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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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75 行方不明1

 森の中を黙々と進む。

 ライアンは時々上を見上げ太陽の位置を確認しているようだ。私なら同じ所をぐるぐる回ってそう。

 太陽が高い位置に来た頃遠くで水の流れる音が聞こえた。どうやら本当に川があったらしい。これで水は飲める。

 

 やっとの思いでたどり着いた川は激流で濁り飲めたものではなかった。そろそろ丸一日一滴の水も飲んでない。これが暑い時期ならとっくに倒れていただろう。

 

 川幅は広く渡れる気がしない。ライアンは川下に向かい歩きはじめた。

 

「ポーション飲んどけ、まだしばらく何も無さそうだ」

 

 そう言って自分の腰のベルトからポーションを差し出す。

 

「それはあなたが飲んでよ、私は自分で持ってるのを飲むから」


「いや、お前のはギリギリまで使うな。もし離れ離れになった時に困る」


「それはあなたも一緒でしょ」


「こんな時につべこべ言うな、飲め」


「だったらあなたも飲んで」

 

 ちょっと睨みあいになった。

 

「オレはいい」


「なら私もいらない」


「チッ、無理やり飲まされたくなかったら早くしろ」

 

 そう凄まれヒュドラの時に鼻をつままれて口移しに飲まされて事を思い出した。

 

 それは無理!

 

 仕方なくポーションを受け取りクピッと口に含む。

 

「うわ、やっぱりマズい、はい半分こ」

 

 残ったポーションを差出すとライアンは顔をしかめた。

 

「お前なぁ……」


「お願い、心配だから」

 

 きっとこのままじゃずっと一口も飲まないだろう。

 

 じっと見つめると彼はあきらめたようにため息をついた。

 

「わかった……」

 

 そう言って残りをクイッと飲むと私に背を向けまた歩き出した。

 

 ん?ちょっと耳赤いかな?寒さのせいか。

 

 

 

 それからも黙々と歩いていると急に前を行くライアンが歩調を緩め私の隣に来た。

 

「静かにしてろ、誰かいる」

 

 驚いて叫びそうになるのを慌てて我慢した。

 

「どこに?」


「森の方だ」

 

 私達はずっと川を左に見ながら歩いているが水面は少し崖下にあり何かに襲われてもそこへ逃げる事は出来ないだろう。今まで魔物にも動物にも遭遇しなかったのにいきなり人?

 

「沢山いるの?」

 

 誰かに見られてると言われても私には全くわからない。どうやら森の中を並走し付いて来ているらしい。

 

「いや、気配は一人だ。ゆっくり歩いてろ、少し離れるぞ」


「またオトリなの?」

 

 ヒュドラの時を思い出し気分が悪くなる。

 

「お前って食いつきが良くてな」

 

 笑顔でポンと肩を叩かれスッと離れて行った。

 

 もう!こっちは怖いんですけど!

 

 何が出てくるかわからない恐怖を感じながら同じペースで歩き続けた。すると急にガサッと森の方で音がする。

 

「わぁーー!待った待った!殺すな!」

 

 叫び声が聞こえそこへ向かって走って行った。

 

「ライアン!大丈夫?」

 

 草木をかき分けるとそこに苦々しい顔で小さな体を押えたライアンがいた。

 

「子供なの?」

 

 さっき聞いた叫び声もそう言えば子供の声だ。

 

「子供じゃねぇ!オレは冒険者だ!」

 

 ライアンの膝で地面に押さえつけられ両手を後ろ手に掴まれ、足をバタつかせながら必死で抵抗していた。

 

「立たせてあげれば?」

 

 苦々しさを隠すでも無くライアンは軽く子供を起こし、両手は捕らえたままヒョイっと私に向けて立たせた。自分では相手にしたくないのだろう、子供嫌いだって言ってたから。

 

「名前は?」


「簡単に言うわけ無いだろ、オレは冒険者だぞ」

 

 ライアンが無言で掴んでいた腕をねじる。

 

「痛い痛い!止めろ!このヒゲモジャ野郎!」

 

 思わずぷっと笑ってしまう。

 

「ライアン、止めてあげて。確かにヒゲモジャなんだし」

 

 彼は舌打ちして手を緩めた。

 

「私はユキよ、彼はライアン。あなたの名前も教えてよ。自分だけ名乗らないなんて卑怯じゃない?」


「オレは卑怯じゃないぞ!ドマニていうんだ、わかったか、ユキ。お前あいつと別れてオレに付いて来い。面倒みてやるぞ」

 

