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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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84 脱出5

 何をそんなに怒っているのかわからない。

 

「下手すれば二人共死んでたんだぞ」


「でも結局助かったんだからいいじゃない。あなただって危なかったんだし」


「いいわけ無いだろ。オレのことはいいんだ、お前ももう知っている通りオレは勇者に準ずる者だ、誰かを守る為に戦う事は使命だ。

 魔王戦ともなれば命を懸ける。もし助けたはずのお前が死んでオレが生き残っていたら何の為に戦ったかわからなくなる」

 

 真剣に見つめられそれ以上は何も言えなくなった。

 

 ライアンは勇者に準ずる者として国の為、誰かの為に戦う事を決めている。

 エクトルもそうだ、結婚もせず、家族も無く、命をかけて戦う。

 私には到底理解できない事だ。いつだって自分の為に生きてきた。

 生きてきた世界が違うからか……だけど本当にそれが正しい事なの?

 

 なんだか居心地が悪くて彼の側から離れた。

 

 日が暮れたが林の中は周りからは見えにくいとはいえ明かりの魔石は目立つ為使えない。ここはまだよその国だ。今夜は月明かりを頼りに夜を過ごす事になる。

 段々と冷え込んでくるとレブが馬にくくり付けてあった毛布をくれた。

 

「今夜は私が見張りますからお二人はお休みください」

 

 見回りをしてくると言い残しライアンをチラッと見た後、レブが離れて行き二人切りになった。

 気まずくなったまま彼の方を見る事もなく黙って考えていた。

 

「いつまで拗ねてるんだ」

 

 沈黙に耐えきれなくなったのかライアンが口を開いた。

 

「別に拗ねてない」


「じゃあ怒ってるのか?」


「怒ってない」

 

 彼はため息をつくとガシガシと頭をかいた。

 

「離れていたら危険だから……こっちに来いよ」

 

 私がいるところよりもライアンがいる所の方が風がしのげそうだ。仕方なく側に行くと大きな木の根本に腰をおろした。

 

「顔色が悪いな、冷たくなってるぞ……」

 

 頬に触れると私が持っていた毛布を取り、広げると頭から被せてきた。自分が持っていた毛布も広げ隣に座ると肩にかけてくれ並んで一緒に(くる)まった。ライアンの体温で温められホッとする。

 

 二人共しばらく何も言わず、体を寄せ合っていた。

 見上げると月には薄い雲がかかり弱い光を放っていた。

 

「ねぇ……」


「なんだ?」

 

 私は少し俯き彼に体を預けた。彼は少し躊躇したようだが私の肩に手をそえた。

 

「エクトルが魔王と戦った時、カトリーヌも一緒に戦ったんでしょ?」


「あぁ……もう一人いたがな」


「じゃあ三人パーティだ」


「そうだな」


「ひとりで戦ったんじゃないのね。だったらライアンが戦う時は私が一緒に行くよ」

 

 静かな林にカサカサと木の葉が風に揺れる音だけが聞こえる。

 

「何を……言ってる……」


「だから、一緒に戦うって言ってるの」

 

 ちょっと顔が熱いかも。

 

 見上げるとライアンは口をあんぐりと開けた後、ガックリと項垂れた。

 

「馬鹿な事を言うな。お前がいたら気が散る。第一レベルが足りない、レベル10のクセに」


「すぐに上げるよ」


「無理だ、方向オンチだろ」


「大丈夫、今日だってちゃんと着いたし」


「どうせたまたまだろ」

 

 当たってる……でも着いたことには変わりない。

 

「おかげで重要な事がわかったもん」

 

 面倒くさそうなライアンの顔がすぐ側にある。

 

「何だよ?」


「奴らが魔物をどうやって次々とあなたのいる方へと送り込んでいたか見たの」


「えぇ!!どうやっていたのですか?」

 

 突然レブが木の陰から出てきた。

 一瞬、皆が固まったがライアンが慌てて私から体を離した。

 

「あ……申し訳ありません。(あるじ)に命じられずっと探していた物でつい……」

 

 つい木陰から出てくるんじゃないよ。せっかく良い感じだったのに…

 

 

 

 

 レブが戻った(飛び出して来た)ので私が見た魔法陣の話をすることになった。

 

「どのような魔法陣でしたか?」


「どうと言われても……大きくて、外側は二重の円でその中にも何か書いてあった。それから、内側に幾つも小さな魔法陣があった。それと……中心に双頭の蛇が書いてあった、それが気持ち悪くて」

