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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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98 養子縁組

ブクマ、評価ありがとうございます。


 エクトルの悲しい話を聞いてしまい、暗くなった雰囲気を入れ替えようと新しくお茶を入れ直しイーサンに勧めた。

 

「それで、ライアンの事だが……」

 

 言いにくそうに切り出すとジッと私を見つめた。

 

「いずれ最ダンを去ることになるだろう」


「……そうですね」

 

 私は自分のカップに目を落とした。

 

「いいのか?」


「いいも何も、私が決める事ではないですから」

 

 イーサンはカップに添えられた私の手にそっと触れた。

 

「今ならまだ間に合うんじゃないか?」


「なんの事です?」


「君はライアンの事を……」

 

 イーサンの温かい手から逃れて立ち上がると背を向けた。

 

「別に私には関係ないですよ。最ダンの人手がまた足りなくなるのは困るでしょうけど。

 ただ……ライアンはすぐにひとりで戦おうとするから。そこが心配なので、彼が戦う時は付いて行こうと思ってるんです」


「付いて行くって……どこへ?」

 

 イーサンが驚いた声を出した。

 

「どこでも。依頼された魔物討伐とか……いずれ来るかもしれない魔王を倒す時とか」

 

 そうすればいつでも傍にいれるだろう。

 

 彼が勇者になっても……

 

「そうだ!エクトルに頼もう」

 

 ピンとひらめきイーサンを振り返った。

 

「もういいですか?急用が出来ました」


「あぁ、構わない。行っておいで」

 

 戸惑ったあと優しい笑顔のイーサンに見送られ私は部屋に戻るとドマニを連れ出した。

 

「何だよ急に、部屋がまだ片付いてないんだ」

 

 まだ不機嫌そうな顔だがまぁいいや。

 

「お城へ行く道知ってる?」


「知ってるも何も南に行けば着くだろう」


「じゃあ行こう」

 

 私はドマニと手を繋ぎ歩き出した。

 

「いやいや、南はこっちだから」

 

 すぐに引き戻され反対方向へ向かった。テヘペロ。

 

「やっぱりユキにはオレが付いていないと駄目だな」

 

 急に機嫌がなおり楽しそうに私の手を握ったまま乗り合い馬車へと向かった。

 

 乗り合い馬車は貴族街手前で止まりそこから先へは入れないが、貴族の屋敷で働く人なのか結構な人数が馬車をおりていく。

 私達もそれに続き同じように貴族街の中へ向かって歩き出した。

 

「どこ行くんだ?城を見に来たのか?」


「城へ入るのよ、ナイショで」

 

 私とドマニは小声で話すと城の正面を避け壁伝いに端まで行くと例の小道へ入って行った。

 

 周りを慎重にうかがい登録した者がいなければ見えないドアの前に行くとそっと開けた。

 

「何だよここ!」


「静かに、手を繋いでて」

 

 ドマニの手を引き城のアプローチの隅を進んで次のドアを開ける。

 

「秘密の通路か、おもしれーけど見つかったら殺されるやつだろ」


「多分大丈夫、のはず」

 

 通ってもいいと言われたが今日は呼ばれたわけではない。出来るだけ誰にも見つからない方が良いだろう。

 

 静まり返った廊下を進みエクトルの部屋へと急いだ。

 

 恐る恐るドアをノックしたが返事が無い。おかしいなと思いそっとノブを持つと急にドアが開けられた。

 

『うわぁ〜。』

 

 私と手を繋いでいたドマニも一緒に部屋へ引き込まれドマニは転んで、私は固い物に鼻をぶつけて受け止められた。

 

「何だかお前な気がした」


「痛……い。なんでライアン?」

 

 抱き止められながら鼻をさすり見上げた。

 

「オレはいい。お前がここに勝手に来る方がおかしいだろ」


「そんな事ないよ、ねぇエクトル様?」

 

 私は可愛く小首をかしげエクトルを見た。

 彼は嬉しそうにニッコリ笑い頷いた。

 

「もちろんだ、さぁここへ来なさい」

 

 座っていた自分の横へ私を呼ぶ。私は起き上がったドマニを連れて傍に行った。

 

「じいちゃん、こんなとこに住んでたのか。勇者のわりに狭い部屋だな」

 

 ドマニも面識があるらしく気後れなく話している。

 

「お前も来たのか、座って菓子でも食べてなさい。ユキは話があるようだ」

 

 ドマニを座らせ私に向き直る。

 

