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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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69 貴族の求婚

ブクマありがとうございます。

 寒さで目が覚めた。

 

 この三日間で心身ともに冷え切った気がする。

 元はと言えばあのバカ騎士のせいだ。もう二度と会いたくないが今度顔を見たら絶対に殴ってやる。


 心はともかく体が寒いのは季節のせいだな。そろそろ薄いうわ掛け一枚じゃ寒い。冬用のパジャマも必要だ、ティーシャツに短パンはもう無理。だから昨日の内に買い物に行きたかったのに。

 

 朝から愚痴は尽きないが仕事は仕事だ。

 仕事着(キュロット)に着替えて顔を洗おうとシャワールームをノックした。返事が無いのでドアを開けるとちょうどライアンも入って来た所だった。

 

「よう、レベル10。シャワー浴びるから早く出ていけよ」


「おはよう。言われなくてもすぐに行くわよ」

 

 男のくせにネチネチと嫌味なやつだ。

 

 私はすぐに身支度を整えシャワールームを出た。

 

 

 

 

 事務室へ入るともうマルコが来ていた。

 

「おはようございます、マルコさん」


「ああ、おはようユキ……昨日は大変だったようじゃな」


「レベルの事ですか。マルコさんが師匠に言ってくれたんですよね?ありがとうございます、でもなかなか進めなくって」

 

 テヘっと笑ってごまかした。するとそこへイーサンがやって来た。話が聞こえていたのか事務室へ入るなり私のレベルを聞いてくる。

 

「ダンジョンに入ったのか?それで、どうだった?」


「レベル10です。大変でした」

 

 ニッコリ答えるとイーサンは首をかしげた。

 

「え?レベルじゅう……なんだって?」


「レベル10です、10。道に迷っちゃって」

 

 イーサンはあんぐりと口を開いたまましばし静止していたが気を取り直す。

 

「そう言えばもともとここに来たのも迷子で帰り道がわからないって言っていたのだからな。そういう事もあるか」

 

 なんとか自分を納得させていたようだ。三人で待機室へ移動し開店の準備を始めた。

 

「冒険者が沢山来る時期なんですよね」

 

 マルコを振り返りながら尋ねた。

 

「そろそろそんな時期じゃな。今回は昇段試験があまり上手く運ばんかったからのぉ、ダンジョンが壊れた事も魔物が強くなっている事も噂が流れているようじゃからどうなるか」

 

 冒険者にすれば仕事に影響が出るレベル上げをヘタに魔物が強い時期に行うより、少し待って対策が出来てからの方が金銭的にもいいだろう。

 

「今回は冒険者が来店するのは控えめかもしれんな」

 

 イーサンも少し気が抜けた感じで言った。

 

「そう言えばイーサンはいつダンジョンに行くんですか?昇段試験を別で受けるんですよね」


「あぁ、明日の午後ダンジョンの迷宮が変更されるからな。明日の夜に入る予定だ……ファウロスもその予定だ。来るかはわからんがな」

 

 イーサンが意味ありげに私を見て言った。ちょっとムカついて少し睨むように見返すと彼は視線をそらした。

 

 私のせいじゃないからね。まさか求婚とか……本気だったんだろうか?

 

「ファウロスがどうかしたのか?」

 

 やっと支度を終えたのかライアンが待機室に入って来た。

 

「なんでもない」


「ユキに求婚してフラレた」

 

 イーサンがサラッとバラした。

 

「イーサン!酷くないですか!個人的な事を本人のいない所で言うなんて」

 

 コイツやっぱり趣味悪い!

 

「マジか!」


「聞捨てならんの」

 

 ライアンは面白そうに笑った。

 

 コイツも趣味悪い、って言うか知られたくなかった。どうせまた貴族は止めとけってうるさい。

 

 マルコは真剣な顔で腕組して考え込んだ。

 

「ちょっとカトリーヌの所に行ってくる、後を頼むぞ」


「えぇ!待ってください。もう済んだ話ですから、ちゃんとお断りしましたし」

 

 急に話が大きくなりそうで怖い。

 

「貴族が正式に求婚してきたんならそれは契約が必要な事項だ」

 

 ライアンがニヤニヤしながら教えてくれる。

 

 コイツ絶対に面白がってる。

 

「だから断ったって。本気かどうかもわからないいし」


「なんと言って申し込まれたんじゃ?」

 

 マルコが真剣な顔なのでちょっと怖くなり、なんと言えばいいか口ごもっていた。

 

