第11話 遊び心は大事
汗を適当な言い訳で誤魔化し、朝食をとった僕は、ほどなくして屋敷を出発する。
今日はほとんど1日休みなので、目的地は2日ぶりの公園だ。
庭先から結界の外に転移した後、ジェットバイクである程度森の中を進み、屋敷から十分な距離が取れたポイントで離陸する。
少し前まで森の中はスピードシューズで走ってたんだけど、意外とジェットバイクでも行けるんだよね。
直感的に動かすことができるから、慣れればめちゃくちゃアクロバティックな運転が可能なのだ。
何より、バイクで木々の間を駆け抜けるのが、スリル満点で面白い。
敢えて難しいコースを選んだりする辺り、我ながら【遊者】だと感じる。
ただ、飛行したほうが圧倒的に速いので、基本はこうして飛ぶわけだけど。
「……知らせる君2号は要改良だなぁ」
空の旅を楽しみながら、苦笑する。
センサーの作動を受信機で感じ取って、即座に転移。
まあいけるだろうと思ってたけど、予想以上にもたついてしまった。
僕のテンションが上がっていたのもあるにせよ、あのやり方ではいずれ事故が起きる。
なんなら既に起きたのかもしれない。
来訪者対策をするのであれば、もっと徹底的にやる必要がある。
僕の反応速度依存じゃなくて、全部自動化しなきゃだろうなぁ。
センサーと転移の発動を紐付ければ、今朝のような事故は起こるまい。
できれば、所持中のアイテムを自動で仕舞う機能も追加したい。
たくさんの魔遊具を出している時だと、どうしても焦っちゃうからね。
「そろそろロロネアに伝えとこうかな」
思考の海から浮上し、知らせる君(1号)のボタンを押す。
距離や結界が問題にならなければ、ロロネアに通知がいったはずだ。
そしてそれから10分後、目印のビーコンを頼りに公園へ到着する。
さすがにまだ早いからか、公園にロロネアの姿はない。
「ちゃんと通知がいけばいいけど」
いや、通知がいっても向こうが忙しければ来れないか。
早急に相互通信可能な魔遊具を用意しないとね。
そんなわけで、通信の魔遊具の設計図を考えること数分。
ふと気配を感じて顔を上げると、フェンスの向こうにロロネアの姿が見えた。
彼女は忍者のように木々を飛び移り、フェンスの上を飛び越えてくる。
「待たせたな。結界の中にいたんだが、ちゃんと魔力を感じたぞ」
「よかった」
知らせる君(1号)は無事に作動したようだ。
「そういえば、前もさっきみたいにフェンスを越えてきたんだよね? もしかして、モンスターによっては入って来れちゃったりする?」
「ん? まあそうだな。可能性としては十分ある」
「だよね。上に結界でも張って、別途出入り口でも作ろうかな」
「ふむ、リベルは結界魔法も使えるのか?」
「うーん……たぶん?」
結界を張った経験はないけれど、庭先の結界は何度も目にしている。
イメージ自体はバッチリだし、本質的には防御フェンスと大差ないんじゃないかな?
ただ透明になったっていうだけで。
「とりあえずやってみるよ」
僕は魔力に意識を集中させて、結界の生成を開始する。
さほど複雑な仕組みではないため、クラフト台は使わない。
イメージは、公園の上部をぐるりと覆うドーム状の結界。
ジェットスライダーの高さが結構あるので、ドームの高さには余裕を持たせておこう。
「あ、でもこのままだと空から降りてくるときに邪魔だね」
あらかじめ登録済みのものは素通りできるようにしようか。
僕の魔力を登録しておけば、僕の魔力で稼働するジェットバイク等も通れるはずだ。
「よし、こんなもんかな」
「もうできたのか?」
「うん、バッチリだよ」
「相変わらず不思議な力だな……」
ロロネアはそう言って苦笑する。
彼女の前では【遊者】の力をあけすけに使っているけれど、特に詳細については訊かれていない。
彼女なりの配慮にせよ、特に気にしていないにせよ、とてもありがたいスタンスだ。
「それじゃ、出入り口もぱぱっと作っちゃうね。場所はあっちのほうでいい?」
僕はロロネアが来た方向を指で示して言う。
「問題ない」と答えてくれたので、フェンスの一部を結界に置き換える。
ぱっと見は普通に通れそうだけど、防御力の高さはフェンスと変わらない。
「ロロネア、ここの結界に手を触れてもらっていい?」
「ん? これでいいのか?」
「オーケー、ありがとう」
「……?」
最後に、ロロネアの魔力を登録し、結界内外への移動許可を出す。
「これでロロネアと僕だけが通れる出入り口の完成だよ。えーと、ちょっと待ってて……一応、上に張った結界もロロネアが通れるようにしといたから、面倒だったらさっきみたいにフェンスを越えて来てもいいけど」
「ふむ。それって出入り口の意味はあるのか?」
「うーん、正直飾りだね。でもいいんだよ。入り口があったほうが雰囲気出るでしょう?」
「なるほど。そういうものか」
「そうそう」
だって入り口がない公園って、めちゃめちゃ変じゃん?
いや、そもそもこれは公園なのかという話ではあるんだけど……
とにもかくにも、遊びにおいては雰囲気作りも大切なのだ。
これは、僕が目標としている遊園地作りにも言えること。
常日頃から遊び心を忘れないのが【遊者】の在り方だ。
ロロネアの言葉に頷いた僕は、ジェットスライダーに視線を移す。
「よし! じゃあさっそく始めようか」
「おお、改良だな! 待っていたぞ!」
キラキラと目を輝かせるロロネア。
本当は通信の魔遊具も作っておきたかったんだけど……さっきからロロネアがチラチラ見てるんだもん。
わざわざ来てくれてるんだし、ここでお預けにするのは野暮だよね。
通信の魔遊具は休憩を挟んだ時にでも作ろう。
跳ねるように付いてくるロロネアを見た僕は、笑いながらそう思うのだった。