「ワシに会いに来てくれたのか?」

 

 嬉しそうに笑う顔にニッコリ微笑んで答える。

 

「おい、あんまり近づくな」

 

 ライアンが心配そうに側によって来た。セクハラジジイだからね。

 

「大丈夫よ、ね?エクトル様」


「今日は機嫌がいいようだな、一体どうしてだ?」

 

 エクトルは早速私の手を取ると優しく握った。

 

「実はお願いがあって」


「なんだ?言ってみろ、ユキの頼みはなんでも聞いてやるぞ」

 

 握られた手にもう一方の手を添えグッと近寄る。

 

「ドマニと養子縁組して欲しいんです」

 

 流石の勇者エクトルも目を見開いた。

 

「お前、何言ってるんだ?」

 

 次期勇者も驚いた声を出す。

 

「だって、私の平民の知り合いでこんな事頼める人他にいないもん」


「オレがいるだろ」

 

 ムッとして睨まれた。

 

「あなたは駄目よ。いずれ貴族になるかも知れないもの」

 

 そう言うと黙り込んだ。

 

「ユキ、そうキツイ事を言ってやるな」


「でもドマニはすぐに養子縁組が必要なんです。だけど私の子になるのは嫌だって言うから」

 

 ライアンが意地悪そうにフンと鼻を鳴らした。

 

「お前じゃ頼りないんだろ」


「馬鹿、違うよ」

 

 すぐにドマニが言い返し、ライアンを睨んだ。

 

「じゃあ何故嫌なの?」

 

 睨み合う二人を見比べながら尋ねた。

 

「ユキはオレが面倒見るって言ったじゃねえか。子になったらまるでオレが面倒見られてるみたいだ」

 

 ちょっと頬を赤くしながら口を尖らせる。

 大人三人で顔を見合わせ笑った。

 

「なんだよ!笑うなよ!」


「ごめん、だって嫌われてるのかと思ってた」

 

 ドマニの側へ行きキュッと抱きしめた。

 

「最初に言ったろ、面倒見るって」

 

 ドマニは私の背中をポンポンしながらため息をついた。

 

「オレが居なくちゃ街も歩けねぇくせに」

 

 ホントそれね……それいいねぇ。

 

「それで、エクトル様、駄目ですか?名前だけでもいいんです。私が責任持ちますから」


「構わん、こんな年寄の名で役に立つならいくらでも使いなさい」


「師匠!いいんですか?」


「ワシには子はおらんからな。老後の楽しみだ」

 

 すでに老後に突入していると思うがそこは置いておこう。

 

「ドマニもいいよね?」


「あぁ、じいちゃんは強いし優しいからな」

 

 何とか養子縁組先も決まりホッとした。

 

 菓子を食べ終わり暇そうにしているドマニに、エクトルは庭へ続くガラス戸を開けると出る許可を与えた。

 

 子というより孫を得た勇者が庭ではしゃぐドマニを嬉しそうに部屋から眺めている。

 

「これでお前もあいつの面倒を見る責任が出来たんだから、つまらない事を言い出さなくなるな」

 

 ライアンが少し安心したように言った。

 

「なんの事?」


「オレに付いて来るって話だよ」


「別に諦めてないけど」


「何言ってる。お前になにかあったらアイツはどうする」


「ドマニはしっかりしてるし、何とかなるよ」


「それは無責任だろ!」


「違うわよ、何言ってるの?馬鹿じゃない。明日死ぬかどうかなんて誰にもわからないのよ。現にドマニの両親は亡くなってるんだし。でも絶対に子を育てていくってつもりで生きてたんだよ。それとどこが違うのよ」

 

 言い合いになりエクトルが割って入った。

 

「まぁまぁ、いい加減にしなさい。二人共間違った事は言っとらん感じがするがの。ワシも子がおらんから正解がわからん。だがユキがライアンに付いてくれるなら安心だな」


「師匠!?コイツがスキル持ちだからってオレについてこれるレベルじゃないのはわかっているでしょう。足手まといですよ」

 

 チッ、ハッキリ言いやがって。

 

「だから、レベルは上げるって言ってるじゃない」


「お前には無理だ、まず迷宮が抜けられない」

 

 ライアンが馬鹿にしたように笑う。

 

「馬鹿はあなたよ。ちゃんとレベルを上げてみせるから、待ってなさい」

 

 私も笑い返してやった。

 

 

 

 

 

 

 

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