない魔道具なんかもあって、なかなか興味深かったよ。


 もしまた機会があれば、じっくりと見学させてもらいたい。


 それと、ロロネアのピピ丸繋がりで、ミルミーさんが契約している精霊も見せてもらった。


 彼女が契約しているのは、フサフサの毛玉みたいな精霊。名前はポポさんだ。


 森霊族の名前自体も変わってるけど、ロロネアのピピ丸といい、精霊の名付けにも癖があるよね。


 ポポさんの属性は風ということだが、契約者の魔力を増やすサポートタイプなので、属性自体に大した意味はないらしい。


 ミルミーさんは元々魔法全般が得意みたいだし、自分に合った精霊を選んだということだろう。


 ポポさんのフワフワ感もなんとなくミルミーさんっぽいし、お似合いのペアだと思う。


「――では、また今度」

「うん、じゃあまた」


 ミルミーさんの見送りでラボをあとにした僕達は、本来の予定に戻り里の中心へ向かうのだった。




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