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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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88 潜伏4

ブクマありがとうございます。

 再びシーリの後ろに乗り込み馬を進めた。

 

「今日中に川を越えたほうがいいからちょっと急ぐよ、天気が悪そうだ」

 

 空を見上げ少し速度を上げる馬上で彼女のお腹に手を回し馬に揺られながらチラチラ装備を確認する。剣を腰に差し編み上げのブーツにマント、普通の冒険者の出で立ちだ。

 

「シーリってこの辺の人なの?」


「いや、もっと西よりの辺鄙な村出身だよ。ここらの方が仕事が多いからね」


「女性が一人で危険じゃないの?」


「まぁ、冒険者だからね。一応レベル45なんだ。この国のダンジョンだからあまりいいもんじゃ無いけどね。いつかプラチナ国に行ってどこでも通じるレベルを取ってみたいよ」


「ダンジョンはやっぱりプラチナ国が一番なの?」


「そうだね、なんと言ったって勇者がいる国だからね」


「そうなんだ」

 

 いくらあまり評判が良くなくてもレベル45なら相当腕に自信はありそうだ。プラチナ国でも上級は間違いないだろう。

 

「あんた達、駆け落ちだろ?」


「は?」

 

 シーリがにやけた顔で振り向いた。

 

「あ、あの……」


「まぁまぁ、話さなくてもいいよ。私には関係ない事さ。仕事が出来ればそれで良いんだから。今どき馬車しか利用してないなんてアンタどこかのお嬢様なんだろ?冒険者が相手じゃ父親が反対したとか、そんなとこだろ」


「えぇ、まぁ……」

 

 違うんだけど話が出来すぎてて面白すぎる。よくある話って感じなのかな?

 

 必死に笑いをこらえた。

 

 

 デコボコとした道を慎重に進み話に出た川へさしかかった。シーリは一旦馬を下りると川の様子をうかがっている。

 後の二人も馬を下りライアンは私の元へ、レブはシーリと一緒に川を安全に渡れるか確認していた。

 

「駆け落ちだって」


「ふん、その設定で行こう」


「私、お嬢様だって」


「世間知らずだから丁度いい。他は?」


「ここよりもっと西の村出身。予備の武器はこれより小さいナイフかな、足に数本ベルトに差してるのが見えた。この国のレベル45だって。それで、何故あやしいのに話しに乗ったの?」


「その話が本当なら少なくともレベル40以上だってとこか。敵は見える場所に置く方がいい。どうせこのまま何も無くエストート国までは行けないだろう」

 

 ライアンが腰に手を回してきた。

 

「なに?」


「見られてる、アウロラ笑え」

 

 笑顔を強制されムカつく。

 

「ファウロスってプロポーズしてくれた時もっと情熱的だったのに。今日は冷たいのね」


「あの時みたいにキスでもしようか?」

 

 チッ、ムカつく。してないし。

 

「遠慮しとく」

 

 ライアンに微笑み頬をそっと撫でるとシーリ達がいる所へ行った。

 

 面倒だな……フリなんて。

 

「渡れそう?」

 

 シーリの隣に行くと一緒に川の上流のほうを見た。川幅は二十メートルほど、結構深そうだ。

 

「いつもより水が多い、山で雨でも降ったかな」


「ですがこれくらいなら渡れそうですね」

 

 レブが水深を確かめながら言う。

 

「そうだな、アウロラは私の馬に乗って、私達は馬を引いて渡った方が良さそうだ」

 

 シーリと私が先頭、ライアン、レブと順番に川を渡り始めた。


 みんな水に膝まで浸かりながら順調に進んでいたが、川の半ばに差しかかった頃、水が急に濁りだし水位が増してきた。

 

「マズイ!急いで!」

 

 上流の方から鈍い音が聞こえる。ザブザブと三人とも必死に足を進めるがもう少しで岸につくという頃には腰まで水に浸かり流れに足を取られそうになる。馬も怯えて興奮し始め思うように進めなくなって来た。

 

「早く!もう水がそこまで来てる!!」

 

