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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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74 不審2

 レベル51ともなると流石に緊張感が違う。

 

 ダンジョンそのものの作りも少し趣向が変わり大きな池や崖が作られ複雑で変化にとんだ自然界により近づいた物になっていた。これまで同様、洞窟ではあるが天井も高く広大なドームの様な場所もある。

 

「こんなの再現するって意味分かんない」

 

 私は先を行くライアンを追いながら呟いた。

 

「もともと自然界にあったダンジョンを作り変えてある。このレベルからは他とは繋がって無いが人里離れた国内のどこかに設置されてる。もちろん外部からは遮断された状態だ」

 

 ダンジョンは完全に人工的に作られているものと自然界にある物とに別れているようだ。

 

 初級は十段階が一つのビルの様に縦に繋がった状態でどこかの地下にある、中級も上級のレベル50までは同じ様になっているらしい。

 

 国内のどこかの地下にビル群があるということか。

 

 初級には無い崖や川みたいなのも乗り越え、現場へ向かう赤い光が進む道を急ぐ。

 すると遠く向こうにトロールがゆっくりと腕を振り下ろしているのが見えた。

 

「トロールで呼ばれたの?」


「フム、怪我でもしたのか?」

 

 腑に落ちない気持ちで急ぎ救助に向かった。そこには二人の冒険者がいたがトロールは片膝を付き既に倒される寸前に見えた。

 

「大丈夫か?救助が必要か?」

 

 とりあえずライアンが呼びかけた。私達が手を出してしまえばクリア失敗になるからだ。このままトロールを自分達で倒せるなら救助を拒否するかもしれない。まぁ、不正の疑いが濃厚だからクリアにはならない可能性が高いが。

 

「頼む!こっちは完全に使い物にならんのだ」

 

 戦っている冒険者の一人がそう叫ぶ。もう一人は俯き地面に手をついて全く動かない。意思確認をし、私は早速覚えたてのメイスを握るとトロールの脇腹めがけてひと突きした。トロールは横倒しになりそこをライアンが素早く斬りつけあっさりと片がついた。

 

 トロールが死んだ事を確認して冒険者達の方へ行こうと顔をあげるとさっきまで俯き地面に手をついていた方の冒険者が顔を上げニヤリとしてこっちを見ていた。いつの間にかトロールと戦っていた者もそいつの後ろに下がっている。

 

「悪いな、個人的な恨みは無いしライアンだけの予定だったんだが運が悪かったと思って諦めてくれ」

 

 彼が私を見てそういった瞬間、足もとが光り魔法陣が浮かび上がった。

 

「オレ狙いだったか!」

 

 ライアンが舌打ちして私に手を伸ばしたが一瞬で目の前が真っ暗になった。クラリとしてよろけそうになった時、突然木々が生い茂る森の側にいた。

 慌てて振り返るとライアンとトロールの死骸も一緒だった。どうやらどこかへ転送されたらしい。

 

「なに?どこ?」

 

 状況が飲み込めずキョロキョロと辺りを見回したが、日が陰りかけた森であること以外はなにもわからない。

 

「ふぅ……とにかく一旦引いたか」


「一旦引いたって何?」

 

 ライアンは剣を鞘に収めつつ辺りを伺っているようだ。

 

「さっきの奴が言ってたろ。オレだけの予定だったと。オレをここに飛ばすまでがアイツらの役目だったんだよ。この先いつ、何があるか、もしくはこれで終わりなのか」


「まだ何かあるの?」

 

 吐く息は白く寒さと何もわからない怖さで体をブルッと震わせ身を縮める。ライアンが着ていたマントを私にかけてくれ「とにかく行くぞ」と歩き出した。私もメイスをグッと握ると付いて行く、ここには何も無い。

 

 森の木々の根が地面を覆いデコボコと歩きづらい所を進んだ。どんどん日が落ちそれにつれ気温も下がる。行けども行けども風景は変わらず日はとっぷりと暮れてしまった。

 

「仕方無い、とにかくここで休むか」

 

 何も無い森の中で手近な大木の下に腰を下ろす。

 

「のど乾いた……」


「言うな」

 

 ライアンが苦い顔をする。ここに飛ばされて数時間、ずっと何も口にしてない。

 ベルトにポーションはいくつかあるがこんな何が起こるかわからない所で無闇に使うわけにはいかない。

 地面はじっとりとして冷たく暖を取ろうにも火をつける手段も無い。


 彼は側に立ったまま周りを伺っているようだ。日は暮れたが明かりの魔石があるので暗闇にはならないが魔石の効力にも限界があるだろう。

 

「寒くないの?」

 

 マントを借りている私ですら震えているのにライアンが寒く無いはずない。問いかけに答えないが寒いに決まってる。手をのばすと彼の手を握った。

 

