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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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89 離れ離れ1

 レブの手を取った瞬間に濁流に襲いかかられた。

 流れに足を持っていかれ目の前のレブがオレの手をグッと握ったかと思うと一瞬クラリとし、気がつくと泥水にまみれ平らな床に倒れていた。

 ゴホゴホと咳込み振り返るとレブが体を縮め同じように咳込んでいる。辺りを見回すとそこは見覚えのある場所だった。

 

「カトリーヌの魔法陣か……」

 

 そこはいつもの屋敷の地下にある魔法陣だった。

 

 転送したのか!?

 

 咳がおさまったレブが起き上がり引きつった顔でオレを見た。

 

「転送できたのか!ユキは?」


「まだデルソミア国の川の側でしょう」

 

 レブの胸ぐらを掴むと持ち上げ立たせた。

 

「すぐに戻せ!」


「出来ません、魔法陣はもう濁流に流され使い物にならないでしょう。緊急脱出用の布に描かれた物だったので」


「そんな物があるなら何故最初から使わない!すぐにオレをデルソミア国に送り込め!」

 

 掴んだ手に力を込める。

 

「く……最初は馬車を送った魔法陣でお二人だけ送るつもりだったのです。しかし子供がいた、これを置いてはユキ様が行ってくれないと判断しました。私が受けた命令はお二人を(・・・・)国に戻す事、起動させる為にケイが必要で、もう一つ作るには一人では直ぐには難しく、後始末も……」

 

 更に締め上げた所で上から声が聞こえた。

 

「手を離しな!私の奴隷だ、殺すんじゃない」

 

 カトリーヌだった。オレはグッとこらえレブから手を離した。

 

「ユキはどこだ」


「まだデルソミア国だ、早くオレを送り込んでくれ」

 

 階段の上のカトリーヌと話しながら腰の剣を確かめ無い事にゾッとした。川に流されたんだ。

 

「勇者に与えられるはずの剣を無くしたか?エクトルから引き継いだやつだろ」

 

 察したカトリーヌは鼻で笑い上に来いと促す。喉元に手をあてながらレブが立ち上がりヨロヨロと階段を上がるのに肩を貸しながら一緒に階段をのぼった。

 

「ユキだけでもすぐに送り返すべきだったんだ」


「あなたを助ける為に引き返したユキ様が素直に聞くとは思えませんでした」


「オレが説得した」


「今のままの関係では無理でしょう」


「何が言いたい?」


「囲うだけ囲って手も出さない若造の言う事を誰が聞くと思います?」

 

 階段を上がりきった所でレブを突き放した。床に倒れたレブがヘラっと笑った。

 

「さっさと着替えて部屋に来い」

 

 カトリーヌと入れ違いにドマニとフリオが駆け寄ってきた。後ろにケイもいた。

 

「ライアン!無事だったか、ユキはまだ下か?」

 

 ドマニがキョロキョロとユキを探す。

 

「ここにはいない……」


「まさか死んだのか?」


「いや、まだデルソミア国だ」


「置いて来たのか!ユキを一人ぼっちにしたのか?何やってんだ!!」

 

 ドマニが叫んでオレの体を激しく揺さぶる。慌ててフリオがドマニを引き離した。

 

「事情があるんだろ。とにかく休ませてやれ、怪我もしてる」

 

 濁流に一瞬でも巻き込まれたせいで二人とも傷だらけだ。ケイにポーションを渡され体中に振りかけるとシャワーを浴びに行き、着替えるとカトリーヌの部屋に向かった。

 

 

 

「レブの判断は間違っちゃいない。だが最初からユキだけでも送れば良かったのは確かだな。そこはライアンにも責任があるんじゃないか?」

 

 カトリーヌは優雅にお茶を口に運びながらオレを睨みつけた。

 

「オレの失態で構わない、それより早くデルソミア国に送ってくれ」


「そんなに取り乱したままのお前を送ることは出来ない。第一、デルソミア国にうちの魔法陣はもう無い。あそこは警戒が厳しいし利益をうむ土地でも無いからね、一か所だけ設置してあったのに今回ケイとレブを送り込んだ後、始末するように命じた」