「どこかの貴族の養女となって自分と結婚しろと言っていた」


「イーサン!一体いつから盗み聞きしてたんですか?」

 

 私が説明する前にイーサンが口をはさみ詳しく説明した。

 

「奴がまたユキに良からぬ事をしでかさんか見張っていただけだ……ディランの事も済んだばかりであったし」

 

 そう言われればそれ以上は何も言えなくなった。イーサンなりに気遣ってくれていたという事か。

 

「それは、ありがとうございます」

 

 仕方なく引き下がるとすぐにマルコがカトリーヌの所に行ってしまった。終わった話だと思っていたのに大事(おおごと)になりそうだ。

 グッタリしてソファに力無く腰をおろした。まだ開店前だと言うのにもう疲れ切ってしまった気がする。

 

「心配しなくてもカトリーヌがキッパリ断るだろ。お前が貴族になりたいと言っているならともかく」

 

 ライアンが軽い感じで話す。

 

「私の結婚を師匠が決める事の?」


「お前の後ろ盾はカトリーヌだ。結婚も契約だからお前やカトリーヌに有効だと思えばありえる」


「そうなの!?」


「後ろ盾がどんな役割かわかってなかったのか?」

 

 イーサンが心配そうに言った。

 

「ディランの時に私の言い分を聞いてもらう為だと思ってました。すぐに契約解除出来ると言われて」


「だから、前に言ったろ。一旦オレに振れって」

 

 ライアンが呆れた顔をした。

 

「確かに言われた、だけど早急な話っぽかったし、断ったらエクトルと結婚するしかないのかと思って」


「まぁ、それはオレも話してなかったのが悪かった。弟子にしてやってくれって頼んだ事が求婚とはな、笑える」


「笑えない!こっちは一生がかかってる話だったのに」


「だからってカトリーヌはないだろ。エクトル(師匠)の方が絶対にマシだった。きっとすぐに離婚してくれたさ」


「それもなんか嫌。何かのために結婚、離婚なんて」


「契約なんてそんなもんだろ。必要なら結ぶ、必要なくなれば解除する」

 

 どうやらライアンは結婚に全く意味を見いだせないらしくただの契約の一環らしい、冷めたものだ。

 

「ライアンの考え方は貴族のソレに近いな。平民は情で婚姻を結ぶ事が多いからユキには理解出来んだろう」


「イーサンもそうなんですか?結婚って家同士の契約って感じですか?」


「まぁ、そうだな。一族の存続がかかっておるからな。情が絡むと離婚も多い。割り切っていれば流される事なく冷静に対処出来やすい」


「だったら私は余計に貴族とは無理ですね。自分が貴族になることも想像出来ない」

 

 一族の存続だって言うなら子供だって作らなきゃいけないだろう。ベッドを共にする相手を契約だからなんて考えたくもない。

 

 

 

 店を開店したが全く客は来る気配はなかった。

 気まずい待機室にいる事に耐えられず私は店のカウンターの所にいた。しばらくするとカトリーヌがやって来て詳しい話を聞きたいと言われた。

 

「どんな内容でどんな風に言われた?それによっちゃこっちも対処しなきゃいけない。まったくなぜ黙っていたんだ」


「だって断ったし……言わなきゃいけないことだって知らなかったし」

 

 レブが一緒に来ていて立ち位置からセリフまで詳しくは再現させられた。レブが少しニヤつきながらファウロスの役をしているが、シンクに見立てたカウンターに追いやられ間近に顔が迫っている。仕切りから顔を出してこちらをライアンとイーサンが見物していて、二人共「おぉ……」って顔してる。人のラブシーンを覗き見してる気分なんだろう。

 

「師匠、もういいですか?レブ、近い!」


「すみません、ですが正確な距離感が再現されませんと。役得ではありますが……」

 

 その手の事はプロフェッショナルのレブは慣れた感じだ。

 

「レブはどう思う?」

 

 カトリーヌがこちらを見つつ質問する。

 

「かなり感情的ですね。ファウロス様の独走じゃないでしょうか?お父上のメイソン様はご存知無いのでは?」


「だがユキは平民だからそれらしく迫ったとも考えられる。念の為、問い合わせておくか。断る方向でいいんだね?」

 

 カトリーヌが再確認してくる。

 

「もちろんです。貴族にもファウロス様にも全く興味が無いので」

 

 きっちりハッキリ言っとかないとまた何か言ってこられたら困る。

 

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