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こども

作者: 大熊 なこ

「妊娠3週間ですね」

 医師は、なんともないような口調でその事実を私に伝えた。言葉が出なかった。今の彼とは、1回もゴム無しでしたことがない。

「そうなんですね」

 私はなんともないような口調で、しかし微かに指先を震わしながら答えた。今、自分の中に、命がいる。そう思うと、寒気がした。自分の、こども。どんなに醜い子が生まれてくるのだろうか。私みたいに汚い奴から産まれてくるのだ。汚いこどもに決まっている。セフレとは、ゴム無しで何回もやった。


 病院の外に出ると、木枯らし、静かな寒さが肌を伝う。この先、どうすればいいのだろう。


 公園のベンチに座り、空を見上げる。

 日はどんどんと暮れてゆき、世界が紫とオレンジというキモイ色に包まれていく。オレンジが私で、紫が母だった。昔、そんなことを思った。

 こんな感じの、寒い日だった気がする。私はまだ小学生にもなっていなかった。母と買い物に出かけた帰り、公園の遊具で遊んでいる時。ふと空を見上げたら、半分が紫、半分がオレンジになっていた。紫の方に母が立っていたから、母の色は紫なのだと、そう思った。当時は気づかなかったけど、きっと私はその時オレンジのほうに立っていた。だから、娘の色はオレンジなのだ。


 自分のお腹をそっと触ってみる。なんとなく、暖かい。どんどんと暮れていく空を感じる。いつの間にか、涙が出ていた。人生の重さと不合理を同時に味わった涙である。

「どうしよう……」

 怖くて仕方なくて、呟いた。空を見ると、一番星が輝いている。その瞬間、2番、3番、4番……と、紫の中に星の光が次から次へと注がれていった。

 あの星たちの、どれもこれもが恒星で、太陽みたいに輝いている。月の光も次第に大きくなっていく。太陽は、暮れてしまった後でも月を通じて光をくれる。

 あ、そっか。いつだって暗闇を照らしているのは、太陽のような光なんだ。その瞬間、頭の中に走ったイメージ。この公園で、私と子どもが遊んでいる。オレンジの方に子どもがいて、紫の方に私がいる。いつだって、子どもが私を照らしてくれる、そんな気がした。私はこのお腹の小さな温かみに、未来の子どもを想像したのだ。




 彼氏とセフレに電話をかけた。

 どっちとも、縁を切った。彼氏は怒っていた。おろせと言った。セフレは平然としていた。おろせばいいと言った。私はこの子と生きていこうと決めた。

 これから、どうしよう。とにかく今日は、この星をながめながら実家へ帰ろう。そして明日、朝焼けを見よう。私を照らす光を見に。


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― 新着の感想 ―
[一言] しいなここみさんの活動報告からきました。 なんとも言えない読後感であとを引きます。 やはり紫とオレンジの対比がいいですね。 オリジナリティのある表現だと思います。
[良い点] 男であり、親ではない自分には分からないことですが、女性は母になると変わると聞きます。 作中の言葉が印象に残りました。 母は紫で、娘はオレンジ。 きっとこの女性は、今この瞬間に、オレン…
[良い点] これは名作です。・゜・(ノ∀`)・゜・。 >オレンジが私で、紫が母だった。 唐突なように出てくるこの文章が、後にまで尾を引いて、作品世界をキモくもモヤ明るい色で彩ってる! これは事件…
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