「クソッ、どこが近いんだ」


「川を越えたならエストートが近いだろ。あの娘が一人でそこまで無事に行けるとは思えないがね」

 

 そこまで話した所でマルコさんが部屋へ入って来た。

 

「ライアン、無事だったのか。心配したぞ」

 

 オレの肩に手を置きいつもの穏やかな顔で見つめられる。

 

「すみません……ユキがまだです」


「確かにそれは心配だがまず一晩ゆっくりと休みなさい。ユキはまだ生きてる、大丈夫じゃ。そうじゃなカトリーヌ」

 

 マルコさんがカトリーヌを振り返る。

 

「契約の石で生存とおおよその場所はわかる。まだ川からそう遠くない所にとどまってる。恐らく野営でもしてるんだろ」

 

 そうだ、ユキは一人じゃない。

 

「信用出来ないシーリという女冒険者と一緒なんだ。恐らく誰かに指図されてオレたちに同行していた」


「どこかに誘導するつもりなのかも知れないがとにかく今は動いておらん。調べはこっちでやるから頭を冷やせ」

 

 マルコさんにそう言われ仕方なく自分の部屋に戻る為カトリーヌの屋敷を出た。

 

 最ダンが見える所まで来ると店の前にイーサンが立っているのが見えた。オレに気づくと一瞬笑顔を見せたがユキがいない事に気づくと顔を曇らせた。

 

「ユキはどうした?」


「いない……置いてきた」

 

 そう言うと肩を掴まれ詰め寄られた。

 

「死んだんじゃ無いだろうな」


「今は生きてる」


「どこだ?私が行く」


「無理だ、明日オレが行く」

 

 そう言ってイーサンの手を離した。苛立たしそうに睨みつけてくる。

 

「よく冷静に明日まで待てるな」


「オレが冷静に見えるならお前も駄目だな」

 

 これ以上相手にしてられない。

 

 路地に入り階段を上り廊下を進み部屋に入るとシャワールームへ通じるドアを見た。

 

 この向こうに居るはずだったんだ。

 

 ベットに座ると川での出来事を思い返す。

 

 どうしてユキをこっちの馬に乗せなかったんだ。近くにいれば一緒に帰れた。

 いや、きっとユキだけでも岸に向かわせたろうから結局離れた。レブを助けなければ良かったんだ。

 駄目だ、オレが行かなければきっとユキが行ってた。

 だがそうしたらユキとレブが帰って来れたんだ。オレ一人なら何とかなった。

 いや……駄目だな。オレを助けにユキは引き返してくる。

 

 ベットにバッタリ倒れると奴らの施設でユキがとんでもない所から現れた時の事を思い出した。

 

 最初は幻覚かと思った。

 想定よりも多くの魔物が次々と現れ攻めあぐねていた。

 何とか数を減らしてもまたすぐに魔物が追加され回復するスキもなく次第に疲労していた。そろそろ逃げる手立てを考えなくてはこのままでは危ないと思っていた時、ユキが魔物と一緒にこちらへやって来た。

 

 何故笑ってるんだ?

 

 オレを見て呆れた顔をしてすぐに笑った。口にハイポーションを突っ込まれその不味さに顔をしかめるとまた笑った。釣られてオレも笑った。

 

「やっぱりひとりじゃ駄目じゃない」


「もう終わるところだったんだ」

 

 二人で脱出した後レブが合流し何とかその場は逃げ切った。

 

 引き返して来るなと言うと今度から一緒に戦うと言い出した。これには頭を抱えた。

 

 一体どういう思考なんだ?

 

 宿で一緒のベットに寝ても平気だと口にし背を向けていたが耳を赤くしていた。

 思わず触れそうになったが、グッと堪えて黙って寝たふりをするとユキは安心したように眠り、オレもユキの体温で温められたベットでグッスリと眠った。

 

 気持ちが……無いわけじゃない。

 

 だがどうこうするつもりは無い。レブが余計な事を言っていたがそこを変えるつもりはない。オレはこの先ずっと魔物と戦うという事を決めている。

 

 そんな奴と一緒にいたって仕方ないだろう。

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