 突然のお誘いにまた笑ってしまう。

 

「痛いって止めろ馬鹿!」

 

 またライアンが少し腕をねじったようだ。

 

「もう、やめなよ。子供なんだよ」

 

 私はドマニの腕を取りライアンから離した。するとドマニは急に逃げようとして私の手を振り解こうとする。

 

 いや、それくらい想定済みだし。

 

 いくら暴れても私の手を振りほどけず蹴りを入れてきたりしていたが、それも持っていたメイスでコンッと脛を叩くと「イテ!」と言ったきりうずくまった。

 

「お前のが酷くないか?」


「だって暴れるんだもん」

 

 スキルで掴んでいるから逃がす事はないけど暴れられるとウザい。

 

「ドマニってどこから来たの?父さんや母さんは?」


「うっせーババァ!オレは一人前の男だ!親なんか知らねぇ!」


「あぁ?誰がババァよ!」 

 

 私はドマニの腕を釣り上げそのまま激流の川の方に連れて行った。

 

「なんて言ったっけ?」

 

 ドマニを崖の上に突き出しぶら下げた。下は激流だ。

 

「止めろババァ!」

 

 ビビりながらも懲りずに失礼な事を言うドマニに、私は一瞬手を緩めると崖下に落としそうにした。

 

「うわぁ!!て、手を離すな!」


「離さないでください、お姉さん、でしょ」

 

 ちょっと涙目になりながらドマニはこっちを見てる。

 

「離さないで、下さい……」

 

 グッと睨む。

 

「キレイなお姉さん」


「よろしい」

 

 崖から引き上げドマニを地面に下ろすと彼はぐったりと座り込んだ。

 後ろにいたライアンがドマニを見下ろす。

 

「やっぱりお前のが酷いだろ」


「しつけはいるでしょ」


「だけどこいつから見ればお前もバ……」


「あぁ?なんか言った?」

 

 ムカつく事を言われそうで睨みつけるとライアンはふいっと横を向いてすっかり大人しくなったドマニに話しかける。

 

「どこに住んでるんだ?」 


「もう少し先に洞窟がある。そこにひとりでいる」

 

 驚いて聞き返した。

 

「ひとり?村じゃないの?」


「違う、置いていかれたんだ」

 

 ドマニの話しによると暮らしていた村に見知らぬ魔術師が馬車でやって来て食料を買い込んだ。ドマニの村は寂れた所にあって無理やりお金を押し付けるようにして少ない食料を奪っていったようだ。

 

「金置いてくだけまだマシだな」

 

 ライアンがそう言うとドマニはキッと睨んだ。

 

「これから収穫出来ない季節なのに食べ物を奪われたら飢えて死んじまうよ」


「確かにそうだがそいつ等は金を置いていったから訴えられない。訴えても捕まらない。村長もその金でなんとかするだろ」

 

 それでもドマニはその魔術師が許せず馬車に忍び込んでどうにか食料を取り返そうと思ったらしい。

 

「無茶したら危ないじゃない」


「オレは冒険者だから平気だ。村でだってひとりで生きてたんだ」


「村でもひとりって……親がいなかったの?」


「この前死んだ」


「誰か頼れる人はいなかったの?」


「村は皆きつい生活してんだ、そんな余裕なんて無い」

 

 ドマニはプイッと顔をそらした。どう見ても十才くらいだ、薄汚れ手足も細い。

 

「何故ここにいるんだ?」


「馬車に隠れてたけど見つかって、そのまま連れて来られた。あいつら悪い奴だったんだ、誰か殺すって言ってた」


「で、そいつらはどこだ?」


「知らねぇ、オレをここに置いてどっかに行った」

 

 こんなとこに子供を置き去りにするなんて、酷い!

 

「そいつらここで何をしてた?」


「向こうに魔法陣を書いてった。オレは前に魔法陣を見た事があるから知ってるんだ」

 

 ドマニは得意気にそう言った。その方向は私達が来た方だ。魔法陣で転移する為には出発地点と到着地点の両方に魔法陣がいる。私達の到着地点のこちらに魔法陣を設置に来た奴らだったんだろう。

 

「そいつらそっちに行った?」

 

 ドマニは無言でもっと川下を指した。

 

「立て、わかるとこまで連れて行け。お前が捨てられたとこだ」

 

 ライアンに腕を引かれ立ち上がるとドマニは歩き出した。 

 

 

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