 

 私の話を最初は興味深く聞いていたレブが双頭の蛇の事を話すとこめかみに手を添え頭痛を堪えるような顔をした。

 

「なんて事だ、イグナツィですか……」


「誰それ?」

 

 レブに加えてライアンも嫌そうな顔をした。

 

「魔術師だよ。元々はエストート国出身だが国を追われた。転々としていたはずだがデルソミア国に落ち着いていたのか」


「早急にカトリーヌ様に報告しなければいけませんね。嫌な役目です」


「魔術師同士知り合いなの?」


「従兄弟だと聞いた気がします」


「オレは元婚約者だって聞いたぞ」


「とにかくややこしそうなんだね」

 

 魔法陣に自分の物だとわかるようにしておくとか気持ちの悪い自己顕示欲強目の奴らしい。

 

「ところで気になっていたんだけど馬車は既にシルバラについてるって言ってたけどどうやったの?」


「もちろん魔法陣で送りましたよ。最初は壊れた壁から飛び出してきたのでてっきりお二方が乗っていらっしゃるかと思って追いかけたのですが、急に止まると何やら争う声が聞こえて……」

 

 先に逃した馬車に乗っていたドマニが引き返せとフリオに詰め寄っていたらしい。危険だから駄目だと言ったらダガーで脅していたようだ。

 

 ドマニったら、そんな使い方する為に渡したんじゃないよ。

 

「それで話を聞いていたらユキ様の名前が出たもので詳しく伺い、子供がいては面倒だと思い引き返しても戦うのに邪魔になるからと説得しケイと先に行かせました。私だけになってしまい魔法陣を処分する者がおりませんのでお二方をすぐに転送出来なくなってしまい申し訳ありません」


「ほらみろ、レブがいたんだからオレも大丈夫だったんだ、やっぱりお前は引き返す事無かった。そのせいで帰れてないしここから長旅になる」

 

 その事をまだ言うか、しつこい男だ。

 

「うるさいな、みんな無事なんだからもういいでしょ。次からは引き返さない。そもそも一緒に戦うし」

 

 プイッと顔をそらし毛布を深く被った。

 

「はぁ……どうすんだよコイツ」

 

 ライアンの呆れた声とレブが笑いを堪えるようすに何だか安心してその夜はグッスリと眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 肩を揺らされ目が覚めた。

 

「起きろ、そろそろ行くぞ」

 

 ライアンにもたれかかって眠っていた体を起こすと毛布から顔を出した。

 

「寒い……まだ暗いじゃない」


「当たり前だ、早く移動しなければ危険度が増す」

 

 毛布を被ったまま馬に乗せられた。レブの後ろに座ると寒さに耐えられず背中に引っ付いた。彼の体は冷え切って冷たい。

 

「まだ寒いですか?」


「うん、でも大丈夫。こうしてればレブも温かいでしょ」


「えぇ、まぁ。気分は落ち着きませんが」


「何言ってるのよ。百戦錬磨の結婚詐欺師なんでしょ?私が引っ付いたくらいなんとも思わないでしょ」


「色々な意味でそんな事はございませんが、とにかく急ぎましょう。今日のうちに街に入りたいですから」

 

 まだ暗い林の中を慎重にしかし急いで移動して行く。

 

 時々スライムや私の知らない弱い魔物に遭遇したが難なく通過し、夜明けを迎える頃に街道へ出た。

 

街道(ここ)を行けば街に着くのも早いが追手がいれば見つかるのも早い。はずれの道を行くぞ」

 

 ライアンは街道から離れた細いデコボコした道を進んだ。

 二人は先を急ぎ馬を止める事なく進み、日が傾きかけたときやっと遠くに街を囲う壁が見えてきた。王都シルバラの鉄壁とは比べ物にならないが大きな街は自衛の為に壁で囲われている所が多いらしい。

 

「よく地図もないのに街がある所がわかるわね」

 

 レブにもたれながら尋ねた。

 

「ユキ様の契約の石で居場所はだいたい把握してましたから。脱出経路はいくつか想定済みです。この街で休息をとり一旦エストートへ出る予定です。ここからじゃプラチナ国へ直接出るには険しい山岳地帯を抜けなければいけません。ですからそちらの道よりエストートを通る方が安全です」

 

 確かあの国にはいくつかカトリーヌの魔法陣が設置されてるはずだからそれを使うのかな。こんなに短期間でまたエストートへ行くとはね。って言うか契約の石ってGPSも兼ねてるの?

 

 

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