 馬上から見ていると、遠く川岸の木々がなぎ倒されながら水が勢いよく迫ってきているのが見えた。

 私とシーリがなんとか岸にたどり着き、続いてライアンが渡りきったが、馬が暴れたせいでレブがまだだった。

 

「馬はもういい!早く来い!」


「行ってください!私の事は放っておいて!」

 

 ライアンの一言でレブは手綱を離し岸へ向かって必死に水をかき分け渡ってくる。濁流が木々を巻き込みながら川から溢れ幅を広げながら迫る。

 

「先に行け!」

 

 ライアンはレブに手を伸ばしながら私達を逃がそうと振り返った。

 

「でも」

 

 躊躇している間にシーリは素早く馬に乗り急ぎ川から離れて行く。私は彼女を止めようと叫ぶ。

 

「待って!まだ……」


「駄目だ、巻き込まれる!」

 

 シーリは私の手を掴み馬を走らせた。

 もの凄い音に振り返った時、濁流はライアンとレブを飲み込みあっという間に彼らは見えなくなった。

 

「嘘!!止まって、お願い離して!」

 

 川から数メートル離れた所で私は馬から飛び降りるともんどり打って地面を転がった。

 

「ちょっと!なんて無茶を!」

 

 シーリは慌てて馬を止めたようだが、私は何とか立ち上がるとそのまま川へ引き返した。


 濁流は激しさを増し川幅をより広げていて近寄れない。

 

「嘘でしょ……」

 

 流された二人を見つけることは出来ず私はブルっと体を震わせた。

 

「アウロラ、危ないからもう少し下がって……」

 

 立ち尽くす私の腕を引きシーリは川から離れた。

 

 

 

 その後も大きな岩や木や周辺の地面をえぐり取りながら濁流は続き、少し離れた場所で呆然とそれを見ていた。

 

「探しに行かなきゃ……」

 

 二人ならきっと大丈夫だ。でも荷物は流されただろうからズブ濡れで困ってるはず、怪我してるかも。

 

 私はよろけながら下流を目指して歩き出しだ。

 

「アウロラ……待って。今日はもう休もう、ね?もうすぐ日が落ちる。この先にいい場所があるからそこで休んで、明日どうするか考えよう」


 シーリは子供に言い聞かすようにゆっくり話している。


「でも、ライアン達は荷物も無いからきっと困ってる」


「アイツら強そうだし旅慣れてそうだったから自分でなんとか出来るよ。あなたがちゃんと体調整えておかないと再会した時に足手まといになったら嫌でしょ?」

 

 そうだ、私がケガしたりするとライアンの機嫌が悪くなる。ライアンの機嫌が悪いとレブが気疲れする。ちゃんとしなきゃ……

 

 シーリに言われるままに馬で少し移動すると風を避けられる岩の前に誰かが野営した跡が残っている所についた。

 

「ここはこの道で通る者がよく使う場所なんだ。そこに座って、すぐにお茶の用意するから」

 

 彼女は手慣れた感じで火をおこし誰かが残していった簡単に石を組んで作った竈門(かまど)に薪をくべると小さな鍋を置いて湯を沸かし始めた。

 竈門の火を眺めて座っていると自分が震えている事に気づいた。体をギュッと小さく縮め手を握りしめて震えを止めようとした。

 

 ライアン達はきっと大丈夫、絶対に大丈夫、絶対に死なない、絶対に生きてる……

 

「ほら、これ飲んで。温まるから」

 

 シーリにカップを手渡されそれを両手で持った。カップは震え中身がこぼれそうだ。

 

「口につけてゆっくりと飲むんだ」

 

 私の手ごとカップを口に持っていかれとにかく飲めと押し付けられた。

 一口で止めようたしたが続けて飲まされ半分以上飲むとやっとカップは取り上げられシーリは私を抱き寄せポンポンと背中を叩いた。

 お茶のおかげか体が温まり、目の前の竈門の火がボンヤリと霞んできた。

 

 あ……何か飲まされた……

 

「大丈夫だ、もう休みな」


「いや……だ……まだ眠り……たくな……」

 

 急激に眠気が襲い私の意識が遠のいた……

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