「やっぱり冷たいじゃない」


「別にいい。オレの事は気にするな」


「こんな時にやせ我慢とか馬鹿じゃないの」

 

 私は着ているマントを広げ彼の体にかけた。

 

「座って、その方が引っ付きやすい」


「お前なぁ……」

 

 ちょっと困った様な顔をしているがそんな事気にしてたら凍えてしまう。

 

「子供じゃないんだから早くして、寒い」


「子供じゃ無いからだろ」


「私に食指は動かないんでしょ」

 

 嫌がる彼を座らせ腕を絡ませ体を密着させるとマントをぐるっと被った。

 

「うわ、ライアン冷たい」


「だから言ったろ、離れろって」


「いいから、動かないで。すぐに暖まるよ」

 

 私は多分、顔が赤いだろう。

 熱い頬を見られないように俯き加減で話し、気にしてない風を装った。

 

「誰がこんなことしたんだろうね。馬鹿みたい」

 

 絡めた腕の感触から気をそらそうと話しかける。二人共ダンジョンへ救助に行くだけのつもりだったので薄着だ。

 彼の腕を抱きしめていると冷えたライアンの身体が段々と暖かさをおびる。

 

「オレ関係だからな、すぐわかるだろ」


「目星がついてるの?」


「まぁな……最近不審なことが多過ぎたからカトリーヌがケイとレブに探らせていた。今頃ハッキリしてるんじゃないか」


「誰?教えてよ、こうなったら私も無関係じゃないんだから」


「そうだな、……巻き込んですまんな」

 

 チラッと見上げるとライアンもこっちを見下ろしていて慌てて視線をそらした。

 

「別に、良いわよ、いつもお世話になってる大事な上司ですから」

 

 ちょっと動揺してるかも。

 

「確かにな、カーティ代は一度も払ってもらったことない」


「数回のカーティ代がこれなら釣り合わなくない?」


「初日に夕食も奢ったぞ」


「ホントだ、給料入ったら一杯奢れって言ってた」

 

 顔を見合わせてクスッと笑った。

 

「帰ったら奢るわ」


「楽しみにしてる。借金返済中のお前の貴重な奢りだからな」


「まさか家も買わないのにこんなに高額な借金するなんて思わなかった」


「どんなデカい家買うつもりなんだよ」


「私のいたとこじゃ千五百万で新築の家は買えないわよ」

 

 つい油断して話し、しまったと思った。異世界に居ましたなんて言ったって信じてくれないだろう。不自然に黙ってしまいどうしようかと思っているとライアンはふっと笑った。

 

「変なとこにいたんだな。貴族の屋敷並みじゃないか」

 

 聞き流してくれたのかな?

 

 そこからとりとめもない話をしていたが昼間の訓練のせいもあって私はいつの間にか眠ってしまったようだ。

 

 ライアンて体温高いよ、暖かい……

 

 

 

 

 なんだが心地よい感触に包まれて目が覚めた。頭からなにかに覆われ暖かい。薄っすら隙間から光が差し込んでいて、ゴソゴソと動くと頭にかかっていた布が少しめくられた。

 

「起きたのか、あんまり動くなよ」

 

 目の前にライアンの顔があった。

 

「ハッ!?な、なに!なんで?」

 

 彼の隣に座っていたはずが、私はいつの間にかライアンに抱えられマントですっぽりと覆われ眠っていた。

 

 道理で心地よいハズだよ、抱かれて眠っていたなんて。

 

「ごめん、眠っちゃって」

 

 焦ってライアンから体を離し隣に座った。ホントはすぐにでも走って逃げたいくらい恥ずかしかったが寒くてそうもいかない。

 

「いいよ、オレも寒くなかったから」

 

 一晩私を抱きしめておきながらも全く動揺も見られず平然と話す。言っていた通りやっぱり私には何も感じないようだ。

 

 ……別にそれでいいけど。

 

「交代するよ、少し眠れば?」

 

 きっと一晩中起きていたのだろう。あまり顔色も良くない。

 

「いや、一晩くらい平気だ。後で少し眠る、それより少し移動するぞ、様子が見たい」

 

 今いる辺りは木々が密集していて風が当たりにくい場所だ。拓けた場所を探して移動し、手近にある蔓を使ってライアンは高い木を登り始めた。

 一本の蔓を木の幹に回すと輪にして握り上に向かってずらしつつ器用に登る。

 

 テレビで見た事ある、南国で住民がヤシの木を登るやつだ。すご~い。

 

 見ていて不安になるくらいの高さまで登ると周辺を観察したのかスルスルと降りてきた。

 

「何かあった?」


「いや、ともかくあっちへ向かおう。川がありそうだった」

 

 木々の葉が生い茂りよく見えなかったようだが方向は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

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